双子の個性
「「何だよこれっ、色が全然違うじゃん!!」」
ルッカ様とルッド様は、声を揃えて文句を言い始めた。それでもわたしは笑顔を崩さない。
文句を言われることは、想定内の出来事だったから。
二人に渡したリボンは、わたしが旅支度をしていた時に、アイテム袋の中に入れておいたもの。
わたしもお洒落を気にする年頃の乙女。無限収納をいいことに、着替えの服に合うたくさんのアクセサリーも、片っ端から突っ込んでおいた。
そして今もまだ、ルッカ様とルッド様の文句は止まらない。
「スフェーンはバカなの? 俺のは水色じゃん」
「スフェーンはアホなの? 俺のは青色じゃん」
ちょっとだけイラッとした。けれど、今は我慢。
「何を言ってるんですか? どう見ても同じ色ですよ。だって、どちらも海の色だもの」
「「は?」」
「だから、どう見たって、海の色、でしょ?」
「「海の色?」」
ルッカ様とルッド様は、同じ方向に同じように首を傾げた。
「海の色って、とても綺麗ですよね。ルッカ様のそのリボンは、透き通った海の水面のように淡い“海の色”」
「確かに、海の色」
ルッカ様は、わたしの言葉に頷いてくれた。だから、わたしはこの作戦を続ける。
「ルッド様のそのリボンは、澄み渡る海中のように鮮やかな“海の色”」
「確かに、海の色」
ルッド様も、同じように頷いてくれる。その瞬間、わたしはにやりと口端を上げた。でも、最後の仕上げが残っている。
「はい。どちらも海の色なんです! だから、同じ色、ですよ!」
ルッカ様とルッド様は、自信満々のわたしの言葉に戸惑いを露わにした。
「違う色なのに?」
「同じ色、なの?」
「「海の色……」」
ルッカ様とルッド様の声は戸惑いつつも、わたしの主張を受け入れようとしている。
その様子が垣間見られたことで、わたしは勝利を確信した。
(もらった!)
初期設定の今の二人は、同じ物を欲している。けれど、世の中に全く同じものなんて、ほとんど存在しないと思う。
服だって、靴だって、髪型だって、似てるかもしれないけれど、全く同じは無理だと思う。
縫製の一ミリのズレだってあるだろうし、髪の長さだって、全く同じだなんて無理だもの。
だから、ルッカ様とルッド様が“同じ”だと認識さえすれば、例え青色だろうが水色だろうが関係ない、とわたしは推測した。
はっきり言って、わたしの「海の色だから同じ」という発言は、子供騙しのような、屁理屈のようなもの。
自分でも、無理矢理感満載だと思っている。けれど、それでいい。ルッカ様とルッド様はまだ子供だから。
(子供騙しの作戦を、いつやるか? 今でしょ!)
それに、わたしの目的はルッカ様とルッド様の考え方を劇的に変化させることではない。
どんな手を使ってでも、色違いのリボンを身につけて貰えればいいだけだから。
だから、さらに追い討ちをかける。
「そのお揃いの海の色のリボンは、水の都と呼ばれるフルーヴ伯爵家に相応しい色で、とっても似合いますね! そのリボンを付けていれば、今日からルッカ様とルッド様のことを間違える人は少なくなっていくはずですよ!」
わたしの狙いは、リボンの色の違いで、ルッカ様とルッド様のことを、誰が見ても見分けがつくようにすること。
ヒロインちゃん以外の人たちにも、容易に二人のことを見分けさせることで、ヒロインちゃんを特別視させないこと。もちろんカルのことも。
別に、乙女ゲームの双子ルートを潰そうとしてるわけじゃない。偶然の産物だ。
(これで、カルが二人の運命の人ではなくなるよね!)
全ては、わたしが安心して旅に出るため。
(ルッカ様とルッド様も、自分たちを見分けて欲しいという願望も叶えられるんだから、みんなが幸せになれる素晴らしい計画! わたしってば天才だな!)
初期設定が備わっていても、周りの環境や接し方で、その設定も少しずつ変化することを、カルと接する中で実感していた。
だから、ルッカ様とルッド様にも、少しずつお互いを個々の人間として意識し始めてくれればいいな、とわたしは思う。
そして、早くもその変化が、ルッカ様とルッド様に見られつつあった。
「スフェーン、俺はどっちだか分かるか?」
「はい、ルッカ様です」
「スフェーン、俺はどっちだか分かるか?」
「はい、ルッド様です」
それが嬉しくて、深いことは考えず答えた。
もう鑑定のスキルを使わなくても、自信を持ってあのうざい問題にも答えられる。
もちろん間違えるわけなどない。ルッカ様とルッド様の胸元には、色違いのリボンが付いているのだから。
「ルッカ様とルッド様は、決して全く同じではないのだから、少しずつ‘違う’ということを受け入れていきましょう。受け入れることは、とっても勇気のいることだろうから、同じというこだわりの中に、少しずつお互いの個性を見付けていきましょう!」
「「個性か……スフェーンは、本当に俺のことを分かってくれるんだね」」
お決まりのように声を揃えたルッカ様とルッド様は、少しだけムッとした表情で、お互いの顔を見合わせた。
「ルッド、真似するなよ」
「ルッカこそ、真似するなよ」
「ふふ、ルッカ様とルッド様はとっても仲良しなんですね。良かったね、カル!」
顔に出さずとも、わたしの心の中では歓喜の声をあげていた。
この喜びを分かち合おうとカルを見ると、どうしてか、カルはとても不機嫌だった。