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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
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バッドエンド?

「どうしてこうなった?」


 わたしは今、どうしてなのか、監禁されている。


 薄暗い部屋の中で椅子に座らされ、手足は縛り付けられている。目隠しをされ、辛うじて口だけは塞がれていない。


 けれど、目隠しなどわたしには意味がない。盗み見れば何でも見えるから。だから部屋の状況も分かっている。


 もちろん、目の前にいる犯人たちのことも。


「スフェーンが、全て悪いんだよ?」

「スフェーンが、俺たちのことを放っておいたから」


 今さら感満載な二人の声に、ため息しか出ない。


 目の前にいる犯人、それは言わずもがなフルーヴ伯爵家の双子、カルのお兄様たちだ。


「ルッカ様、ルッド様、どうしてこのようなことを?」


 ちなみにわたしは全く焦ってない。ぶっちゃけ余裕だ。


「だから、スフェーンが俺たちのことを放っておいたから、だってば」

「俺たち、ずっとスフェーンと高校生活をエンジョイできるのを楽しみにしてたのに」

「わたしは十分に高校生活をエンジョイしてきたから、もう帰ってもいいですか?」


 こんな状況にも関わらず、わたしが余裕でいられるのには理由がある。


 一つ目は、なんとなく、この双子ルートも覚えている、ということ。双子ルートのバッドエンドは、監禁エンドだ。まさに、今の状況だろう。


 いつの間にフラグが立っていたのだろうかと、記憶をたぐり寄せようとする。けれど、それさえも面倒になってきた。


 だから、わたしはこの状況から早く抜け出そうと思う。



……と、その前に、どうしてこの状況に陥ったのかを説明しよう。




 ******




「カル! 準備できた?」


 わたしはカルと一緒に住むために、フルーヴ伯爵領を訪れた。


 フルーヴ伯爵領に住むわけではない。わたしたちの新婚生活をエンジョイするのは、オルティス侯爵領にある本邸だ。


 今日フルーヴ伯爵邸に訪れた理由は、わたしの持っているアイテム袋にカルの荷物を入れて運ぶためだ。


 クロネコちゃんに頼まなくても、アイテム袋のおかげで引越しも楽々だ。


 フルーヴ伯爵邸に着いたわたしは今、サロンに通され、カルの作業が終わるのを待っている。


 手伝う気満々でいたのに、やんわりと断られたからだ。


 きっとカルも男の子だから、わたしに見られたくないものもあるのだろう。


 そんなわたしの目の前に現れたのが、ルッカ様とルッド様だった。


「あ! スフェーンだ。今さら何しに来た?」

「何!? 今さら俺たちに会いに来るなんて!」


 わたしの顔を見るなり、意味不明なことを言い出したルッカ様とルッド様を見て、久しぶりに乙女ゲームの存在を思い出す。


 思い出したけれど、すでにもう終わった話。


「いや、ルッカお義兄様とルッドお義兄様に会いに来たわけじゃないし」

「「うぐっ、お義兄様……」」

「じゃ、そういうことなので向こう行っててください」

「そう強がっていられるのも」

「今のうちだぞ」

「は?」


 やっぱり意味が分からなかった。別に強がっているつもりもないし、これがわたしの通常運転のはずなのに。


「「あ、カルセドニーだ!!」」

「えっ!! ッ、うっ……」


 

 なんちゃって断罪イベントも終わって、思いっきり油断していたのだろう。


 いつもならもっと警戒していたはずなのに、まんまと二人の嘘に騙された。一生の不覚。


 布で口を塞がれ、そこでわたしの意識が途絶えた。





 ******




 そして、冒頭に戻る。


「ねえ、もう帰ってもいい?」

「はあ? 何言ってるんだ、スフェーン?」

「この状況が分かっているのか、スフェーン?」

「うん」


 監禁されている。普通なら逃げられないだろう。ただし、普通なら。


「やれるなら」

「やってみろ」

「「無理に決まってるけど」」

「じゃあ、お言葉に甘えて、もう帰るね。ばいちゃ!!」


 普通じゃない魔法が使えるわたしは、シュンっと転移魔法で先ほどのサロンへとひとっ飛び。


 わたしはルッカ様とルッド様の前から一瞬にして消えてやった。


「ふう、厄介な奴らに目をつけられたもんだ」


 これがラノベあるあるな「転生悪役令嬢がヒロインの立場を乗っ取って攻略対象者を攻略しちゃった、てへぺろ」展開だろう。


 本当に今さらふざけるな、と神様に文句を言ってやりたい。けれど、双子ルートもわたしの手にかかれば死ぬことはないから余裕だ。


 監禁された後、執拗に陵虐され殺されるこの双子ルート。やられる前に転移魔法でサクッと逃げればいいだけだから。


 わたしがサロンに転移してすぐに、カルが入ってきた。


「あれ? スーフェ、早かったね」

「カル! 今ね、ルッカ様とルッド様に監禁されてたの」


 カルに会えた嬉しさで、わたしは満面の笑みを浮かべて報告した。


 カルに隠し事は通用しない。なぜならば、隠そうとしても、全て精霊さんたちが言っちゃうからだ。


 精霊さんたちの間で張り巡らされている精霊ネットワークは、それこそ全世界ありとあらゆる情報を共有しているらしい。


 その情報は、迅速かつ的確だ。故に、優秀な諜報員が至る所にいるということ。しかもカルに従順だ。最早、隠しようがない。


 もちろん口止めも買収も効かない。精霊さんたちは、わたしにだけ相変わらずの塩対応だから。


 だから、むしろ開き直ることにした。


 最低限のプライバシー保護のために、報告する内容をある程度は選別してくれているらしいし、カルはカルで、情報を知ったからといって、行き過ぎた束縛はしてこないから。


 それに、それでカルが満足してくれるのなら、わたしの罪悪感も少しだけ軽くなるから。


「あれ? 監禁だったの? 新種のお遊びだって聞いたんだけどな。それで、大丈夫? 怪我は?」

「うん、大丈夫!」 

「……えっと、兄様たちに怪我はないようだね」


 たった今、精霊さんから報告が入ったらしい。


「わたしの怪我の心配じゃなくて、相手に怪我させなかったかが心配だったんだね。まあいいけどさ」


 少しだけ納得がいかない。わたしだって、か弱い乙女のはずなのに。


「ごめんごめん、冗談だよ。引越し作業は終わったからどこか遊びに行こう! スーフェの好きなところでいいから、ね!」

「もうっ、仕方がないなあ。じゃあ、久しぶりにカルと一緒に遊んだ場所を巡りたいな」

「ああ、懐かしいね。でも、スーフェが壊した岩山はもうないからね」

「ふふ、分かってるよ。あの時、木っ端微塵にしちゃったもの。でも、今なら山一つくらい吹っ飛ばせるかな?」


 精霊さんたちが「やめろ、ふざけんな」と騒いでいる。もちろん冗談なのに。



 



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