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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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好きという設定

 わたしは今、心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしている。


 カルが会いに来てくれたのを機に、今まさに、あの計画を打ち明けたところだから。


(怒られる、嫌われる、婚約破棄ぃ!!)


 嫌われて当然だとは思う。自分は遊び呆けて、堅苦しいお家問題を、カルに押し付けようとしているのだから。


 けれど、やっぱりわたしには、本当のことを打ち明けないという選択肢はなかった。カルにも幸せになって欲しいから。



「うん、いいよ」


 カルの返事は即答だった。お土産が楽しみだな、って言いながら笑っている。


「本当に? それよりも、わたしの話を信じてくれるの?」

「うん、スーフェが嘘をついていないことくらい分かるよ」

「もちろん嘘はついてないよ、でも……」


 全く顔色一つ変えることなく、にこりと優しい笑顔でわたしを見つめてくれるカルに、わたしは少しだけ目を逸らしてしまう。


(本当に、こんなおいしい話があっていいの? さすがに、わたしに都合が良すぎない?)


 わたしはカルに全てを話し終えたところだ。罵倒されることも覚悟の上で、全てを話した。


 前世のことも、神様とのことも、乙女ゲームのことも、密かに画策していた、わたしとカルのこれからのことも。


(怖い、うまくいきすぎて怖すぎる。もしかして、カルには別の思惑が?)


「もしかして、カルは侯爵っていう爵位が欲しかったりするの?」


 わたしは失礼を承知で、どうしてもはっきりとしておきたかった。わたし目的かオルティス侯爵家目的か。


「まあ、確かに、爵位は魅力的だよね」

「えっ……」


 頭の中が真っ白になって、続く言葉も出なかった。


 同時に、カルが甘い言葉で「もちろんスーフェだよ」と囁いてくれることを期待していた自分が恥ずかしい。


(そんなの当たり前じゃない! どうしてショックを受けてるのよっ、でも、泣きそう……)


 必死で涙を堪えるわたしに、カルは優しくその真意を説明してくれた。


「僕は三男だから、ゆくゆくは家を出なければいけない。もちろんスーフェのことを幸せにする自信はある。けれど、安心してかつ生活の質を落とすことなくって考えると、婿養子になれるのなら、僕はとっても嬉しいよ」

「それって、つまりは、わたしのため……?」


 わたしの言葉に、カルが微笑みながら頷いてくれる。瞬間、一気にわたしの顔が赤くなった。


 まさか、肩書が欲しい理由が自分のためだなんて、そんなこと思ってもみなかったから。


「僕ね、初めてスーフェに会った時に、スーフェに一目惚れしたんだ」

「……一体、わたしのどこに?」


 普通なら嬉しい言葉のはずなのに、一瞬にして、どん底に突き落とされた。


 はっきり言って、初めて会った時のわたしに惚れる要素なんてないと思う。強いて言えば、この容姿くらい。


(やっぱり神様の”埋め合わせ“だから? カルはわたしを好きになってくれたわけではなく、()()()()()()()なだけ?)


 そう考えた時、わたしの胸がちくりと痛んだ。けれど、そう考えれば全てが納得がいく。


 ここは神様が作った乙女ゲームの世界。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が追加されても、きっと不思議ではない。


 すでに、乙女ゲームにいるはずのない魔王だって、神様の力で存在しているのだから。


「どこに、って言われると、正直言って難しいな。本能的なもの?」


(やっぱり、そうだよね)


 具体的な理由はない。だって、そういう設定なだけだから。


「でも、こうして一緒にいると、スーフェのことをたくさん知れて、もっと好きになっていくよ。スーフェはとっても可愛いし、素直で面白い。普通なら、前世とか神様だとか、隠すだろうことも、素直に言っちゃうところとか。だから僕は、スーフェが僕のことをまだ本当に好きじゃなくても、好きになってもらえるように頑張るね」

「……」


 わたしに返せる言葉などなかった。図星だったから。


 わたしはカルに対して好意はある。だって、かなり好みのタイプだから。それに優しいし、一緒にいると心地良い。


 ただ、これが本当に恋心なのか、と聞かれたら、正直言って分からない。恋人同士が持つ愛情には、まだ至っていないと思う。


 だからこそ、これからゆっくり恋愛していけばいい、カルとなら恋愛できる、と思ったのだから。


(カルはわたしに巻き込まれて、この世界に生まれてきたのだとしても、カルにはわたしに縛られることなく生きていってほしい)


 だから、わたしは腹を括らなければならない。


「ねえ、カル。もしね、わたし以外に好きな人ができた時は、遠慮なく言ってね」


 精いっぱいの笑顔を作って、わたしはカルに告げた。






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