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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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婚約?の申し込み

(この男の子は、誰?)


 目の前のその男の子は、今もわたしを心配そうに見つめてくれている。けれど、わたしはこの男の子のことを全く知らないし、見覚えもない。


 そして何より、優しくわたしのことを抱きかかえてくれているなんて。


(えっ、待って!? 何なの、この状況!?)


 胸の高鳴りが抑えきれない。はっきり言って、男の子にこんな優しくされたことなんてなかったから。キャパオーバーなわたしの思考は停止した。


 わたしが目を覚ましたことに気付いたのか、その男の子は、ふわりと優しくわたしに向かって微笑んでくれた。


(えっ、良すぎ……)


 その優しい笑みに、きゅんと胸がときめいた。一瞬にして、わたしの顔が赤くなったのが分かった。


「大丈夫?」

「う、うん……」


 返事をするだけで精一杯。だって、恥ずかしすぎるから。恥ずかしさのあまり、思わず目を逸らしてしまう。すると


(そうだ、ここは乙女ゲームの世界だった……)


 わたしの視界に、あの双子の姿が映ってしまい、現実に引き戻されたわたしは、ようやく思考も動き始めた。


 同時に、あの時に、わたしの頭の中で囁かれたあの「埋め合わせ」という言葉が、頭の中を反芻する。


(もしかして、埋め合わせって……)


 それしか考えられなかった。


(泣く。わたしのときめきを返せ。乙女ゲームの関係者にだけは、絶対に好きにならないんだから!! でも……)


 一体この男の子は、誰なのか。敵か味方か。


(この世界はきっと、あのふざけた名前の乙女ゲームの世界だと思う。あの双子が攻略対象者。問題は、突然現れたこの男の子の存在だよね?)


 黙りこんでいるわたしに、再び男の子は優しい口調で声をかけてくれた。


「大丈夫? 痛いところはない?」


 わたしはその優しい声に導かれるように、ゆっくりと顔を上げ、男の子の顔をじっくりと見た。


(有りよりの有り……)


 はっきり言って、グッジョブだとしか思えない。双子と良く似てるけど、少しだけ違う。この男の子はキラキラしすぎていないから。


(やっぱり分からないよ。この男の子は一体誰なの?)


 記憶を手繰り寄せよせても、見覚えのない男の子。先ほどのフルーヴ伯爵家との歓談の場にもいなかった。だから思った。


(ここは本人に聞いてしまうのが一番だよね)


 失礼かもしれない、などとは言っていられない。


「大丈夫だよ、ありがとう。それで、あなたは誰なの?」

「カルセドニーだよ。フルーヴ伯爵家の三番目の末っ子だよ」


 わたしの突然の質問にも、カルセドニー様はにこやかに答えてくれた。けれど、その答えがあり得ない。


(えっ、双子の弟? 嘘、でしょ?)


 フルーヴ伯爵家とは、先ほど全員と顔合わせをした。絶対に間違いない。このカルセドニー様は、歓談の場には絶対にいなかった。


「嘘でしょ? さっき歓談の場にいなかったよね? あなたたちに弟なんていないでしょ?」


 わたしは、今度は双子に向かって尋ねた。


「何を言ってるの? カルは弟だよ」

「カルはずっと一緒にいたよ」


 さも当たり前でしょ、というように、双子は平然と言ってのけた。


(嘘!? 絶対にいなかったよ。どうなってるの?)


 わたしは再び記憶を手繰る。今度は前世の乙女ゲームの記憶だ。


 そこにカルセドニーという登場人物はいなかった。カルセドニーも宝石の名前だから、宝石が大好きなわたしが忘れるはずがない。


(ということは、このカルセドニー様は乙女ゲームの物語とは関係ないってことだよね? 背景のモブまでは、さすがに覚えてないけれど、そう言うことだよね?)


 物語に関わってくる存在でなければ……


(イケる! しかも三番目ってことは、婿入りも可?)


 わたしは一人娘だから、結婚相手が婿養子になってくれれば、お父様とお母様もきっと喜んでくれるはず。


(でも、もう一押し。他に何か決め手があればいいのにな。何かないかな?)


 わたしは必死だった。婚約者の存在というものも、確実に乙女ゲームに関わってくるから。


 そして何よりも、生涯共にする伴侶だからこそ、妥協はしたくない。


(わたし、絶対に幸せになりたいもん!)


 わたしはカルセドニー様をじっと見つめた。今もまだ、抱きかかえてもらったまま。だから、とても距離が近い。


(見た目は文句ない。それに優しい。頭の良し悪しは分からないけれど、健康で長生きしてくれるのが一番だし。あ、ステータス!!)


 わたしはいい方法を思いついた。わたしのスキル【鑑定】だ。


(ここで使わずしていつ使う? 今でしょ!! あっ、なんか見えてきた。精霊の加護? 良さそうじゃない! 精霊に好かれる人に悪い人はいないはず! 決めた!!)

 

 思い立ったが吉日、わたしの行動は早かった。


 わたしは一気に立ち上がり、カルセドニー様と向き合った。カルセドニー様も、わたしの突然の行動にも微笑みながら、空気を読んで立ち上がってくれる。


 そして、次の瞬間、


「カルセドニー様! わたしと結婚してください!!」


 婚約ではなく、結婚を申し込んでいた。






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