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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
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不治の病アゲイン?

 結局、シュタイナー夫妻は、息子さんに名乗り出るのを見送る決断をした。


 魔法学園の特待生で、しかも、魔物研究所からのオファーもきている。魔術師という生き方に縛られず、ゆっくりと自分の将来を考えて欲しいのだとか。


 ただ、彼が魔術師であることに変わりはないのは事実で。結局はお父様にも全てを話し、判断を仰いだ。


 お祖父様の件、それにシアンの件があった以上、魔術師はその力の使い道を誤れば、国を、世界を滅ぼしてしまう恐れがある。


 息子さんに対してまで、監視の必要性があるかどうかは、ゆっくりと判断していくことに決まった。


 


「そう言えばさ、どうしてライアン王子は石化しないの?」


 今日もまた、ベロニカとイチャついているライアン王子を見てふと思う。乙女ゲームのイベントのことを。


 しかも、ライアン王子ルートの超重要イベントだ。このイベントを経て、ベロニカの聖女の力が認められ、二人の将来を後押しする。


 すでに聖女としてその地位は確立され、王子の婚約者にすでになっている現実のベロニカには必要のないイベントだ。


「笑えない冗談はよしてくれ。病気になれとか、人として最低だぞ」

「あ、ごめんなさい。今のは完全にわたしが悪かったわ」


 わたしは素直に謝罪した。今のは明らかにわたしが悪い。乙女ゲームのイベントのことだとしても、決して言ってはいけないことだった。


「素直だと余計に怖いぞ。まあ、確かに母上の病と同じものにかかるかもしれないと、ずっと心配され続けてきた。けれど、ある時からそれは全く言われなくなったんだ」

「それはどうして?」

「俺も分からない。けれど、ただ一つだけ確信していることはある。それはもちろん、聖女であるベロニカちゃんに会ったからだ!」

「まあ、ライアン様ったら!」


 意味が分からない。そんなことを言われても、わたしが納得できるはずがない。


 だって、乙女ゲームだと、ベロニカと出会いのイベントを果たして、ちょっとしたイベントも経て、好感度が上がっていい感じの裏で、ライアン王子は少しずつ不治の病という病魔に侵されていたのだから。


 そして、物語が盛り上がっているその時、ライアン王子はとうとう倒れてしまう。


 だから、ベロニカに会っただけで不治の病が完治しただなんて当然納得がいかないわけで。


「仕方がない、ちょっと見てみるか」


 わたしはライアン王子の許可を得ず、勝手に鑑定した。鑑定すれば、不治の病に侵されているかわかるはずだから。すると


「えっ、本当に完治してる!? どうして?」


 ステータスに、不治の病と日本語で書かれているはずなのに、その文字はない。


 王妃様の時も、不治の病をベロニカが治した後には、ステータスの中からその文字は消えていた。


 ということは、ライアン王子の不治の病も完治しているということ。


「どうして? 今度はいつの間にイベントを回避したの?」


 どうしてか、ことごとくイベントが回避されていく。嬉しいはずなのに、こうも何も起きないとやっぱり不安になってしまう。


「いつ? いつなの?」


 そんなわたしに、ベロニカが教えてくれた。


「スーフェ、きっとあの時よ」

「あの時?」


 あの時と言われても、全く思い当たらない。


「ちょっと耳を貸して!」


 ベロニカは、こそこそこそ、とわたしに耳打ちをしてくれた。内緒話をしなければいけない“あの時”だなんて、まさか18禁!?


「ライアン様が燃えた時!」

「ああ、納得」


 箝口令が敷かれたライアン王子炎上事件。確かに大きな声では言えない。


 ライアン王子はあの時の記憶が一部欠落しているらしい。


 だから、ベロニカが聖女の力を使って、蘇生レベルの治癒魔法を使ったことも覚えていない。


 その蘇生レベルの治癒魔法が、不治の病も一緒に治してくれていたみたい。


「やっぱりさ、入学する前に全てのイベントが終わっていたんだね」


 不治の病はアゲインしなかった。健康が一番だから、素直に良かったと思おう。


「あれ? ちょっと待って。じゃあ、やっぱり主要なイベントは全回避? そうすると、このまま断罪イベントもないってことだよね?」

「あら? スーフェがやりたいっていうのなら、盛大にやってあげるわよ? 中庭でイチャつきながら、物申せばいいんでしょ?」

「……イチャつきながら物申すって、その言い方だと少しだけ興味が湧いてくるよ」


 断罪イベントを所望するなんて、そんな自分が信じられない。


「じゃあさ、もしもわたしが断罪、っていうか、ライアン王子ルートだから、斬首刑に処されることになったら、わたしはどうすればいいと思う?」


 もしもの話は、誰しもが一度は考えることだと思う。ありとあらゆる想定を考えて、抜け道を探すのは意外と面白い。


「そうなる前に一緒に逃げる。絶対にスーフェのことを助けに行くからね」

「カル! うん、その時はカルを信じて待ってるからね」


 どんな時もわたしを第一に考えてくれるカル。きっと全てを投げ出してでも、助けに来てくれるのだろう。


 わたしには勿体なさすぎる素敵な婚約者様の存在に、乙女ゲームなんてどうでも良くなってしまう。


「ちなみにベロニカは?」

「うーん? あ! 断頭台の刃が落ちるタイミングで、転移するのはどうかしら?」

「ベロニカはわたしを助けてくれる気ゼロだね。でも、それもありだね。その後はどこか遠くの街でゆっくりと過ごせば良いもんね。できれば海の見える街に住みたいなあ」


 一番残酷だと思っていた斬首刑が、一番魅力的に思えてきた不思議。


「もう、スーフェったら違うわよ。斬首刑を大きな広場でやって、入場料を取るの! きっと、がっぽり稼げるわよ!!」

「あ、そっち? 脱出マジック的な? 処刑だって言ってるのに、ベロニカは今日もブレないね」

「ふふ、午前の部と午後の部の一日二回。それに、ルベちゃんとミケちゃんを呼んで、変身マジックなんてどう? 人型のルベちゃんはイケメンだし、ミケちゃんは可愛いし、絶対にファンが押し寄せるわよ! あとは、猫ちゃんの姿で障害物レースとか!」

「やばい!! それ絶対に可愛すぎる!! わたし絶対に毎日見に行く!!」

「ふふ、毎度あり!!」


 ベロニカの未来計画の中では、わたしが一日二回、毎日ギロチンの刑に処されることが決まった。


 


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