攻略対象者の双子
「わたしが無駄に可愛いすぎる理由って、転生特典だよね? それとも……」
続く言葉を、わたしは口にはしたくなかった。今日も姿見の前に立って、わたしは自分の姿を見つめ考察する。
「それに冒険者って、こんなに可愛くて大丈夫なのかな?」
冒険ファンタジーの世界で旅するのに、現実問題、可愛さはどちらかといえば必要ないと思う。むしろ、可愛ければそれだけ危険度が増すのではないだろうか。
「無駄に可愛すぎるのって、絶対におかしいよね?」
自意識過剰なわけではなく、本気で言っている。実際、わたしの見た目は可愛いと思う。
ぱっちりとした瞳は大きくて、ぷっくりと膨らむ形の良い唇に、整った顔立ち。
さらには、外で思いっきり遊んでいるにも関わらず、白く透き通る陶器のような肌は健在で、イエローゴールドの長い髪は、メイドたちの手腕により、さらさら艶々で天使の輪が輝いている。
全ては、自称神様のくれた転生特典かもしれない。ポジティブにそう思い込もうとしていた。けれど……
「やっぱり悪役令嬢疑惑が出た今、この見た目は、詰んだとしか思えない……」
悪役令嬢顔の代表格でもある釣り上がり気味の目に、侯爵令嬢という身分、考えれば考えるほど、嫌な予感しかしなかった。
「でも、わたしのこの釣り目は、猫ちゃんみたいで可愛い、わたしの一番のチャームポイントだもの!!」
やっぱり猫ちゃんが好き。
「ルベに早く会いたい、もふもふ祭……」
窓の外からわたしを見つめる黒い影が、ブルッと震えたのを、今の私ではまだ気付くことができなかった。
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そして、とうとうこの世界が乙女ゲームの世界だと、確定してしまう日が訪れる。
フルーヴ伯爵が一家総出で、オルティス侯爵家に遊びに来た時のこと。
お母様が「婚約者候補にちょうど良い男の子がいるのよ」とマーサに漏らしていたのを、わたしは得意の【盗み聞き】で知っている。
フルーヴ伯爵家はオルティス侯爵家と領地が隣で仲が良い。お母様的には、一番の婚約者候補らしい。
歓談中のわたしは、婚約者候補だなんてドキドキしちゃう、なんて思うわけがない。
(やっぱり、みんな無駄にイケメンなんだよね。冒険ファンタジーって言ったら、もっとゴツくてむさ苦しい人たちの集まりじゃないの? もう、本当に無理だから!!)
偏見に満ち溢れた独自の見解を持つわたしは、全くと言っていいほど、婚約者候補とのドキドキワクワクな顔合わせを、楽しんではいなかった。
目の前に座っているフルーヴ伯爵夫妻と双子の息子たちは、漏れなく全員が見目麗しかった。
(やっぱり乙女ゲームの世界なの? 嫌だっ、無駄にキラキラしいイケメンなんて、わたしの一番の苦手分野だもの!)
わたしは昔から、無駄にキラキラするイケメンが苦手だ。どうしてか、その全てが嘘っぽく思えてしまって好きにはなれないらしい。
けれど、イケメン自体は大好きだ。前世のわたしの好きなアーティストは真のキラキライケメンだから、あの方だけは例外だ。
ちなみに、お父様みたいなキラキラしすぎないイケメンは、まさに理想のタイプ。
そんなことを考えていたわたしは今、フルーヴ伯爵家の双子と一緒に庭園に来ている。
心ここに在らずなわたしに、突然その双子が問題を出してきた。
「なあ、スフェーンには、俺たちが当てられるか?」
「スフェーンには、どっちがどっちだか分かるか?」
その問題を聞いた瞬間、深いため息が漏れそうになった。
(……うざいんですけど? しかも、いきなり呼び捨て? 双子が「どっちだか分かるか?」って、本気でどうでもいいし。って、あれ? そのうざい問題に聞き覚えが……えぇっ!?)
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「もちろん君には、俺がどっちだか分かるよね?」
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無駄にキラキラしている双子が、ヒロインと顔を合わせる度に問題を出してくる。そんな乙女ゲームのワンシーンが、わたしの頭の中を過った。
(確か、その問題に正解すると「俺のことを分かってくれるのは、君だけだ」と言われて、好感度が上がるんだよね? 逆に間違えると好感度がダダ下がりして、最後には監禁エンドまっしぐら……)
詰んだ。正直、わたしはそう思ってしまった。
たらりたらりと、額から嫌な汗が流れるのを感じたわたしは、嫌だと思いつつも、さらにその乙女ゲームを思い出す。
(主人公のヒロインの名前が花の名前、ベロニカで、悪役令嬢が宝石の名前、って、分かってはいたけど、それってわたしじゃないの!!)
宝石の名前。乙女ゲームの悪役令嬢の名前はスフェーンだった。
前世でその名前を聞いて、宝石図鑑を見て確認までしていたわたしの記憶に、間違いはない。
(攻略対象者は、王子と貴族のイケメン双子の兄弟と特待生の子だったよね……?)
思い出し始めたら、どんどん記憶が蘇る。攻略対象者の双子の顔が、わたしの頭の中に浮かんできた。
(……まんま、こいつらじゃん!! は? なんで? おかしくない?)
「約束が違うじゃないのぉぉぉ!!」
わたしは思わず叫び、とうとうその場にバタンと倒れてしまった。
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「ごめんごめん。僕、ちょっと間違えちゃった。でも良いよね。適当に頑張って。埋め合わせはしておいたから」
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「う、うーん……えっ!?」
意識を失っていたわたしは、一瞬にして目が覚めた。だって、瞳を開けた瞬間、同い年くらいの全く知らない男の子の姿が飛び込んできたのだから。