表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
3/125

黒猫もふもふ

(し、死ぬぅ、ぐるじいぃ)


 生後半年にして、絶体絶命の大ピンチだ。


 ベッドで一人で寝ていたわたしは、なぜか突然息苦しさを覚え、咄嗟に目を開けた。

 目を開けたはずなのに、目の前がまだ真っ暗で、口も何かで覆われている。


(わたし、きっともう死ぬんだ……)


 せっかく転生したはずなのに、あまりに短すぎる人生だった。


 けれど、息苦しいだけでなく、得体の知れないもふもふっとしたものが顔一面に当たって、少しだけ擽ったい。こんな状況なのに、思わず笑ってしまうほど。


「チッ」


 明らかな舌打ちと共に、わたしの目に一気に光が飛び込んできた。息苦しさも、もふもふっとした擽ったさも同時になくなった。


 なくなった瞬間に、どうしてか、そのもふもふが恋しくなる。けれど、今度はお腹が重い。


(はあ、はあ、死ぬかと思ったし苦しかったよ。一体わたしの身に何が起きたの? ……って、黒猫ちゃん!?)


 わたしのお腹の上に黒猫ちゃんが座り、わたしの顔を見下ろしていた。


 漆黒の艶々とした毛並みを持ち、真紅色の瞳が印象的な黒猫ちゃんは、わたしの心を一瞬にして鷲掴みした。


 すらりと伸びた手足に、もふもふなんだけど太りすぎていない身体、凛とした佇まい、その全てがわたしの理想すぎて。


(やっばい、可愛すぎる!!)


 わたしは猫ちゃんが大好きだ。三度の飯より猫が好き。嘘、ちょっと盛った。


(もしかして、さっき苦しかったのって、わたしの顔の上に、黒猫ちゃんが乗ってたの?)


 そう思うと、もう一度乗って欲しくなってしまう。


 そんなわたしの視線に気付いてなのか、黒猫ちゃんは途端に身震いをし始める。身の危険を感じたらしい。


 そして、しっぽを床にバタバタと大きく叩きつけながら、もう一度大きく舌打ちをして、逃げるように去って行った。


(えっ、もう行っちゃうの? もしかして、自称神様(かみさま)と約束したわたしの従魔ちゃんかな? 最強には見えなかったけど、最強に可愛かったから許す!)


 これが、これから一緒に旅をすることになる、わたしと黒猫ちゃんの、初めての出会いだった。




 ******




(ああ、黒猫ちゃんにもう一度会いたいな〜)


 あの日から、一度たりとも黒猫ちゃんがわたしの前に姿を現すことはなかった。

 最近では、黒猫ちゃんに会ったのは、夢の中での出来事だったのではないか、とさえ思い始めていた。


(黒猫ちゃんをもふもふしたい。もふもふを思う存分堪能したい。それに、せっかく名前も決めたのになぁ……)


 黒猫ちゃんに対する届かぬ思いを募らせるわたしは、相変わらず魔法の訓練に余念がない。

 だって、あんなに可愛い黒猫ちゃんと旅をするなら、わたしが強くならなきゃいけないから。


 そう気合い入れて魔法を使っていると、思わぬピンチが再びわたしを襲う。


「きゃあっ!! スーフェちゃん!?」

「……!?」


(まずい、お母様に見られた!)


 魔法を使っているところをお母様にばっちりと見られてしまった。今の状況は間違いなく弁解などできない。


 だって、わたし自身が風魔法でふわりふわりと宙に浮いているのだから。


(でも、魔法の天才って持て囃されるかも! 英才教育をして、ゆくゆくは王宮魔導士とか! いや、わたしは旅に出たいしな。ふふ、困るなぁ)


 急いでベッドに戻り、にまにまとそんなことを考えていると、事態は思わぬ展開に。


「誰!? スーフェちゃんに魔法を教えた不届き者は? マーサ! マーサ!!」


 血相を変えたお母様が、必死の形相で叫ぶのを目の当たりにしたわたしは、一瞬にして青褪める。


(え? 何この展開? 詰んだ?)


 わけが分からなかった。だって、ここは冒険ファンタジーの世界。そして、魔法の国。魔法を使って当たり前のはずなのに。


「はい、お呼びでしょうか?」

「スーフェちゃんがっ、スーフェちゃんが魔法を使ってるの!! まさか教えてないわよねっ!?」

「もちろん教えてません。それに、魔力のない私が魔法を教えることなんてできませんよ」

「!?」


 ふふっと笑いながら発したマーサのその言葉に、わたしは驚きを隠せなかった。


「そ、そうよね? それなら誰が?」

「奥様の血を受け継いだお子様ですから、生まれながらにして魔法の天才でも、全くおかしくはないですよ」

「……まあ、スーフェちゃんは天才かもしれないけれど、でもだめよ、魔法だけは絶対に使わせてはいけないわ。魔法なんて使えても、絶対に碌なことにならないわ! アイツみたいに!!」


(アイツ……?)


 もちろんわたしには、お母様の言う“アイツ”に心当たりなどない。お母様の謎の発言と苛立ちに、わたしは驚き戸惑った。


「マーサもスーフェちゃんのことを見張っててね。絶対に魔法は使わせてはいけないからね。絶対に!!」

「はい、奥様」


 そう言い終えると、お母様は部屋を出て行った。そして、残されたわたしには、行き場のない怒りが、ふつふつと沸き上がる。


(魔法って、使ってはいけないの? 嘘、絶対にあり得ない! このままじゃ、旅に出られないじゃないの!! あの自称神様(かみさま)め、嘘つきやがった!!)


 もちろん八つ当たりだ。


(それに、マーサもおかしいよ。だって、マーサこそ嘘ついてるんだもの!!)


 わたしは信じられない気持ちで、マーサをちらりと盗み見た。だって、マーサが明らかに嘘をついていることは、わたしが身を持って知っているのだから。

 

(どうして? マーサは魔法が使えるよね? それなのに魔力がないってどういうこと?)


 そう思いながら、ちらりと【盗み見た】ことで、偶然にもわたしは知ってしまった。


 マーサが自分の魔力を【隠蔽】しているということを。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ