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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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不機嫌な存在

「とても素敵なところだね! 空気も澄んでいて気持ちいい!!」

「気に入ってくれたなら良かった。夏になれば海辺の街も賑わって、海水浴もできるんだよ」

「本当!? 泳ぐのは苦手だけど、海は大好きだから嬉しい!」

「いつか一緒に行こうね」

「うん!」


 わたしは今、フルーヴ伯爵領に遊びに来ている。フルーヴ伯爵領は、水の都と呼ばれるほど水源が豊富で、海にも面している。


 そもそも、どうしてフルーヴ伯爵領に来ているのかというと、もちろんカルとの仲をより一層深めるため。


 のんびりと大自然の中を二人で歩く。前世でいう普通のデートをわたしたちは満喫している。


 川のせせらぎの音を聴きながら、目を輝かせて風景を楽しんでいる。……と思いきや。


(ここは絶好の魔法の訓練場所だよ!! 誰もいないし、とっても広いから、きっと怒る人もいないだろうし)


 魔法の訓練がしたい。デート中だと言うのに、あろうことか訓練のことを考えてしまっていた。


 乙女ゲームのスフェーンとは違う自分になるために、どんな時でも魔法の訓練は欠かさないようにしているから仕方がないと思いたい。


 そんなわたしに、不意打ちのようにカルが尋ねてきた。


「スーフェは何かしたいことはある?」

「魔法をぶっ放したい! ……って違う違う、カルと一緒にこうやって歩いているだけで、わたしはとっても楽しいよ!」


(危ない、危ない。思わず本音が……)


 わたしの脳内は、ロマンチックのかけらもない。ここは可愛らしく、手を繋ぎたいな、とでも言うべきだったのに。


「あははっ!」

「えぇっ、いきなり笑って、どうしたの?」


 突然笑い出したカルにわたしは驚いたけれど、とても嬉しかった。


 カルはわたしの前でも、色々な表情を見せてくれるようになった。


(もっとカルのいろんな姿をみたいな。わたしに都合が良い存在ではなく、カルという一人の人間になってほしいもの!)


 けれど、やっぱりまだ怒ったところは見たことがない。


「スーフェ、隠さなくてもいいよ。思いっきり魔法を使ってみたいなら、魔法を使おうよ!」

「え!? いいの? 普通のデートじゃなくなっちゃうよ?」

「もちろん! 僕はスーフェと一緒にいられるだけで嬉しいから。それに、普通のデートもこれからたくさんできるんだから、今日は今、やりたいことをやろうよ!」


(やばい、ここに神がいる。素敵すぎる!!)


 カルに後光が差して見えた。


 しかも、カルの未来にわたしがいることが当たり前、みたいなことをさり気なく言ってくれるなんて。


「それに、僕もスーフェを守れるくらい強くなりたいし!」


 さわやかな笑顔で言われたわたしは、きゅんと胸がときめく。続け様にこういうことを平然と言ってのけるから、心臓がもたない。


(やっぱり、交換日記から始めるくらいがわたしには丁度いいかも)


 きっと、毎日会っていたら、わたしはキュン死にする自信がある。


「カルはどれくらい魔法が使えるの?」

「僕自身は、そんなに魔法が使えるわけではないんだ。けれど、精霊たちが力を貸してくれるんだよ」

「精霊さん?」 


(そう言えば、カルには精霊の加護があるんだよね。実際にカルの周りにはたくさんの精霊さんたちがいるし)


 わたしがカルの周りを盗み見れば、今日もまた、たくさんの精霊さんたちがいた。


 虹色のしゃぼん玉がふわりふわりと飛ぶように、カルの周りは優しい光で満ち溢れている。


「精霊にはね、火の精霊、土の精霊、風の精霊、水の精霊というように、四大属性の力を持つ精霊のほかにも、様々な力を持つ精霊がいるんだって。僕は、普通の魔法も使えるけれど、精霊たちの力を借りた魔法も使わせてもらえてるんだ」

「精霊さんってすごいんだね。わたしも精霊さんたちと仲良くなれるかな?」


 わたしの言葉に、カルは優しく微笑んでくれる。


(わたしの名前も精霊に愛される名前だし、そうなってほしいな)



 そして、わたしは魔法を使って、使って、使いまくった。


 岩山は粉砕し、地面は所々抉れている。きっと見る人が見れば、明らかな自然破壊だろう。


 けれど、その度にカルが自分の持つ魔法と、精霊さんたちの力を借りて、抉れた地面を直したり、倒れかかった木を戻したり、元の姿以上に、自然環境を整えてくれた。素敵すぎる。

 

「あー、楽しかった! カル、本当にありがとう」

「スーフェの魔法はすごいね。びっくりしたよ。僕も負けてられないな。岩山くらい簡単に元に戻せるように頑張るよ」


 さすがにカルと精霊さんの力を持ってしても、粉砕した岩山を戻すことはできなかったらしい。


 わたしは本当に楽しくて、上機嫌だった。そんなわたしを見て、カルは満足そうな優しい笑顔を向けてくれる。


(わたし、とっても幸せ。幸せすぎて、全く周りなんて見えてないかも)


 だからなのか、わたしは全く気付いていなかった。とても不機嫌な存在がたくさんいることに……






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