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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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『盗』のスキル

 神様としての全ての魔法や能力を盗まれた自称神様(かみさま)は、わたしに必死で懇願してきた。


「お願いだから早く返して。泥棒なんて絶対にしてはいけないことなんだよ?」

「どうしようかなあ? と言いたいところだけど、そもそも返し方が分からないからできないよ」

「盗んだものを返そうと思いながら、また僕の身体に触れれば返せるよ。ほら、やってみて」

「……嫌だ」


 ツーンとそっぽを向いたわたしは、わざとらしくちらりと自称神様(かみさま)を見る。


「……何でも言うことを一つだけ叶えてあげるから返してよ。もちろん僕の可能な限りになるけれど」

「よし! 言質とったからね!」


 自称神様(かみさま)が折れた。薄々感じてはいたけれど、この自称神様(かみさま)はチョロ神だと思う。


「神様の力を手に入れたのに、意外と素直に返してくれるんだね。この力があれば、世界征服だってできると思うよ?」


 自称神様(かみさま)は、不思議そうに尋ねてきた。


(だからこそいらないんだよね。自称神様(かみさま)の強大な力なんて畏れ多いもの。できる限り早く手放したいよ)


 それがわたしの本音だ。そしてもう一つ。


「わたし、泥棒なんて悪いことは絶対にしたくないから。それに自称神様(かみさま)が、何でも言うことを叶えてくれた方が嬉しいし!」

「どうしよう、それはそれで怖い気がする。僕、早まったかな?」

「ふふ、楽しみにしててね」


 わたしの笑顔に自称神様(かみさま)はじとりとした視線を向けてきた。そんな目で見られても、わたしは全く気にしない。


「ちなみに盗んだ魔法やスキルは、全てわたしの中に吸収されちゃうの?」

「基本的には、物体は手中に、魔法やスキルなどの物体でないものは吸収されるよ。ただ、それらも『手中に』って望めば、具現化して手中に現れる。うまく言葉を使えば、それを誰かにあげることもできるはずだよ」

「わたしがすでに持っている魔法も、盗んで誰かに渡すことってできるの?」

「それは無理だよ。だって、自分で自分の物って盗める?」


 自称神様(かみさま)の説明に、わたしはハッとする。


「できない。正確には『盗む』の定義に当てはまらない?」

「うん、そうだよね。まあ、抜け道はあるかもしれないけどね」

「便利なようで難しいなぁ。そう言えば! どうして『盗』なの? しかも前世の言葉で書かれてあるよね?」


 ルベも『盗』という文字が分からないと言っていた。それに、『転生者』も『悪役令嬢』も日本語で書いてある。


 どうして、わざわざ日本語にしたのだろうか、とわたしは思う。


「ああ、それね。僕の趣味かな。それにただの『盗』じゃないんだよ。スーフェちゃんは国語っていうのが得意だったでしょ?」

「さすが自称神様(かみさま)! よく知ってるね」


 何を隠そう、前世のわたしが目指していたのは、国語教師だ。安定した公務員への道こそが、前世のわたしの目指すべき道だった。今世とは真逆だ。


「だって神様だもん。『盗』を使って言葉を作れば、その言葉通りのことができるよ。もう色々とやったでしょ?」

「言葉って、四字熟語とか慣用句のこと? もしかして、遠くにいるお母様たちの会話が聞こえたのは、やっぱり盗み聞きできたってこと?」

「そうだよ。その時【盗み聞き】のスキルが発動したんだね。それに盗み見たこともあるでしょ? あれも、こっそりと見ることで、見たいと思うものが何でも見られるはずだよ」


(マーサの隠蔽のスキルを見ることができたのも、盗み見たからなのね。お祖父様のことも……)


 少しずつ、この『盗』のスキルについて理解ができてきた。


「なるほど。『盗』って漢字が選ばれたことは不本意だけど、言葉で遊ぶの面白いね。じゃあさ、試したいことがあるから、自称神様(かみさま)にしか使えない特別な魔法を使ってみてよ。そうだなぁ、わたしに転移魔法をプレゼントして欲しいな」

「急にどうしたの? 今回だけ特別だよ。スーフェちゃんに転移魔法をプレゼント!」


 わたしは、自称神様(かみさま)を見て、にやりと笑って見せた。


「オッケー!」

「オッケー? ……って、まさか!?」

「うん、自称神様(かみさま)が誰かに魔法を授ける力を【目で見て盗んだ】よ。これこそが前世でわたしが一番得意だったことだもの」

「そういえば……」


 自称神様(かみさま)の顔が一気に青褪めた


 前世のわたしが得意だったこと。それは、誰かがやっていることを目で見て盗んで、模倣したり、習得したりすること。


 それは、決して良いとは言い難い生活環境の中で得た能力。


「ふふ、試しに使ってみよう! ルベ、来て」


 わたしの呼ぶ声に、今までのやり取りを黙って見ていたルベが、嫌々ながらも来てくれた。


「ルベはどんな魔法が欲しい?」

「従魔契約を解除できる魔法」

「よし、わたしと同じ転移魔法ね」


 諦めの悪いルベの言葉を無視して、わたしは転移魔法をルベに授けようと試みた。ほいっとな。


「よし、じゃあ、ルベは試しに転移してみてよ」

「できねーよ。転移魔法なんて、今は無き伝説級の魔法だぞ?」


 わたしの言葉にルベは呆れ顔だ。


「もうっ、ツンツンしてないでやってみてよ。今までのやりとりを見てたでしょ? きっと転移できるから!」


 ルベは渋々転移を試みた。すると……


「本当だ。転移できた。すげー!!」


 ルベのテンションが上がっている姿を初めて見たわたしは、もちろん心底愛でた。


(しっぽがピーンと立ってる! ふふ、本当に嬉しいんだね!)


 ルベが可愛すぎる。もしもルベがデレた時は、きっとわたしはキュン死にすると思う。


「ふふ、これでいつでもすぐに来れるね」

「まあ、チビがピンチの時には便利かもな」


 少しだけ面倒くさそうな顔をしつつも、ルベはそう呟いた。


(わたしのことを助けに来てくれるんだね。ルベったら、素直じゃないんだから)


 何だかんだ文句を言いつつも、ルベはとても面倒見がいいな、と思う。


「スーフェちゃん、それはもう使わないで欲しいな。世の理が崩れてしまうから。目で見て盗むのはいいけれど、神様しか使えない力は、本気で僕が怒られるから」

「……約束はできないけど、善処する」


 こうして、わたしは自称神様(かみさま)の弱みを握り、一泡吹かせるという目的を達成した。






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