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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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魔法嫌いの真相

 感動の場面に水を差す者が現れた。もちろんわたしに決まっている。


「そう言えば、どうしてお母様は魔法を嫌っていたのですか?」


 お祖父様の呪いが解かれた今、お母様の魔法嫌いもどうにかしておきたいわたしは、今がチャンスだと思い、お母様に尋ねた。


 わたしの言葉に、周囲の時間が止まった。


(え? どうしたのみんな?)


「ス、スーフェちゃん、それは聞いてはいけないよ……」


  お祖父様がわたしを窘めた。


 けれど、もう遅い。そんな言葉がわたしの耳に聞こえた気がした。


 だからわたしは、とてつもなく、どす黒いオーラを醸し出す方へと顔を向け、そして驚く。


(まさか、呪いが移った!?)


 どす黒いオーラを放つのは、お母様だったから。


 もちろん本当に呪いが移ったわけではないし、異形の姿でもない。


「スーフェちゃん、昔ね、魔法を碌でもないことに使ったくそじじいがいたのよ」


 お母様の顔は笑っている。けれど、その笑顔が震えるほど恐ろしい。


(こわい、こわすぎる。目が全く笑ってないし!!)


 わたしの瞳には、うっすらと涙が浮かび始めていた。


「しかもね、娘と同い年くらいの若い子を『魔法を教えてあげるから』って家に連れ込んで……まあ、その先のことは、子供は知らなくてもいいことよ」


(中身はそれなりの歳なので、容易に想像がつきましたよ。だからこそ……)


「そのくそじじいって人、最低ですね」

「うぐっ」


 わたしの涙もスンと消えるほど呆れた事実に、わたしは心底軽蔑した。


 貴族たるもの、愛妾の一人や二人いてもおかしくはないのかもしれない。けれど、前世は奥ゆかしい日本人のわたしは、アンチ愛妾派、アンチ一夫多妻制が心情だ。


 よって、わたしはもちろんお母様の味方。


 七歳の娘に話す内容ではないだろうけれど、ノープロブレム、むしろ続きが気になってしまう。


「それもね、一度や二度じゃないのよ。私の小さい頃からずっと『魔法を教えてあげる』って口実に女を連れ込んでいたみたいなの。だから私は魔法が大っ嫌い」


 お祖父様が家を出て行ったことが追い討ちとなり、魔法が大嫌いになったお母様は、使用人も魔法が使えない人を選びはじめた。


 わたしに魔法を教えてはいけないという理由も、魔法を使えると碌な大人にならないと思ったからみたい。


 ちなみに、くそじじいの話は、今は亡きお祖母様が愚痴っていたらしい。


 そんな中、マーサが何やら思い詰めた表情をしているではないか。


「マーサ、どうしたの? 考え込んじゃって?」


 意を決したように、マーサは口を開く。


「あの、大旦那様、その女性たちって……」

「マーサ、それ以上言うで……」

「私が、隠蔽して連れてきた女性たちのことですか!?」

「はぁ? マーサに隠蔽してもらってまで、浮気相手を連れ込んでたの? はっ!? もしかして、私がずっと幽霊だと思っていたのって……」

「フェリシア様、申し訳ありません。大旦那様に絶対に秘密にするようにと言われていたもので」



 お母様は小さい頃、マーサの隣にいる女性が、突然消えたり、突然現れたりするのを目撃した。


 マーサに確認しても、口を閉ざし、決して教えてはくれない。


 だから余計に、見てはいけないもの--幽霊だと思ってしまったらしい。


 これがまさかの、オルティス侯爵家本邸に現れる、女性の幽霊事件の真相であった。



 そして現在、いい歳したくそじじいが、お母様とマーサの挟み撃ち攻撃を受けている。


(ふふ、自業自得だわ)


 わたしは面白がって傍観に徹したけれど、優しいお父様は、お祖父様に助け舟を出した。


「さあみんな、そろそろこれからのことを話そう。お義父さんは、今後はどうなさいますか? 本邸に戻るか、嫌でなければ、王都の別邸で一緒に暮らしませんか?」

「いや、わしはもうお前たちに全てを譲ったから、隠居じじいとして、今まで通りのんびり暮らすつもりじゃ。わしの呪いが解けたことも、しばらくは伏せとくがいい。それに呪いが解けた今は、村にも行けるし、魔境の森は魔法が使い放題だから、運動にもちょうどいい」

「!?」


 わたしはくそじじい、もとい、お祖父様の言葉を聞き思いついた。


「お祖父様! わたしに魔法を教えてください! わたしも魔境の森で魔法の訓練がしたいです」

「え? スーフェちゃんは何を言い出すの? 魔法の訓練なんてする必要はないわよ?」


 お母様がわたしに待ったをかけた。だから空かさずわたしは宣言した。


「わたし、冒険者になりたいんです!」


 もちろん、みんなが驚いた。


「冒険者!? そんなの反対よ、危険だわ」

「お母様、わたしは学園に行かないで冒険をして、世界を知りたいんです!」


 もちろん一番の理由は、乙女ゲームから逃れるため。


「でも、婚約者の……」

「もちろん、カルセドニー様の了解も得ています!」

「いつの間に!?」

「ふふ、しかも、カルセドニー様はわたしが冒険の旅に出ている間に、お父様から家督を継ぐための勉強も始めてくれるそうです。カルセドニー様が学園を卒業したらすぐに結婚する約束なので、それまでには必ず帰ってきますから!」


 わたしの用意周到さに、一同唖然としていた。


「スーフェの意思は固いのか?」


 成り行きを優しく見守っていたお父様が、真剣な面持ちでわたしに問いかける。


「はい! 絶対に冒険の旅に出ます」

「それなら、条件をつけるよ。王都の冒険者ギルドの試験に、12歳になったら受けることを許そう。チャンスは一度きりだ。それで受からなければ諦めなさい」

「はい。当然です。それで負けるようでは、冒険の旅に出ても、命を落とすだけですから。でも、訓練もしないまま試験には挑みたくないので、お祖父様の元で修行をさせてください」


 お祖父様の元で修行することも、先日の図書館の一件があったことから、王都にいるよりも、ここの方が安全だろうと、すんなり許可が出た。



 こうして、わたしの冒険者への道が開かれた。わたしの本格的な修行が、ようやく始まる。






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