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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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わたしの名前

(絶対にあり得ない! このままじゃ、旅に出られないじゃないの!! あの自称神様(かみさま)め、嘘つきやがった!!)


 正確に言えば嘘ではないのだけれど、誰かに八つ当たりでもしなければ、平静を保てなかった。


 だって、冒険ファンタジーの世界のはずなのに、魔法の国だと言っていたはずなのに、「絶対に魔法を使わせてはいけない」と聞いてしまったのだから。




 ******




 あれからすぐに、わたしは自称神様(かみさま)が作った世界に生まれた。


「オギャー!!」


 赤ちゃんからのスタートだった。それは特に問題はない。むしろ好都合。だって、赤ちゃんのうちから、魔力量を上げて魔法の訓練ができるのだから。


 ここは異世界、自称神様(かみさま)の作った世界の中にあるロバーツ王国という“魔法の国”らしい。


 ロバーツ王国のオルティス侯爵家という由緒ある貴族の家の一人娘として、前世の記憶を持ったまま、わたしは転生した。


 冒険ファンタジーの世界に転生したはずなのに、わたしが生まれたのは、なぜかかなり良いところのお嬢様。


 この時点で、こんなおいしい話はおかしい、と気付けば良かったのだけれど。



 そして、わたしの名前は……


「スフェーン、スフェーンにしましょう」


 とても美しいわたしのお母様が、花の咲くような笑顔と共に紡いだ名前を聞いて、わたしの心臓がドクンと跳ね上がり、警鐘を鳴らした。


(ス、スフェーン? 宝石の名前、だよね? 素敵な名前で嬉しいのに、何だか嫌な予感がするのは気のせい?)


 宝石の名前は嬉しい。前世では宝石図鑑を愛読するほど、わたしはお金と宝石が大好きだから。


 とても嬉しいはずなのに、どうしてか得体の知れない不安がわたしを襲う。 


 その理由はのちに分かるのだけれど、その名前がわたしの知っている“ある女の子”と同じ名前だったから。


 けれど、それが誰だったのかを、その時のわたしは、残念ながら全く思い出せなかった。



「ああ、とても綺麗な名前だね。きっと君に似て、とても美しい女性になるよ」


 嬉しいことを言ってくれるのは、とても頭が良くて、羨ましすぎるほど愛妻家の素敵なお父様。


 キラキラしすぎないイケメンだというところも、わたしの中ではかなりの重要なポイントだ。


「スフェーンはね、宝石の名前なの。光の反射具合で虹色に輝いて、とても綺麗なのよ」

「虹色は精霊たちの色だね。それならきっと、精霊たちにも愛してもらえるはずだよ」

「ふふふ、あなたはスフェーンよ。えーっと、スーフェね。スーフェちゃん、可愛い私たちの娘」


(精霊に愛される! ここは冒険ファンタジーの世界なんだから、精霊に愛されるって絶対に重要だよね。綺麗な宝石の名前で、精霊に愛されるだなんて、とっても幸先がいいスタートだな)



 お父様とお母様の言葉に嬉しくなったわたしは、胸の騒めきなど頭の隅の方へと追いやって、得体の知れない不安の存在など、すっかりと忘れてしまっていた。


 ……というか、眠気には勝てなくて、いつの間にか眠ってしまっていたのだけれど。


(赤ちゃんのうちは、いっぱい泣いて、いっぱい寝なくちゃね……)




 ******




 冒険ファンタジーの世界で、冒険者として生きていこうと決めたわたしは、生まれてすぐに魔法の訓練を始めた。


 自分の持つ魔力量を上げるために、風魔法を使っては魔力を枯渇させる。ただひたすらそれを繰り返す訓練、ライトノベルであるあるな訓練だ。


 今も、少し遠くにあるおもちゃを、わたしの目の前まで動かしたところ。


(意外と簡単に魔法が使えたなぁ。やっぱりイメージすることが大切なんだね。それに、やっぱりお手本が身近にいると違うよね!)


 まだ言葉の交わせないわたしに、魔法を教えようとする人はいない。


 けれど、わたしの世話をしてくれている乳母のマーサが、風魔法を使ってわたしの周りの温度を一定に保つように調節してくれていた。


 だから、わたしはそれを目で見て盗んで覚える。魔法だけに限らず、目で見て盗めることはなんでも盗んだ。


 目で見て盗んで覚えること、それは前世のわたしが生きていく上で必要だった生活の技。そうしないと生きていけない境遇だったから。


(それにしても、いくら魔法を使っても魔力が尽きないのはどうしてなんだろう? もしかして、これが神様がくれたチート能力だったりして!)


 赤ちゃんのわたしにとって、少しの魔法でも魔力の消費量は激しいはず。それなのに、魔力が尽きることは一度としてなかった。


 まるで、魔力がなくなった瞬間、どこからか供給されているかのように……


 ただ、体力だけは年相応にすぐに底をつき、眠っては体力を回復させるということを、やはりひたすら繰り返した。


 そのおかげか、わたしは両親やマーサから「よく寝て、とても良い子ね」と言われ、とても喜ばれていた。


(ふふ、ウィンウィンの関係よ!) 


 けれど、ウィンウィンの関係だと思っていない存在がいることに、わたしは全く気付いていなかった。


 窓の外からこっそりと覗く“黒い影”の存在に。






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