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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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一触即発

「カル、この前はありがとう」

「どういたしまして、って言っても、大したことできなくてごめんね。あの後も大丈夫だった?」

「うん。でも、お父様に魔術のことも少しだけ教えてもらったよ」


 わたしは、図書館での一件のお礼を言うために、カルの元へと訪れていた。お父様から聞いた魔術の話もカルに話すため。


「魔術か、やっぱりあの人は魔術師だったのかもしれないよ? 僕たちが顔を覚えていなかったのも、幻影術という魔術を使っていたのかもしれないって」

「幻影術?」

「うん。あの人のことだけ靄がかかったように思い出せないでしょ? そういう術があるみたいだよ」

「そうなんだ……」

「そうなると、もしもまた、あの人がスーフェに近づいてきた時に、何もできないのは嫌だな。僕もスーフェと一緒に旅に出ようかな? と言っても、学園が始まるまでだから、少しの間だけになっちゃうけれど」

「本当! 少しの間でも嬉しいな。そしたら、カルにもわたしの相棒を紹介するよ!!」

「相棒?」


 わたしの言葉に、ピクリと反応したカルは、一瞬にして動きを止めた。


「うん、とっても可愛くて、もふもふの毛並が綺麗な黒猫ちゃんなの。わたしの従魔なんだよ」

「なーんだ、びっくりした。それなら会ってみたいな」

「ふふ、じゃあ、今から呼ぶね!」


 わたしはルベを呼んだ。


 あの図書館の日以来、ルベはわたしの近くにいてくれる。ルベが姿を隠していても、わたしには何となくルベの居場所が分かる。


(ふふ、すっごく心配してくれて本当に優しいんだから。律儀と言うべきか、きっと与えられた役割を果たそうという責任感が、猫一倍強いんだね。にゃ王、じゃなくて、魔王として君臨していたんだしね。超暴君か超真面目か超魔王業務が好きでなければ、きっと続かないよね)


 ルベがわたしたちの前に姿を現したものの、カルとルベはお互いの動向を探るかのように、沈黙を貫いていた。


「カル、こちらがわたしの従魔のルベライトだよ。とってもかわいい黒猫ちゃんでしょ! ルベ、わたしの婚約者のカルセドニー様だよ。とっても格好良くて優しいの。絶対に仲良くするんだからね」


 逃げようと踠くルベを、わたしはぎゅっと抱きしめながら、二人のことを紹介した。


 カルは、ルベのことを無言でじっと見つめると、今度は困った子を見るように、わたしを見てくる。


「スーフェ……もしかして、気付いてないの?」

「え? 何に?」

「……ガキ、余計なことは言わなくていい」

「あ、もしかして、ルベが可愛いにゃ王、じゃなくて、魔王ってこと?」

「まあ、それもびっくりするよね。でも、僕にとって、もっと重要なこと」


 魔王以外、となると、わたしには思い当たることなどなかった。


「僕、この状況はちょっと嫉妬しちゃうな。だから、ルベさんはスーフェの腕の中から離れて?」

「でも、ルベはすぐ逃げようとするから、離せないよ?」

「ルベさんは逃げないよね? それともスーフェに抱っこして欲しいから、わざと逃げようとしてるの?」

「だ、抱っこなんかして欲しくねーよ。チビ、俺は逃げない。だから早く離せ」

「本当に? 絶対だよ! 約束だよ!」


 わたしは半信半疑ながらも、ルベを抱きしめる力を緩めた。ルベはわたしの腕の中から地面へと、華麗にジャンプして着地した。


(さすが黒猫ちゃん!!)


「まずはルベさんに確認をしたい。ルベさんはスーフェのことが好きなの?」

「だ、誰がこんなチビを!?」


 わたしは少しだけ悲しくなった。最近では、呼べば来てくれるくらい仲良くなれたと思っていたのに。


(もっとミルクをあげようかな? ミルクよりも違う物の方がいいのかな?)


 絶対に餌付け作戦を実行しようと心に決めた。


「スーフェのことを守るために、スーフェの一番近くにいるっていうのなら、僕は我慢する。今の僕にはスーフェのことを守れるだけの力はないから」

「ガキ、勘違いするな。従魔契約がなければ俺はさっさとチビの前からいなくなってやる」

「いつまでそう言っていられるか分からないよ? でも、気付いた時にはきっとルベさんは後悔するよ? けれど、僕はスーフェの婚約者という立場は絶対に譲らないからね」

「ふんっ」


 あわや一触即発か! と言わんばかりに、カルとルベはバチバチッと敵対心を燃やしている。

 けれど……


「ねえ、二人とも、会話のわりに、この光景おかしくない?」


 喧嘩腰の会話を繰り広げる中、先ほどからカルはルべのことを優しく撫でている。


 ゴロゴロと喉を鳴らしてはいないけれど、それくらいルベは気持ち良さそうに、カルに身を委ねているのだから。


「わたしには、絶対にこんな風に撫でさせてくれないよね!?」

「はっ!?」


 嫉妬とも思えるわたしの言葉に、ルべはようやくおかしいことに気付いたらしい。


 カルに撫でられることが、よほど気持ちよかったのか、少しだけ残念そうだ。


「僕ね、魔物に好かれるみたいなんだ。どうしてなのか分からないけれど」

「カルの周りには精霊さんがいっぱいいるから、そのおかげじゃない?」


(精霊は危険な魔物を遠ざけてくれるみたいだけど、ルベは全く危険じゃないもの)


「ガキの魔力は危険だ……」


……と言いつつ、今もルベはカルの「撫でてあげるからおいで」という誘惑と戦っている。


(精霊さんが好む魔力は、魔物にもとても心地良いって言うものね)


 そう納得しようとしたわたしだったけれど、やっぱり、ミルクの他にも豪華なまたたびで餌付けをしようと心に決めた。


「ルベ、今までにも、にゃ王、じゃなくて魔王を手懐けるような人っていたの?」

「いるわけないだろ。聞いたこともない」


 誘惑に負けてしまったルベは、再びカルに撫でられていた。


「ずるい!! わたしも!!」


 ここぞとばかりに、カルと一緒にルベを撫でまくって、心底愛でた。


「やめろ、チビ、触んなっ!!」

「もうっ、どうして、わたしだけだめなの!!」


 もちろん、わたしがやめるわけがない。カルのストップが入るまで、思いっきり撫でまくった。





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