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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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カップル成立

(うっわ、焦りすぎて、婚約をすっ飛ばして結婚って言っちゃったよ。恥ずかしい……)


 わたしは今、身体を斜め四十五度に曲げ、右手をカルセドニー様に向かって差し出している。


 この手を取ってくれれば、カップル成立だ。


「「えっ!? ちょ……」」


 突然の告白タイムに、双子は驚愕の声を上げようとした。けれど、その言葉は、わたしの鋭い眼光によってかき消された。


(今いいところなんだから、邪魔するな! 「ちょっと待った!」コールなんて絶対に言わせないんだから!!)


 わたしの一世一代の告白タイム。もちろん告白をするなんて初めてのこと。


 早鐘を打ち続ける心臓に、答えを待っているこの時間がとても長く感じてしまう。


(どうしよう、だめかな? そりゃあ、だめだよね? よく知らない女の子からいきなり告白されたら困るだけだよね?)


 わたしの思考が、悪い方へと向かっていってしまう。ぎゅっと目を瞑り、わたしは覚悟を決めた。


(きっと困ってるだろうから、きちんとわたしから、冗談でした〜、って言わなきゃ!!)


 もちろん冗談ではなかったのだけれど。そんな時、わたしの手をゆっくりと握る優しい温もりを感じた。


「えっ……」


 何が起きたのか分からなかった。だから、すぐに目を開けて一気に顔をあげたわたしは、胸がきゅんとときめく。


 わたしの視界に飛び込んできたカルセドニー様の顔が、本当に嬉しそうに笑ってくれていたのだから。


 その笑顔を見た瞬間、わたしも笑っていた。


「うん、もちろん良いよ。僕と結婚しよう! でも、まずは婚約からだね」

「……ですよね」


 ははっと笑いながら告げられた言葉に、わたしの顔は耳まで真っ赤に染まる。


「でも、本当にいいの?」


 今さらながら、不安になってしまう。だって、わたしのことなんて知らないはずなのに。


「一目惚れ、って信じる? きっと僕の運命の人なんだと思う。だから、僕からも言わせて欲しいな。僕と婚約してください」


 まさか、そんなことを言ってくれるなんて思ってもみなかった。わたしの答えなんてもちろん決まっている。


「はい!」


 満面の笑みで返事をしたわたしを見て、カルセドニー様も、やっぱりとても嬉しそうに笑ってくれる。 


「ちょっと待って、いきなり婚約って?」

「しかも、僕たちの問題に答えてもらってないし」


 そんなわたしたちに文句を言い始めたのは、あの双子だ。せっかく良い雰囲気なのに、邪魔するなんて信じられない。


 ちなみに、乙女ゲームでは、双子の「俺どっち問題」は、悪役令嬢のスフェーンにも襲いかかる。そして、悪役令嬢のスフェーンは百発百中の確率で間違える。


 もし、今のわたしがその問題を出されたら、百発百中で正解できる。【鑑定】すればそれぞれの名前が見えるのだから。


 だから、早くこの双子はをどうにかしたいと、わたしは答えを言う。


「あなたがルッカ様で、あなたがルッド様です。はい、終わり」


 わたしは、わざと大袈裟に答えた。


「合ってる……」

「信じられない……」


 双子は驚いた顔をして固まっていた。そんなのお構いなしに、わたしはカルセドニー様に向き直る。


「さあ、カルセドニー様、さっそくお父様たちにご報告にいきましょう!」


 婚約するにあたり、両家の承諾は重要だ。カルセドニー様の気が変わらないうちに、周りから確実に固めておこうと、わたしはカルセドニー様と一緒に、屋敷内へと向かった。


 そして話し合った結果、両家の親は誰も反対する人はいなかったので、無事に話はまとまった。




 ******




「スーフェ、来ちゃった」

「カル! 嬉しい!」


 わたしたちは頻繁に会うようになった。今では「カル」「スーフェ」と愛称で呼び合うほど。


 一緒に過ごしていると、カルは時々、何もない場所に目を向けることがある。そういう時は大抵そこに精霊さんがいる。


「カルって、精霊さんが見えるの?」

「うん。スーフェにも見えるの?」

「いつも見えるわけではないけれど、精霊さんがいるのは分かるよ」


 普通に見てもわたしには精霊さんの姿は見えない。けれど、盗み見るとわたしにも精霊さんの姿が見ることができた。

 精霊さんの気配自体は、それなりに感じ取れる。


 そんなカルの周りには、いつもたくさんの精霊さんが集まっていた。


(やっぱり精霊の加護の力なんだろうな。すごいなぁ)


 カルの存在は特別なのかもしれない。そう思えるほど、わたしはカルに不思議な魅力を感じていた。


 一緒にいて心地良い。


(本当にとっても素敵な人に出逢えたな。絶対にこのチャンスは手放せないね。それに、乙女ゲームでは、スフェーンが王子の婚約者候補になるルートもあったはずだし、それだけは絶対に阻止するんだから! けれど……)


 わたしはカルを、ちらりと窺った。


 我が儘を言うと、恋愛結婚がしたかった。けれど、そんな悠長なことは言っていられなくなってしまい、今がある。


(カルは本当に良かったのかな?)


 そう思っていると、カルはすぐにわたしを見て微笑んでくれる。だから、わたしは思う。


(カルとなら、きっとこれからでも恋愛することができるよね。それにもし、カルにやっぱり嫌だって言われた時は、素直に婚約破棄にも応じて、潔く身を引こう。一度婚約破棄された女性は、次の貰い手が見つからないって言うし、その時はルベと一緒に老後を過ごそう)


 いずれにせよ、王子の婚約者になることだけは回避できる。でも可能なら、婚約破棄はしたくない。


 それに、わたしにはもう一つ気になることがあった。あの時に聞こえてきた「埋め合わせ」という囁き。その言葉が心に引っかかっている。


 カルの存在自体が、自称神様(かみさま)の力が関係しているのは間違いない。みんなの記憶も操作しているのだから。


 だからこそ、わたしはきちんと自称神様(かみさま)に物申したい。


「……そのためには、戦力は多い方がいいはず」


 たとえ、一匹でも……






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