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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
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運命の選択

「わあ、変わってないねえ!!」


 フルーヴ伯爵領内は、相変わらず緑豊かで澄んだ空気が心地良い。


「こうして二人でゆっくりと歩けるのも嬉しいね」

「これからはもっと一緒にいられるよ。仕事はたくさんあるみたいだけど、スーフェとの時間をいっぱい作れるように頑張るから」


 お父様は早々に引退して、海の見える長閑な街でお母様と一緒に暮らしたいと言っている。


 お祖父様の関係で早くに侯爵家を継いだから、今まで自由にできなかった分、やりたいことがたくさんあるみたい。


 だから、カルはお父様の仕事を引き継ぐ準備をしているため、もうあり得ないほど大忙しだ。


「ねえ、カルは本当にわたしでいいの?」

「突然そんなこと言い出すなんて、どうしたの?」

「だって、わたしたちって、小さい頃に婚約したじゃない。カルは心変わりしないのかな?って」


 きっと、わたしは今、マリッジブルーってやつだと思う。


 カルと結婚できるのは本当に嬉しい。けれど、わたしと結婚することで、カルのことを縛り付けてしまうから。


 今までだってそうだ。カルは侯爵家を継ぐために、お父様からたくさんのことを学んできた。カルの今までの人生の大半をそれに費やしてきた。


 今さらだけど、全部押し付けてきちゃったことを反省してる。


 そんなわたしの頭をカルは優しく撫でてくれた。


「スーフェ、俺はずっとスーフェのことが好きだよ。スーフェの宣言通り、俺はどんどんスーフェのことが好きになっていった。これからも、もっともっと一緒にいたい」

「カル……」

「それに、スーフェのことはルベさんのことも含めて大好きだから安心して。まあ、さすがにルベさんと同じベッドで寝るのは許せないけどね」


 ルベを含めて。


 そう言ってくれるカルに、わたしは泣きそうになる。同時に、心がスキンと痛む。


 ルベは黒猫ちゃんだけれど、元魔王でもあって、小さい頃から一緒にいるからお兄ちゃんのようだけれど、血は全く繋がっていない。


 わたしはずるい。結局最後までカルの優しさに甘えてしまっているのだから。


 それなのに、つい意地悪に試すようなことを言ってしまう。


「ふふ、黒猫ちゃんバージョンのルベはとっても可愛いから許してよ」

「だめ!!」


 やっぱりそれだけは譲れないらしい。


「スーフェ、前にスーフェが心配していた俺の一目惚れ“設定”って話は覚えてる?」

「え、……うん」


 カルという存在は、神様が埋め合わせのために用意してくれた、わたしに都合の良い婚約者だと思っている。それは今も。


 もちろんカルのことは大好きだ。こんなに素敵な婚約者様に巡り会えて本当に幸せ者だと思っている。


 だからこそ、わたしなんかに、こんな素敵な人は勿体なさすぎる。


「本当にその設定というものがあったのなら、俺はとっても感謝してる。だって、その設定があったからこそ、今こうしてスーフェが俺の婚約者として隣にいてくれてる。もちろん、その設定がなくても俺はスーフェのことを好きになる自信もあるよ」

「でも……」

「それに、一目惚れどころか、二目惚れも、三目惚れも、ううん、数え切れないほど、俺はスーフェに惚れ直してきたんだから。スーフェを知れば知るほど、好きって気持ちは強くなったんだ」

「……」

「ラブラブな家庭を作るんでしょ?」

「……うん」


 わたしの涙が止まらなかった。それは嬉しさからくるものなのか。それとも……


「俺、スーフェのことを大切にするから。スーフェが幸せになることが、俺の幸せだから。スーフェが心から笑っている姿を一番近くで見れることが、俺の生き甲斐だから」

「……」


 真剣にわたしに想いを伝えてくれるカルに、わたしはもう何も言えなくなっていて。


「あ、一番近くはまだルベさんかな? ルベさんの知らないスーフェを探すことが俺の永遠の目標だね」

「……そんなの、もうたくさんあるでしょ?」

「大丈夫。俺は全部分かっているから。分かっていて、スーフェの全てが好きだから」


 カルは昔から、わたしのことは何でも知っていた。わたし以上にわたしのことを分かってくれていた。きちんと向き合ってくれていた。


 目を背けていたのはわたし。これ以上、優しいこの人を傷付けてはいけない。


「ルベなんて、連絡もよこさないし、カルと違って交換日記だって一度も書いてくれないし、読んでるのかさえ分からないし。……一度も帰ってきてくれないんだから、きっともう帰ってこないよ」


 ……だから、わたしはもう待つことはやめる。


「わたし、カルのことが大好きだよ」


 突然の告白に、カルは少しだけ驚いて。


「それに、カルは神様がわたしのためだけに用意してくれた存在なんだから! それって、何よりも特別な人ってことでしょ? だったら、間違いなく幸せになれるに決まってる! もしもこの世界が本当に乙女ゲームの世界でも、悪役令嬢だって幸せになれるに決まってるよ!」


 その言葉に嘘はない。でも、それはきっと自分を言い聞かせるために発した言葉。それなのにカルは笑ってくれた。


 こんなに優しい人はいない。こんなにわたしを思ってくれる人はいない。間違いなくわたしは幸せになれる。


 ……このままカルと一緒に歩む道(カルのルート)を選択しても。 

 

 わたしは乙女ゲームの悪役令嬢で幸せが約束されたヒロインではないけれど、そう思えた。


「スーフェ、俺もスーフェは大好きだよ。結婚して、笑顔の絶えない家族になろう」

「うん、よろしくお願いします!!」


 そして、わたしはカルと結婚をした。カルと全力で幸せになるために。



 その日の夜、ルベとの交換日記に、カルと結婚をしたことを書いて報告した。


 きっと返事は来ない。


 それなのに、翌朝そのページを開いてみると、初めて「おめでとう」と日本語で書かれた返事があった。






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