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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
124/125

別れ、そして……

 嫌な予感は当たってしまった。


「ルベ!?」


 異変に気付いたわたしたちは、急いでルベの元へと駆け寄った。


 吸収の能力を使ったルベは、“全て”を吸収した。魔法や魔力だけではない、魂まで全て。


 ルベの足元には、ゲルガー公爵の亡骸だけが残されていた。


 肩で息をして、何かに抗うように踠き苦しむルベの姿を前に、わたしたちは息を呑んだ。


 ルベの身体の中で、一体何が起きてるというのだろうか。


 何もできず、ただ呆然と立ち尽くすわたしたちに、いつものルベの減らず口が叩かれる。


「遅いっ!! のろのろしてるな、早くっ、俺を斬れっ!!」

「えっ!? 斬れって、ルベ、何を言ってるの?」


 突然、物騒なことを言い出した。冗談にしては全く面白くない。けれど、冗談ではないことくらい分かってる。


 だからと言って、素直に頷けるわけがない。


「シアンの魂と先代魔王の魂を俺の中に吸収した。だから、俺ごと斬れって言ってんだよ!!」

「どうして!? なんでそんなことをしたの!? それだと、ルベが……」


 本当は分かってる。何が言いたいのかも。どうしてそんなことをしたのかも。


「とやかく言っている暇はない。今もヤツらが俺を支配しようと俺の中で暴れている。まだ俺に理性が残っているうちに、早く俺ごと光の剣で斬れ。そしたら、魂も浄化できる。今度こそ、終わりにできるんだ」

「無理っ!! そんなの絶対に嫌っ!!」

「スーフェっ!!」


 現実から逃げようとしていたわたしを叱責する声に、びくり、と肩が震えた。


「こんな時ばっかり、スーフェって呼ぶなんてずるいよ……」


 だからこそ、一刻一秒も無駄にしている暇なんてないんだと思い知らされた。


「ヤツらはまた、誰かに乗り移って、生きながらえて、永遠に同じことの繰り返しだ。この国、この世界が支配されてしまう前に、俺は元魔王としての責任を取る。もう、これしか方法はない」

「で、でも嫌だよ。光の剣で斬ったら、ルベだっていなくなっちゃうじゃん!!」


 闇属性を主としている高位魔族なのだから、ルベの魂もこの世から消えてなくなってしまう。


「俺は、スーフェがいるこの人間界が好きだ。だから、守らせてくれ」

「だから、ずるいってば……」

「もしかしたら、今度は人間に生まれ変わることだって、できるかもしれないんだぞ」

「だから、……もうっ、分かったよ」


 ルベの言葉に、決意せざるを得なかった。だって、どれだけ鈍感なわたしでも気付いてしまったから。


 本当は最初から分かっていた。ルベはわたしのために、いつも側にいてくれたことも。文句を言いながらも、面倒を見てくれていたことも。


 なんだかんだ言いながら、わたしのことが好きだってことも。


 そして今、目の前で優しく笑うルベの表情を見てしまったら、気付いてはいけないことまで気付いてしまった。


 その“好き”が、わたしと同じだということに。


 わたしはルベが好きだ。それは、お兄ちゃんとしてだけではなくて。


 もちろんカルのことも嘘偽りなく好きだ。カルと結婚したことも全く後悔はしていないし、胸を張って幸せだと言える。


 それでも、やっぱりルベは特別で。


 もう涙が止まらなかった。泣いてたらだめなのに。泣くくらいなら、他の方法を探さなきゃいけないのに。


 けれど、思い付かない。時間は一刻一秒も無駄にできない。もう時間はなかった。


「スーフェ、私がやるわ」

「ケール……ごめんね。ケールに嫌な役を押し付けちゃうなんて。ルベのことは私が抑えるから。だから、脳天から真っ二つにしてやって!!」


 涙を一気に拭って、わたしのことを心配そうに見つめるケールに向かってにかっと笑うと、わたしは思いっきりルベに抱きついた。


 ルベは逃げない。嫌がらない。優しく微笑んで、素直にわたしに抱きつかれた。


 心も盗んでいないし、猫可愛がりのスキルも使っていないのに、こんな時ばっかり素直に抱きつかせるなんて。


 やっぱり悔しいから、今まで抱きしめられなかった分も、全ての想いも込めて、わたしはルベを抱きしめた。力強く、ぎゅっと……


「馬鹿力」


 ふっ、と笑みを溢したルベの減らず口は相変わらずだ。


「うるさい! このまま心を盗んだっていいんだからね!!」

「それは嫌だな」

「ふふ、大好きよ、ルベ、わたしの黒猫ちゃん」


 再び、わたしの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。次から次へと溢れ出して止まらない。


「ブサイク」

「にゃんだと!!」


 最後の最後まで、本当にルベだ。それなのに、わたしを見つめるその表情は、今までに見せたことのないルベで。


 もう涙で滲んで、何も見えなくなった。そして、頭の上に優しい手の重みが加わる。


「……俺は魂が浄化されても、スーフェのことを覚えていてみせるから。だから……」

「!?」

「またな」


 ルベのその一言を聞くのとほぼ同時に、わたしは言葉を放っていた。力強く願いを込めて。


「--------、-ー-----」


 わたしが言い終えるのと同時に、ケールが真上から光の剣をルベに突き刺す。


 この大切な人間界を守るために、一番辛い役目をケールは引き受けてくれた。わたしはそれさえも自分でできなかった。


 わたしは無力だ。けれど、大切なものはこの手が届く限り、絶対に守りたい。大切な人を失いたくない。


 そして、わたしの腕の中から、ルベの身体は跡形もなく消えていった。






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