自称神様
「ルベ、いるなら出てきて!!」
わたしは今、ルベと再会を果たした本邸の池に来ている。全く返事はなかったけれど。
「ルベ、話があるの。従魔契約のこと!」
従魔契約のこと、と付け加えると、ルベは嫌々ながらも、わたしの前に姿を現した。
「もう、いるなら初めから返事してよ!」
「うるせえ!! チビ、契約解除するのか?」
「しないよ。わたしが死ぬまで絶対に契約解除なんてしてあげないんだから」
「ふざけんな!」
ルベは今にもわたしに飛びかかろうとする勢いだ。だから、慌てて補足説明をする。
「正確には、契約の解除の仕方が分からないの。だって、自称神様がやってくれたんだもの」
「自称神様ぁ?」
ルベは怪訝な顔でわたしを見た。
そして、自称神様だと言い出したわたしに、憐れみの視線を送ってくる。
けれど、わたしはお構いなしに、話を進めることにした。どうしても、ルベに確認しておきたいことがあったから。
「そんなことよりも、ルベは、にゃ王なの?」
「はあ?」
ルベは憐れみを通り越して、痛々しく感じたらしい。でもここは「にゃあ?」と言って欲しかった。
「あ、間違えた。ルベは魔王なの?」
「……さあな」
「じゃあ、転生者って知ってる?」
「興味ない」
「もうっ、転生者って、わたしのことなんだよ。わたしには前世の記憶があるんだよ」
「ふーん」
我関せずの構えを貫くルベに、わたしは少しだけ寂しくなった。従魔契約がなければ、本当にわたしのことなんてどうでもいいんだろうな、と思ってしまったから。
けれど、ここで引き下がるわたしではない。
「ねえ、驚かないの?」
「別に……」
(やっぱり悔しい! どうにかルベを驚かせたい)
そしてわたしは考えた。実際に会うのが一番だ、と。
「だから、これからその自称神様と会って話そうと思うの」
「はっ、無理だろ?」
「やってみなくちゃ分からないよ。自称神様ぁ! 悪役令嬢ってどういうことですかぁ? ここは冒険ファンタジーの世界じゃないの? ねぇ自称神様ぁ?」
わたしは空に向かって叫んだ。けれど、自称神様からの応答はない。
そりゃそうだ、と言いたそうなルベの視線が突き刺さる。
ルベはすでに痛々しいを通り越して、わたしのことを痛い子だと認定していた。それでもわたしは諦めない。
「世界で一番素敵な自称神様ぁ、約束のアイテム袋が欲しいので、わたしに会いにきてくださーい」
「はい、は〜い! スーフェちゃん、お待たせ!」
自称神様が、いつもの軽いノリでわたしたちの前に姿を現した。
「いや、絶対に偽物だろう……」
ルベの呟きに、わたしは自信を持って否定することができない。そんなルベの視線が、またしてもわたしに突き刺さる。
どうにか、自称神様が本物の神様だと証明しなければならなくなったわたしは、自称神様の腕をぎゅっと掴んだ。絶対に逃げられないように。
「ねえ、この前も言ったけど、悪役令嬢ってどういうこと?」
「あっ……」
わたしの言葉に、あからさまに自称神様の目が泳いだ。
「ど・う・い・う・こ・と?」
「……間違っちゃった、えへ!」
「えへ! じゃない!! どうしてくれるの? 嫌、絶対に嫌!!」
「でも、もう無理だよ。それに埋め合わせもしたでしょ。新キャラ。スーフェちゃんの好みでしょ?」
「……否定はできない」
すぐに、カルのことを言っているのだと分かった。
ぶっちゃけ好みだ。良くやった、と褒めてあげたくなる。
キラキラしすぎていないイケメンで、とても優しい。一緒にいると心地良くて癒される。今のところ非の打ち所がないのだから。
けれど、自称神様の今の言葉で確定してしまった。
(やっぱり、カルは自称神様が作った特別な人なんだね)
その事実に、わたしの心に一つの不安が生まれる。けれど、もう一つわたしには追求しなければならないことが残っている。今はそっちも明らかにしなければならない。
「それに、スキルが『盗』って何!? わたし、泥棒なんてしたことないし。超がつくほど品行方正だったんだよ!!」
「それ、超がつくほどの便利スキルだよ? 誰かの持ってる魔法やスキルだって奪えちゃうんだから」
自称神様は自慢げにわたしに説明した。
(奪うって、やっぱり泥棒じゃない! もう、悔しいい!!)
わたしは納得がいかず、どうにかして自称神様に一泡吹かせてやろうと考えた。そして、思いついたわたしは、にやりと笑った。
「へぇ〜、どうやって?」
「魔法やスキルを盗みたい、と思いながら身体に触れればオッケーだよ」
「こう?」
わたしは自称神様の肩をポンと叩いて、そのとおり実行した。
「そうそう!」
「ふふ、本当に便利だね」
その瞬間、自称神様が青褪めた。
「えっ、まさか!? 泥棒!! スーフェちゃんが泥棒なんてする悪い子だとは思わなかったっ、早く返して!!」
わたしはこの『盗』のスキルで、自称神様の全ての魔法や能力を盗むことに成功した。