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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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嫉妬という感情

「ねえ、カル? どうして怒ってるの?」


 不機嫌な表情のカルに、わたしはおそるおそる尋ねた。


(まさか、カルはルッカ様とルッド様の運命の人でいたかった、とか!?)


 まさか、そんなことはあり得ない。


「……分は?」

「え?」


 怒りを抑えた声で発したカルの言葉を、わたしは思わず聞き返してしまった。


「ねえ、僕の分は? ルッカ兄様とルッド兄様だけスーフェのリボンを貰ってずるいじゃん! そもそも僕のスーフェなんだから、そのリボンも僕のだ! 返して!!」


 カルはそう叫ぶと、ルッカ様とルッド様のリボンに手をかけようとした。


「わーっ、カル待って! カルの分もきちんとあるから!!」


 慌てて間に割って入り、カルを制止した。


 わたしは必死だった。せっかく双子ルートを潰す計画が、あわや海の藻屑となるところだったから。


 急いでアイテム袋から、リボンを取り出し、渾身の笑顔で、カルと向き合った。


「カルにはこのリボンだよ。カルの瞳のように深い深い海の色、見ているだけで心が落ち着く、わたしの大好きな海の色だよ」


 とても落ち着いた色で、わたしのお気に入りのリボンだった。少しだけきつい印象のわたしの顔にも合う、落ち着いた濃紺色。


 わたしはカルのシャツの上から、そのリボンを結んだ。


「……ありがとう、スーフェ」

「どういたしまし……」


 満足そうな笑みを浮かべたカルと目が合った瞬間、先ほどのカルの言葉を思い出してしまった。


(さ、さっき、僕のスーフェって!? それにカルがこんなに感情を剥き出しにするなんて、初めてのことだよね?)


 嫉妬をしてくれたんだ、とすぐに分かった。


 正直言って、嬉しい。嬉しくないわけがない。けれど、それを隠せるほどの、恋愛経験値はわたしにはない。


 耳まで真っ赤になったわたしを見て、カルはくすりと笑いながら、わたしの耳元で囁いた。


「他の男に優しくすると、僕、嫉妬しちゃうよ?」


 耳に吐息がかかって、擽ったくて、何よりも恥ずかしすぎて、わたしの魂がぶっ飛んで、声すらも上げられなかった。


「いちゃいちゃするなら、向こうに行けよ」

「いちゃいちゃするなら、さっさと帰れよ」

「「でも、俺は諦めないからな!!」」


 ルッカ様とルッド様は、せっかくのムードをぶち壊して、とんでもない発言をしていた。


 けれど、心ここに在らずのわたしには、そんな言葉は右から左にすり抜けていった。




「それよりも、スフェーンはどうしてわざわざうちで魔法の訓練をするんだ? 麗しのフェリシア様に教われよ」

「そうだそうだ! 芳しのフェリシア様に教われよ」

「えっ? あ? ええっ!? フェリシア様って、わたしのお母様のこと?」


 何の前触れもなく、お母様の名前が出てきたことに驚いて、ようやくわたしは意識を取り戻した。


(麗しとか、芳しって、いきなりこの二人は何を言い出すの? 確かにお母様は美人だけど……)


 どうしてお母様の名前が出てくるのかも分からなかったけれど、そもそもお母様に魔法を教えてもらうなんてできるはずがない。


「ロバーツ王国の魅惑の魔導士だろ?」

「ロバーツ王国の傾城のご令嬢だろ?」

「魅惑の魔導士? 傾城のご令嬢? その二つ名は一体何なの? それに、お母様が魔法を使ったところなんて、今までに一度だって見たことないよ?」


 疑問だらけのわたしに、カルが優しく教えてくれた。


「僕も最近知ったんだけど、スーフェのお母様のフェリシア様は、ロバーツ王国では有名な魔法の使い手だったみたいだよ。しかも、ロバーツ王国が誇る美貌を持つご令嬢だったから、ご婚約された時には、国中に激震が走って『フェリシア様をお慕いし隊』が暴走して、大変だったみたい」

「フェリシア様を、お慕いし隊……?」


(うわぁ……ファンクラブ的なやつってこと? 名前が超ダサい)


 そのファンクラブの名前を付けた人のセンスを疑った。


「でも、それならどうしてお母様は一切魔法を使わなくなってしまったの? 魔法の話は禁句だし、筋金入りの魔法嫌いだよ?」


 わたしの言葉に、ここにいる全員が首を傾げた。その答えは誰も分からなかった。


「それなら、スフェーンのお祖父様はどうだ?」

「そうだ、スフェーンのお祖父様に教われよ」


 わたしは再び首を傾げた。


 いくらお祖父様の魔法が力強くて格好良いとしても、どうしてこの二人がお祖父様のことを知っているのかが、不思議でならなかった。


「お祖父様のことをどうして知ってるの?」

「「だって、偉大な冒険者じゃん!」」

「お祖父様が、冒険者? え、えぇぇぇぇ!?」


 今日一番、目を丸くして驚いた。まさか、自分の身内に冒険者がいるとは思ってもみなかったから。


「スーフェ、本当に知らなかったの?」

「うん、うちではお祖父様の話は一切しないから」


(お祖父様がそんなに有名な冒険者なら、わたしが冒険者になりたいって言っても、意外と素直に受け入れてもらえるかも! いや、魔法が禁止で、お祖父様の話が禁句になるくらいだから、大反対されるかな?)


 悩むわたしに、さらにルッカ様とルッド様からお祖父様の情報がもたらされた。


「突然姿を消した偉大な冒険者って有名だぞ?」

「姿を消した?」


(でも、あれはマーサの隠蔽の力だよね?)


「凶悪な魔王の暴走を止めるために、その身を犠牲にしたって聞いたぞ?」

「にゃ王の暴走?」


(それは嘘だ。にゃ王は可愛いからそんなことしないし)


「フェリシア様をお慕いし隊の暴走を止めるために、その身を犠牲にしたって聞いたぞ?」

「また出たっ、フェリシア様をお慕いし隊」


(そのファンクラブは一体何なのよ? まさか、その暴走こそが、お母様が傾城のご令嬢と呼ばれる所以だったりして)


「父様は、男の浪漫だって言ってたぞ?」

「男の浪漫?」

「母様は、女の敵だって言ってたぞ?」

「女の敵?」


 次から次へと出てくるお祖父様の情報に、わたしはため息と疑問しか残らなかった。


 そこで救いの手を差し伸べてくれたのは、やはり愛しの婚約者様のカルだった。


「図書館に行けば、きっとスーフェのお祖父様の記録が残ってるんじゃないのかな?」

「え? お祖父様って、記録が残るほど有名な方なの!?」


 記録に残るほどの存在。そして、続くフルーヴ三兄弟の言葉に、わたしは度肝を抜かれることになる。


「「「だって、伝説の勇者だから」」」






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