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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
33/125

呪いを解く方法

「スーフェちゃん!!」


 お父様とお母様の乗った馬車が、到着した。馬車が止まるなり、お母様が一気に飛び出してきた。


(いつも優雅なお母様にしては珍しいな)


 わたしは暢気にそんなことを思ってしまった。お母様は、とても心配してくれていたというのに。


「さあ、一緒に帰るわよ」

「だめですよ。まだやらなければならないことがあるんですから。それに、お母様もそろそろ真実をお知りなった方がよろしいかもしれませんよ?」

「真実?」


 わたしの言葉にお母様は首を傾げた。


「フェリシアには俺から話すよ。お義父さんは俺の代わりに呪いをかけられたんだ」

「呪い?」


 お母様は本当に何も知らないみたいで、お父様の言葉にも全く判然としないようだった。


「えっと、フェリシアはゲルガー公爵家の息子を覚えているかい?」

「もしかして、あの気持ち悪いばか息子?」


 心底嫌そうな顔をしたお母様に、お父様は苦笑い。


「はは、相変わらずだね。あの人は、君のことを心底慕っていただろう? 君との婚約を逆恨みして、魔術師を使って、俺に呪いをかけようとしてきたんだ」

「一体、どんな呪いなの?」

「見るも者の不安を煽るような、異形の姿に変える呪い、だよ」

「異形の姿?」

「それで、俺を庇ったお義父さんが、呪われてしまったんだ」

「どうしてあいつがあなたを庇うの? だって、いつもあなたのことを、魔法が使えない出来損ないだって、ばかにしていたじゃない!! 婚約だって、全然認めてくれなかったし」


 お母様は声を荒げた。けれど、お父様は諭すように微笑んで、お母様に優しく告げた。お母様の知らなかった真実を。


「お義父さんは、ずっと前から認めてくれていたんだよ。けれど、貴族社会に入るのなら、それくらいの罵詈雑言に耐えられなければ、とわざと俺に辛く当たっていたんだ」

「そんなの、絶対に嘘よ……」


 お母様は、信じられないのではなく、今さら受け入れきれないという様子だった。お祖父様に対して、ひどい態度をとってきてしまっていたから。


「もう、お義父さんのことをあいつと言うのはやめよう。お義父さんのおかげで、俺はフェリシアやスーフェと暮らせているのだから。もしあの時に、俺が呪われていたら、フェリシアと結婚することも叶わなかっただろうし、そうなると、スーフェだってこの世にいないことになる」

「でも……」

「昔から嫌がらせはあったんだ。でも、少しずつ収まってきていたからおかしいな、とは思っていたのだけれど。それはお義父さんがうまく躱してくれていたからだったんだ。けれど、とうとう痺れを切らしたのか、フェリシアとの婚約を目前に、魔術師を使って俺に呪術を仕掛けてきたんだ」


 そして、お父様の代わりに、お祖父様が呪いをかけられてしまった。それが、お祖父様が呪いにかかった理由。


「もしかして、お父様が急に家を飛び出して、私たちの結婚式にも出なかったのは、私に対する嫌がらせじゃなかったの? それに、お母様のお葬式に出なかったのも……」


 お母様の言葉にお父様は首肯した。正確に言えば、マーサの隠蔽のスキルを使って、お葬式には参列していたのだと言う。


「結婚してすぐに俺に爵位を譲ったのも、そういう理由なんだ」


 ゲルガー公爵家の人間が、魔術師を雇っていると言う話は、一部の者にしか知られていない。しかも、証拠がないからどうしようもできない。


「あなたは、お父様の姿は見たの?」

「もちろんだ。正直言って、怖かった。異形の姿と言葉で言うのは簡単かもしれないけど、失礼ながら、実物はそれ以上に気持ちの悪いものだったよ」


 お父様の顔が見るからに歪んだ。想像を絶するほどの気持ちの悪いものだったのだろう。


「でも、それなら解呪師に頼めば……」

「名のある解呪師はみな、裏で手を回されてしまったんだよ。だから、誰にも頼むことなどできなかった」


 お母様は無言で俯いていた。


(きっと、全てが初めて聞くことなんだろうな。でも、今からでも遅くないもの。絶対に成功させなきゃ!!)


「それで、スーフェに何か考えがあるのかい?」

「はい。吸収の魔石を使います。お父様は今、吸収の魔石を持っていますか?」

「吸収の魔石? 持ってるよ。でも、それは一度試したよ? 魔法しか吸収できなかった。何回やっても、それは同じはずだよ?」


 困った顔をしたお父様に、わたしは少しだけ得意げに口を開く。


「今から、お祖父様にかけられた呪いを具現化します。きっと、どす黒い色をした物体になると思います。なので、お父様はそのどす黒い物体をすべて吸収してください」

「呪いを具現化なんて、本当にそんなことができるのかい?」

「ふふ、内緒にしていましたが、実はわたし、すごい魔法が使えるんですからね!」


(お父様の言っていた通り、魔法も魔術も似たようなものだから、きっとできるよね。できなかったら、その時にまた考えればいいもの)




「うっっ……」


 お祖父様の姿を、一目見ると言って聞かなかったお母様は、やはり見た瞬間に目を逸らした。


 異形の姿を見るなんて、わたしはもちろん願い下げだ。目を瞑りながらお祖父様に触れ、そして願った。


(お祖父様にかけられた呪いを盗んで、私の手の上に浮かべ)


 すると、わたしの手の上に、どす黒い物体が浮かび上がったのが分かった。


「たぶん大丈夫です! お父様、確認をお願いします!」

「すごい!! お義父さん、元の姿に戻ってます!!」


 その声を聞き、ようやくわたしも目を開けた。


「お父様、吸収の魔石をお願いします!」


 わたしの手の上に具現化させたどす黒い物体に、お父様は吸収の魔石を触れさせた。


 そのどす黒い物体には絶対に触れないように、慎重に。



----ジュワッ



 焼け焦げるような音とともに、具現化された呪いが魔石に吸収されていった。具現化された呪い--どす黒い物体が、わたしの手の上から跡形もなく消え去った。


「うまく、いった?」


 自分の手を確認しても、もうどす黒い物体は微塵も残っていない。


「スーフェは大丈夫か?」

「はい。お父様も大丈夫そうですね。お祖父様、本当に良かったですね!」


 わたしもお父様も、呪いには侵されていない。


 そして目の前には、呪いの解かれたお祖父様の、感極まる姿がそこにあった。


「いやはや、まさか呪いが解かれる日が来るとはな。スタン、スーフェありがとう。そして、フェリシアも……今まで、すまなかった」

「もう、最初から説明して下されば良かったのに……お父様、今までごめんなさい。ずっと一人で寂しかったでしょ?」


 それは、長年分かり合うことのできなかった父娘の感動の場面だった。だたし、ほんの束の間の……





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