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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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双子の攻略法

 わたしたちがフルーヴ伯爵家の屋敷に戻ると、呼んでもいないのに彼らが現れた。


「「ねえ、スフェーン……」」


 カルの双子のお兄様たちが、にやにやとしながらわたしに話しかけようと近付いてくる。


 相変わらず瓜二つ。髪型も同じなら、服装も同じ。わざと相手を混乱させるために、同じ恰好をしていることは明らかだった。


 けれど、わたしには通用しない。


「何か用ですか? ルッカ様とルッド様?」

「「うぐっ」」


 わたしは双子のお兄様たち、ルッカ様とルッド様の言葉を遮って、わざとらしく返事をした。二人を明確に識別し、それぞれの名前をきちんと告げて。


 だって、あのうざい問題を出されるに決まっているから。


 それに焦りを見せたのは、もちろんルッカ様とルッド様。

 

「ちょっと、待って。もう一回!」

「スフェーン、今すぐに目を閉じろ」

「はい。いくらでも当ててあげますよ。わたしがお二人のことを間違えるなんて、絶対にあり得ませんから」


 わたしが目を瞑っている間に、ルッカ様とルッド様は髪型を変えたり、場所を入れ替えたりして、何度も問題を出してきた。


 もちろん宣言通り、わたしが間違えるわけがない。次の問題も、その次の問題も、出される問題を完璧に当ててみせた。


「嘘でしょ……」

「あり得ない……」


 ルッカ様とルッド様は、信じられない、と言う表情で、わたしを見てくる。


(わたしが間違えるわけないじゃない! だって【鑑定】をしてるんだから。ふふ、これでわたしには、もう二度とあんなうざい問題を出してこないはず!)


 乙女ゲームでは、スフェーンは百発百中で間違えていた。けれど、わたしは百発百中で当ててみせた。


 乙女ゲームのスフェーンと違う展開に、わたしはもちろん有頂天だ。


 そんなことをすればどうなってしまうのか、少し考えれば分かったはずなのに。


 だから、もちろんそうなってしまう。


「両親さえ俺たちの区別がつかないのに、スフェーンは俺たちのことを分かってくれる……」

「ああ、俺たちのことを分かってくれるのは、やっぱりスフェーンだけだ……」


 わたしはとっても嫌な予感がした。嫌な予感がしすぎて、変な汗が滲み出る。


(え? なんか、雲行きがあやしい気がする。次のセリフは、絶対に聞いてはいけない気がする。きっと勘違いだよね?)


 そう思っても、すでに手遅れ。勘違いのわけなどなかった。


「「スフェーンは、俺たちの運命の人?」」


 声を揃えて発した双子のその言葉と、わたしを見る恍惚としたその表情に、わたしの嫌な予感は確定してしまったと思う。


「やっちまった……?」


 絶対に足を踏み入れてはいけない乙女ゲームの、双子ルートのフラグが立ってしまったのかもしれない。


 しかも、ヒロインとしての。


(まずいっ、きっとルッカ様とルッド様を見分けることが、双子ルートを攻略する鍵だったのねっ。でも、それって、ヒロイン限定じゃないの!?)


 ヒロイン以外、それも悪役令嬢にまで通用するなんて。


(もうっ、ラノベじゃないんだから!! 今ならまだ間に合うよね? だって、乙女ゲームの舞台は高等部だったから、まだ乙女ゲーム自体は始まってないだろうし)


 だから、わたしは考えた。どうすれば、この窮地を逃れられるのか、を。


(ここは、ルッカ様とルッド様を思いっきり殴って記憶喪失にさせる? ううん、それは絶対にだめだよ。カルに乱暴な子だと思われたくないもの)


 それこそ手遅れだと思う。あれだけ自然を破壊したのだから。


 けれど、そんなわたしを助けるために、愛しの婚約者様は、ヒーローのように颯爽と現れてくれる。


「ルッカ兄様、ルッド兄様、いけません。スーフェは僕の婚約者ですから、絶対にそれだけは譲りません!」

「カル……」


(好き……)


 もうきっと、わたしはカルのことが好きだ。間違いない。カルはわたしの運命の人なんだ。


 だって、ピンチのわたしを助けるために、カルはわたしを隠すように目の前に立って、ルッカ様とルッド様を牽制してくれているのだから。


「なんだよ、カル。邪魔するなよ」

「そうだよ、カル。譲れよ」


 無理、無理、無理。絶対に、ルッカ様とルッド様の婚約者にはなりたくない。


 確かこの双子ルートは、ヒロインが二人と結婚するというおかしな結末だ。今のロバーツ王国ではあり得ない。


「いけません。それに僕だって、ルッカ兄様とルッド兄様の区別はつくじゃないですか?」


 カルの言葉に、一瞬だけキョトンとしたルッカ様とルッド様は、お互いに顔を見合わせた。そして同時に頷く。


「「確かに」」


 ルッカ様とルッド様は納得したようだ。けれど、何かがおかしい。


 今度は二人同時にカルの手を取り、明らかにわたしの時よりも恍惚とした表情を浮かべながら、発する言葉はただ一つ。


「「じゃあ、カルが俺たちの運命の人?」」


(えっ? いきなり何を言いだすの?)


 わたしは呆然としてしまった。






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