カップル成立
(うっわ、焦りすぎて、婚約をすっ飛ばして結婚って言っちゃったよ。恥ずかしい……)
わたしは今、身体を斜め四十五度に曲げ、右手をカルセドニー様に向かって差し出している。
この手を取ってくれれば、カップル成立だ。
「「えっ!? ちょ……」」
突然の告白タイムに、双子は驚愕の声を上げようとした。けれど、その言葉は、わたしの鋭い眼光によってかき消された。
(今いいところなんだから、邪魔するな! 「ちょっと待った!」コールなんて絶対に言わせないんだから!!)
わたしの一世一代の告白タイム。もちろん告白をするなんて初めてのこと。
早鐘を打ち続ける心臓に、答えを待っているこの時間がとても長く感じてしまう。
(どうしよう、だめかな? そりゃあ、だめだよね? よく知らない女の子からいきなり告白されたら困るだけだよね?)
わたしの思考が、悪い方へと向かっていってしまう。ぎゅっと目を瞑り、わたしは覚悟を決めた。
(きっと困ってるだろうから、きちんとわたしから、冗談でした〜、って言わなきゃ!!)
もちろん冗談ではなかったのだけれど。そんな時、わたしの手をゆっくりと握る優しい温もりを感じた。
「えっ……」
何が起きたのか分からなかった。だから、すぐに目を開けて一気に顔をあげたわたしは、胸がきゅんとときめく。
わたしの視界に飛び込んできたカルセドニー様の顔が、本当に嬉しそうに笑ってくれていたのだから。
その笑顔を見た瞬間、わたしも笑っていた。
「うん、もちろん良いよ。僕と結婚しよう! でも、まずは婚約からだね」
「……ですよね」
ははっと笑いながら告げられた言葉に、わたしの顔は耳まで真っ赤に染まる。
「でも、本当にいいの?」
今さらながら、不安になってしまう。だって、わたしのことなんて知らないはずなのに。
「一目惚れ、って信じる? きっと僕の運命の人なんだと思う。だから、僕からも言わせて欲しいな。僕と婚約してください」
まさか、そんなことを言ってくれるなんて思ってもみなかった。わたしの答えなんてもちろん決まっている。
「はい!」
満面の笑みで返事をしたわたしを見て、カルセドニー様も、やっぱりとても嬉しそうに笑ってくれる。
「ちょっと待って、いきなり婚約って?」
「しかも、僕たちの問題に答えてもらってないし」
そんなわたしたちに文句を言い始めたのは、あの双子だ。せっかく良い雰囲気なのに、邪魔するなんて信じられない。
ちなみに、乙女ゲームでは、双子の「俺どっち問題」は、悪役令嬢のスフェーンにも襲いかかる。そして、悪役令嬢のスフェーンは百発百中の確率で間違える。
もし、今のわたしがその問題を出されたら、百発百中で正解できる。【鑑定】すればそれぞれの名前が見えるのだから。
だから、早くこの双子はをどうにかしたいと、わたしは答えを言う。
「あなたがルッカ様で、あなたがルッド様です。はい、終わり」
わたしは、わざと大袈裟に答えた。
「合ってる……」
「信じられない……」
双子は驚いた顔をして固まっていた。そんなのお構いなしに、わたしはカルセドニー様に向き直る。
「さあ、カルセドニー様、さっそくお父様たちにご報告にいきましょう!」
婚約するにあたり、両家の承諾は重要だ。カルセドニー様の気が変わらないうちに、周りから確実に固めておこうと、わたしはカルセドニー様と一緒に、屋敷内へと向かった。
そして話し合った結果、両家の親は誰も反対する人はいなかったので、無事に話はまとまった。
******
「スーフェ、来ちゃった」
「カル! 嬉しい!」
わたしたちは頻繁に会うようになった。今では「カル」「スーフェ」と愛称で呼び合うほど。
一緒に過ごしていると、カルは時々、何もない場所に目を向けることがある。そういう時は大抵そこに精霊さんがいる。
「カルって、精霊さんが見えるの?」
「うん。スーフェにも見えるの?」
「いつも見えるわけではないけれど、精霊さんがいるのは分かるよ」
普通に見てもわたしには精霊さんの姿は見えない。けれど、盗み見るとわたしにも精霊さんの姿が見ることができた。
精霊さんの気配自体は、それなりに感じ取れる。
そんなカルの周りには、いつもたくさんの精霊さんが集まっていた。
(やっぱり精霊の加護の力なんだろうな。すごいなぁ)
カルの存在は特別なのかもしれない。そう思えるほど、わたしはカルに不思議な魅力を感じていた。
一緒にいて心地良い。
(本当にとっても素敵な人に出逢えたな。絶対にこのチャンスは手放せないね。それに、乙女ゲームでは、スフェーンが王子の婚約者候補になるルートもあったはずだし、それだけは絶対に阻止するんだから! けれど……)
わたしはカルを、ちらりと窺った。
我が儘を言うと、恋愛結婚がしたかった。けれど、そんな悠長なことは言っていられなくなってしまい、今がある。
(カルは本当に良かったのかな?)
そう思っていると、カルはすぐにわたしを見て微笑んでくれる。だから、わたしは思う。
(カルとなら、きっとこれからでも恋愛することができるよね。それにもし、カルにやっぱり嫌だって言われた時は、素直に婚約破棄にも応じて、潔く身を引こう。一度婚約破棄された女性は、次の貰い手が見つからないって言うし、その時はルベと一緒に老後を過ごそう)
いずれにせよ、王子の婚約者になることだけは回避できる。でも可能なら、婚約破棄はしたくない。
それに、わたしにはもう一つ気になることがあった。あの時に聞こえてきた「埋め合わせ」という囁き。その言葉が心に引っかかっている。
カルの存在自体が、自称神様の力が関係しているのは間違いない。みんなの記憶も操作しているのだから。
だからこそ、わたしはきちんと自称神様に物申したい。
「……そのためには、戦力は多い方がいいはず」
たとえ、一匹でも……