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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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攻略対象者の双子

「わたしが無駄に可愛いすぎる理由って、転生特典だよね? それとも……」


 続く言葉を、わたしは口にはしたくなかった。今日も姿見の前に立って、わたしは自分の姿を見つめ考察する。


「それに冒険者って、こんなに可愛くて大丈夫なのかな?」


 冒険ファンタジーの世界で旅するのに、現実問題、可愛さはどちらかといえば必要ないと思う。むしろ、可愛ければそれだけ危険度が増すのではないだろうか。


「無駄に可愛すぎるのって、絶対におかしいよね?」


 自意識過剰なわけではなく、本気で言っている。実際、わたしの見た目は可愛いと思う。


 ぱっちりとした瞳は大きくて、ぷっくりと膨らむ形の良い唇に、整った顔立ち。


 さらには、外で思いっきり遊んでいるにも関わらず、白く透き通る陶器のような肌は健在で、イエローゴールドの長い髪は、メイドたちの手腕により、さらさら艶々で天使の輪が輝いている。


 全ては、自称神様(かみさま)のくれた転生特典かもしれない。ポジティブにそう思い込もうとしていた。けれど……


「やっぱり悪役令嬢疑惑が出た今、この見た目は、詰んだとしか思えない……」


 悪役令嬢顔の代表格でもある釣り上がり気味の目に、侯爵令嬢という身分、考えれば考えるほど、嫌な予感しかしなかった。


「でも、わたしのこの釣り目は、猫ちゃんみたいで可愛い、わたしの一番のチャームポイントだもの!!」


 やっぱり猫ちゃんが好き。


「ルベに早く会いたい、もふもふ祭……」


 窓の外からわたしを見つめる黒い影が、ブルッと震えたのを、今の私ではまだ気付くことができなかった。


 

 ******




 そして、とうとうこの世界が乙女ゲームの世界だと、確定してしまう日が訪れる。


 フルーヴ伯爵が一家総出で、オルティス侯爵家に遊びに来た時のこと。


 お母様が「婚約者候補にちょうど良い男の子がいるのよ」とマーサに漏らしていたのを、わたしは得意の【盗み聞き】で知っている。


 フルーヴ伯爵家はオルティス侯爵家と領地が隣で仲が良い。お母様的には、一番の婚約者候補らしい。


 歓談中のわたしは、婚約者候補だなんてドキドキしちゃう、なんて思うわけがない。


(やっぱり、みんな無駄にイケメンなんだよね。冒険ファンタジーって言ったら、もっとゴツくてむさ苦しい人たちの集まりじゃないの? もう、本当に無理だから!!)


 偏見に満ち溢れた独自の見解を持つわたしは、全くと言っていいほど、婚約者候補とのドキドキワクワクな顔合わせを、楽しんではいなかった。


 目の前に座っているフルーヴ伯爵夫妻と双子の息子たちは、漏れなく全員が見目麗しかった。


(やっぱり乙女ゲームの世界なの? 嫌だっ、無駄にキラキラしいイケメンなんて、わたしの一番の苦手分野だもの!)


 わたしは昔から、無駄にキラキラするイケメンが苦手だ。どうしてか、その全てが嘘っぽく思えてしまって好きにはなれないらしい。


 けれど、イケメン自体は大好きだ。前世のわたしの好きなアーティストは真のキラキライケメンだから、あの方だけは例外だ。


 ちなみに、お父様みたいなキラキラしすぎないイケメンは、まさに理想のタイプ。


 そんなことを考えていたわたしは今、フルーヴ伯爵家の双子と一緒に庭園に来ている。


 心ここに在らずなわたしに、突然その双子が問題を出してきた。


「なあ、スフェーンには、俺たちが当てられるか?」

「スフェーンには、どっちがどっちだか分かるか?」


 その問題を聞いた瞬間、深いため息が漏れそうになった。


(……うざいんですけど? しかも、いきなり呼び捨て? 双子が「どっちだか分かるか?」って、本気でどうでもいいし。って、あれ? そのうざい問題に聞き覚えが……えぇっ!?)



 ++++++


「もちろん君には、俺がどっちだか分かるよね?」


 ++++++



 無駄にキラキラしている双子が、ヒロインと顔を合わせる度に問題を出してくる。そんな乙女ゲームのワンシーンが、わたしの頭の中を過った。


(確か、その問題に正解すると「俺のことを分かってくれるのは、君だけだ」と言われて、好感度が上がるんだよね? 逆に間違えると好感度がダダ下がりして、最後には監禁エンドまっしぐら……)


 詰んだ。正直、わたしはそう思ってしまった。


 たらりたらりと、額から嫌な汗が流れるのを感じたわたしは、嫌だと思いつつも、さらにその乙女ゲームを思い出す。


(主人公のヒロインの名前が花の名前、ベロニカで、悪役令嬢が宝石の名前、って、分かってはいたけど、それってわたしじゃないの!!)


 宝石の名前。乙女ゲームの悪役令嬢の名前はスフェーンだった。


 前世でその名前を聞いて、宝石図鑑を見て確認までしていたわたしの記憶に、間違いはない。


(攻略対象者は、王子と貴族のイケメン双子の兄弟と特待生の子だったよね……?)


 思い出し始めたら、どんどん記憶が蘇る。攻略対象者の双子の顔が、わたしの頭の中に浮かんできた。


(……まんま、こいつらじゃん!! は? なんで? おかしくない?)


「約束が違うじゃないのぉぉぉ!!」


 わたしは思わず叫び、とうとうその場にバタンと倒れてしまった。



 ++++++


「ごめんごめん。僕、ちょっと間違えちゃった。でも良いよね。適当に頑張って。埋め合わせはしておいたから」


 ++++++



「う、うーん……えっ!?」


 意識を失っていたわたしは、一瞬にして目が覚めた。だって、瞳を開けた瞬間、同い年くらいの()()()()()()男の子の姿が飛び込んできたのだから。





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