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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第二章
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百戦錬磨

「お祖父様! 今日こそは、徹底的に訓練をするんですからね!」


 今日も村へ行こうとするお祖父様の前に立ちはだかり、声高々に宣言した。


「そもそもスーフェちゃんは、どうして冒険者になりたいんじゃ?」

「どうして、って……」


(悪役令嬢の役割をボイコットするため、に決まってるじゃない!)


 けれど、そんなこと言えるわけがない。信じてもらえないことくらい分かっている。


 だから、模範解答とも呼べるそれらしい理由を、わたしは自信満々に答えた。


「わたしは、世の中の知らないことを知りたいんです。そして、あわよくば美味しい食べ物を食べ、なおかつ、いろんな魔法を(盗み)見たいと思っています」


 言い終えたわたしは、もちろんドヤ顔だ。


「そんな覚悟じゃ、冒険者にはなれんぞ」


 冒険者の先輩として、お祖父様は苦言を呈する。もちろん納得のいかないわたしは反論をする。


「わたしの実力も見ずに、そんなことを言わないでください!!」

「なんじゃ、それならこの岩を自分に襲ってくる魔物だと思って、魔法を使うんじゃ。話はそれから……」



----ドッカーンっ



 お祖父様は言葉を失っていた。顎が外れるんじゃないかというほど、ポカーンと開いた口が塞がっていない。


 目の前にあった、半径3メートルくらいの大きな岩の塊は今、見るも無惨なほど粉々で砂利のようになっている。


「えへへ、魔物を殺したら可哀想だと思って、すごく手加減したつもりだったのに、おかしいなあ〜」


 わたしは、てへっと笑いつつも、わざとらしく舌を出す。てへぺろだ。


「え、いや、まあ、これくらい誰にでもできる、のか? ……わしが教えることなんて、きっとないじゃろう」

「そんなことありません! わたしにはまだ知らないことや、できないことが多すぎますから」


 謙虚な姿勢を見せるわたし。そんなわたしに、お祖父様は問う。


「魔物を殺す訓練は」

「致しません」


(だって、魔物を殺すとか可哀想じゃない。危害を加えるような魔物なら仕方がないかもしれないけれど、それに、いざという時はルベにやってもらうつもりだし)


「魔物を解体する訓練は」

「致しません」


(わたしのアイテム袋は、時間停止機能付きの無限収納だから、そのままポイっとすればいいしべ! そして冒険者ギルドにポイっと丸投げするんだから)


「わしの愛人の隠蔽工作は」

「絶対に致しません!!」


(本当にくそじじいだな。って、おお!? 何となく、今までのやりとりに聞き覚えがある気がする!)


 わたしの頭の中で、大好きだったドラマのタイトルコールが流れた--冒険者X


「やっぱり、もうやることはないじゃろ?」

「ありますってば! もういいです。勝手に見させていただきますからねっ!!」


 痺れを切らしたわたしは、お祖父様のステータスを鑑定することにした。


「スーフェちゃんは鑑定もできるのか? だが、鑑定は自分より魔力が高い相手には使えないぞ。さすがに……」

「まあ、お祖父様ったら! 本当に伝説の勇者の称号がついているんですね! それに、スキルに百戦錬磨、身体強化。魔法には四大属性魔法に契約魔法! 契約魔法って、図書館の本には載ってませんでしたよ?」


 難なくお祖父様のステータスを鑑定することができた。もし鑑定ができなくても、【盗】のスキルを使って、盗み見るつもりだったけれど。


「わしの長年の冒険者人生で培った魔力が……」


 さすがにお祖父様もがっくりと肩を落とした。そして、いろいろと諦めたらしい。


「図書館の本は勉強にはなるんじゃが、この世の全てではないんじゃ。世の中には知らない魔法がたくさんあるんじゃ。わしにかけられておった魔術もそうじゃ。わしも魔術に関しては一度だけ魔術師の隠れ里で聞いとったが、まさか隠れ里から外に出てるやつがおるなんてな」

「えっ、それならさっさと、その魔術師の隠れ里に解呪しに行けばよかったのでは?」

「あんなとこ二度と行くもんか! わし一人じゃ、それこそ死んでしまうわっ!!」

「そ、そうなんですね」


 本当に大変だったらしい。わたしは後日、魔術師の隠れ里に行くまでの辛い道のりを聞かされた。もちろん右から左へと聞き流したけれど。


「それにしても、まさかスーフェちゃんの方が、わしよりも魔力が高いとは、ショックで今にも倒れそうじゃ」

「あ! 百戦錬磨って何ですか? 格好良さそうですね!」


(秘技、話題転換の術!)


 お祖父様に詮索される前に、うまく話題を逸らすことにした。


(前世とか神様とかルベのこととか、色々と面倒だしね)


 そんなわたしの思惑通り、お祖父様は百戦錬磨のスキルについて説明してくれる。


「おおっ、お目が高いな。それは本当に良いスキルじゃ。狙った獲物は逃さない」

「まあ! これで凶暴な敵に立ち向かっていったんですね!!」

「ああ、どんな手強い相手でも、わしの手にかかれば、あっという間じゃ」

「相手? 敵じゃなくて? でもまあ、どんな相手がいたんですか?」

「聞きたいか!? そうじゃのう、グラマラスなガブリエラちゃんに、泣きぼくろのセクシーなヒラリーちゃん。おおっ! どこぞの王族の婚約者候補の令嬢に惚れられた時には、さすがに困ったもんじゃった。まっ、このスキルがなくても、わしにかかれば、どんな女性も選り取り見取りじゃがな」

「どこまでも最低ですね。エロじじい」


 わたしとお祖父様の思う百戦錬磨を使う対象が違った。


「なんじゃと!? 男の浪漫じゃ!!」

「女の敵です!! エロじじい!!」


(あれ? この会話にも聞き覚えが……)


 わたしの頭の中にフルーヴ伯爵家の双子の顔が……


(気のせいかしら? うん、気のせいね)


 一ミリも思い浮かぶことはなかった。


「さっきからエロじじいとはなんじゃ。さては、スーフェちゃんはモテないから僻んでるのか?」

「失礼な!! わたしにだって、カルセドニー様という素敵な婚約者がいるんですからね!!」

「そいつだけか? モテない女の妬み僻みは見苦しいぞ」

「エロじじいがよく言う。わたしだって、モテるんですからね!!」


(多分、きっと……)


 心の中では弱気だった。実際に、カル以外の浮いた話など、わたしには一つもない。


「わしと勝負するか? 簡単な勝負じゃ。村に住む異性の心を掴んで、広場に連れてきた人数を競うんじゃ」

「ええ、受けて立ちますよ! 必ず『ギャフン』と言わせてやりますから!!」

「ふぉっふぉっふぉ、ギャフンと言った上に、何でもスーフェちゃんの言うことを聞いてやるぞ」

「言いましたね! 言質取りましたよ!!」


 わたしの「何でも言うことを聞く権利を賭けた勝負好き」はこの時から始まった。後に、たくさんの被害者が出ることになる。


「ああ、何なら契約魔法だって交わしてもいいぞ」


(契約魔法! ラッキー!! 百戦錬磨の他に、その契約魔法も盗み見させてもらうおう! けれど……)


「契約魔法と勝負は、明日行いましょう」


 わたしはお祖父様に提案をした。


「今からじゃないのか? もしや、怖気付いたんじゃな?」

「いいえ、お祖父様に猶予を差しあげているだけです」


 わたしは勝てない勝負などするつもりはない。契約魔法を交わすなら尚更だ。

 けれど、少しだけ作戦を練る必要があった。



 そして、わたしとお祖父様はつまらない爺孫喧嘩で、契約魔法を交わし、どちらがモテるのか、という世界一くだらない勝負を行うことが決定した。


 平和でのどかなコックス村が、明日、戦場と化す。







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