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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
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体育祭は魔法が使えない?

「体育祭だぁ!!」


 今日は待ちに待った三年に一度の体育祭。


 魔法学園の体育祭だから、魔法の飛び交うファンタジーな体育祭と思いきや、どうしてか、今年は趣向を変えてきたらしく、魔法が使えなくなるらしい。


 言わば、前世の普通の体育祭だ。


 そのために、なんと! シュタイナー夫妻が魔法を使えなくするための魔法無効化の魔術陣を張ってくれるみたい。


 国の契約魔術師が、魔法学園の体育祭という公式の場で、大々的に魔術を初披露するのだ。


「カーヌム先生、アルカ先生、頑張ってくださいね!」

「ふふ、スーフェ様も、思いっきり体育祭を満喫してくださいね」

「はい! あ、この際だから、息子さんに会って行きませんか?」


 わたしの提案に、やっぱり二人は首を左右に振る。


「こうして息子の姿を遠くから見られるだけでも嬉しいんです。ねえ、あなた」

「ああ、この話を持ちかけられた時は、飛んで喜んでしまいましたよ」


 そう言って、息子さんの話をする二人はとても嬉しそうだ。


 本当ならば、学生の体育祭のためだけに、魔法無効化の結界を張るという大それたことをするなんて、絶対にあり得ないことだ。


 けれど、お二人にとっては息子さんの成長を間近で見れるチャンス。


 今日のお二人は、認識阻害の魔術を自分たちにかけているのだという。ずっと昔に、図書館でシアンと初めて会った時に、シアンがかけていた魔術だ。


 だから、万が一息子さんとニアミスしても気付かれることはないのだという。


 本当は会いたいはずなのに、そこまでしてお二人が生きていると名乗り出ないのは、息子さんの将来を考えた上での苦渋の決断。


 けれど、今回みたいに公の場で魔術が使われ、少しずつきちんとした使い方をすれば、魔術は素晴らしいものだという認識をみんなが持てるようになるかもしれない。


 その時にはきっと、離れ離れのこの家族の関係も変わるのかもしれない。


 わたしはシュタイナー夫妻と別れ、自分の席へと戻った。


 体育祭は、クラス関係なく赤組と白組に別れる。今日のわたしは赤組だ。嬉しいことに、カルとベロニカもわたしと同じ赤組だ。


「ベロニカは、今日はなんの種目に出るんだっけ?」

「あたしは、飴ちゃん食い競争よ。スーフェは?」

「わたし? わたしはもちろん棒倒し!」

「えっ!? あれって力技よね? 男の人ばっかりの種目のはずよ?」


 棒倒しは、敵陣に立てられた巨大な棒を倒したチームの勝ちという至ってシンプルな競技だ。


 シンプルが故に、暴力以外はだいたい何でもありだ。


「心配しなくても大丈夫! わたしには秘策があるから、ちょちょいのちょいよ!」

「ふふ、がってんしょうちのすけ!」


 別に今から大工作業をするわけではない。ただ単に言いたかっただけ。


 わたしたちが笑っていると、呼んでもないのにあの人が現れた。


「スフェーン!」

「何よ? 向こうに行ってなさいよ」

「どうして俺だけ仲間外れにするんだよ!!」

「仲間はずれじゃなくて、違うチームなんだから仕方がないでしょ? 恨むんだったら自分のくじ運を恨みなよ」


 今回のチーム分けは、忖度も不正も認められない厳正なるくじ引きだった。


「くそ!! そうだ! スフェーンも棒倒しに出るんだってな?」

「あら? ライアン様も棒倒しに出られるんですか?」

「ベロニカちゃん!! そうなんだ。敵チームだけど、俺のこと応援してくれる?」

「ふふ、もちろんです!」


 その瞬間、ライアン王子が勝ち誇った顔をしてきた。心底どうでもいい。


「言っとくけど、わたしは本気で挑むからね。ライアン王子に負ける気はしないよ?」

「せいぜい強がってるんだな。魔法の使えないスフェーンなんて、全く怖くないからな。そのために母上にお願いしたんだから!」


 どうやら、今年から体育祭で魔法が使えなくなった理由は、ライアン王子の我儘らしい。けれど、甘い。


「チッチッチ、今日は魔法無効化の結界が張られてはいるけれど、全員が全員、魔法が使えないわけではないんだから!」


 今回のこの体育祭に張られる魔法無効化の結界には限界があって、ある一定以上の魔力を持つ者による魔法には効かないのだという。


「ふん、それくらい知ってるに決まってるだろ。でも、王宮魔導士団のトップクラスしか魔法が使えなかったらしいから、スフェーンには絶対に無理だな」

「へえ〜、じゃあ、何か賭ける? あれがいいな。どんな願い事でも聞く権利! わたしが棒倒しで魔法が使えて、かつ、白組に勝ったら、冒険者仕様のわたしが今後一切何しようが文句を言わないこと!」


 一応わたしだって侯爵家の人間だから、普段は国の意向に従うつもりはある。だから、冒険者仕様の時だけという条件付きだ。


 そのかわり、直訳すると、冒険者仕様の時は、クーデターを起こしても文句は言うな、ということ。その首を狙ってやるぞ、ということだ。


 念には念を、わたしは死亡エンド回避の道を着々と切り開く。万が一、わたしが処刑されることが決まったら、クーデターを起こしてやるんだから。


「ふっ、笑わせるな。文句どころか、自分からこの首を差し出してやるよ」

「言質いただきました! ベロニカ、カル、今の聞いていたよね?」

「ばっちり聞いたわ〜!」

「本当にいいんですか? ライアン王子……」

「男に二言はない! だって絶対に無理だから。それになんて言ったって、白組の棒倒しのメンバーは俺自らがスカウトした超精鋭たちだからな!」


 確かに白組の棒倒しのメンバーは、ムッキムキのごっりごりの超精鋭たちのようだ。


 すでに勝利を確信したかのように高笑いするライアン王子を、カルは残念な子を見るような目で見つめていた。


 事実、残念としか言いようがない。


 だって、わたしの魔力は、今もあの黒猫ちゃんと繋がっているのだから。


「そうだ! ライアン王子はどんなお願い事がいいの? ベロニカにキスしてもらう?」

「き、キス!? ベロニカちゃんが俺に、キス!?」

「ふふ、ライアン様、頑張ってくださいね」

「うん! ベロニカちゃん、俺、ベロニカちゃんのために頑張るよ!」


 負けても勝ってもわたしが痛手を負わないことに、ライアン王子は気付いていない。やっぱり残念な子だ。


 そしてそして、運命の棒倒し。


「スフェーン、いざ、勝負! 覚悟しろ!!」

「はいはい」


 スタートの合図がなる。


「行け〜!!」


 ライアン王子率いる白組が一気に突っ込んできた。そして、一瞬にして消えた。


「ナイスイ〜ン!」


 もう一丁、敵陣の棒倒しの棒の周りをドーナツ型に一気に落とし穴を作る。棒を支えていた敵チームの人たちが、見事に落とし穴に落ちて行った。


「ナイスイ〜ン!!」


 棒を支える人がいなくなった敵陣に立てられた棒は、もちろんあとは倒れるだけ。


 結果、瞬殺だった。


「全くいつもと変わらずに魔法が使えちゃったな。てへぺろ☆」


 やっぱりルベの魔力は膨大だった。


 ちなみに、これじゃ他のみんながつまらないからと、落とし穴を全てきれいに戻して、第二試合を普通にやった。





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