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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第六章
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乙女ゲームが開幕?

第六章です。10数話で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

「スーフェ、おはよう」

「カル! おはよう!!」


 入学式の日、朝早いにもかかわらず、カルはわたしの家まで迎えに来てくれた。


 好きな人と一緒に学園に通えるなんてことがあっていいのだろうか。きっとこれがアオハルというものだろう。


「とうとう今日から学園だね。ドキドキしすぎて昨日の夜はなかなか眠れなかったよ」

「それは最後の休みの日だからって昼寝をしすぎたからでしょ?」

「ちょっと! どうしてカルがそれを知ってるの!?」

「あはは、スーフェと一緒に学園に通えるなんて夢みたいだな〜」

「もうっ、話を逸らすなんてずるいよ!!」


 事実、その通りだった。学園に通い始めたら、今までのように自由気ままなぐうたら生活ができなくなってしまう。だから、昨日は思う存分寝溜めをした。


 新しい門出だというのに緊張感のかけらもない。けれど、こんなわたしにだって不安がないわけではない。


「あーあ、今日から乙女ゲームの物語が始まっちゃうんだね」


 思い出してしまったら憂鬱だ。それなのに、不思議と何とかなるんじゃないかって気がしている。


 それはカルも同じらしく、わたしの不安を吹き飛ばそうと笑いながら励ましてくれる。


「意外と何も起こらないかもよ?」

「激しく同意。何も起こらないっていうか、もう全てが終わってるというか。あ、言ってる側から当事者の二人だわ」


 何の問題もなく学園に着いたわたしとカルが校舎に入ろうとしたその時、校舎の入り口に馬車を横付けするVIPが現れた。きっとあの人たちだろう。


 黄色い声援とともに現れたのは、わたしの予想通り、この国の王子、ライアン王子だった。


「本当なら会いたくない人ナンバーワンだね。今日はいつも以上にきらきらしくて、視界に入るだけでイライラしてくるんだけれど」

「スーフェ、さすがにそれは酷いよ。一応この国の王子様だからね」

「分かってるって! 不敬罪にならないギリギリのところを攻めてるつもりだから!」

「完全にアウトだと思うけれど……」


 ライアン王子は乙女ゲームの攻略対象者だ。ライアン王子ルートを選ばれた日には、わたしは死亡エンドになってしまう。


 訂正。どのルートを選ばれても、わたしは死亡エンド確定だ。


 だからといって、せっかくの学園生活を誰かの顔色を窺いながら過ごすのはなんとなくもったいない。それに、悪態を付けるぐらいの余裕がわたしにはある。


「ライアン王子は誰かと一緒に来たみたいだね」

「誰かって、あの人しかいないじゃない」


 カルに言われて、呆れたようにライアン王子の方を見ると、ライアン王子は馬車から降りようとしている人をエスコートしようとしていた。


「ベロニカったら、朝から見せつけてくれちゃって。今日もとっても仲が良ろしいこと」


 乙女ゲームのヒロインが入学初日に攻略対象者のライアン王子と同伴通学。乙女ゲームとしてはあり得ない光景だ。


「あら、スーフェだわ。ご機嫌よう」

「ベロニカ、おはよう!」


 わたしたちに気が付いたベロニカは、優雅に微笑みながら悪役令嬢のはずのわたしに向かって挨拶をしてくれる。


 その仕草は、平民出身のヒロインではなく、紛れもなく上流貴族のご令嬢。


 もう何もかもが逸脱しすぎていて、ツッコミが追いつかない。


「あれ? そう言えば、ベロニカって寮暮らしじゃないの?」


 乙女ゲームの設定を思い出し疑問に思う。乙女ゲームだと、ヒロインのベロニカは学園の敷地内にある寮で暮らすはずだ。


 同じ寮に暮らす特待生の攻略対象者の男の子と、寮暮らしならではのラブイベントがあるという話を、友達から聞いたことがある。


「それがね、王子の婚約者が寮暮らしなんてだめだって言われてしまったの」

「じゃあ、もしかして王城で暮らしてるの?」


 まさかの、ある意味一つ屋根の下。


「そんなわけないじゃない! まだ嫁入り前なのにライアン様と一緒に暮らすだなんて恥ずかしいわ」

「え? じゃあどこに住んでるの? まさか、イモの村から通ってるの? ベロニカの新居は確かに素敵なお屋敷だったけれど、さすがに遠くない?」

「イモの村じゃなくてペレス村よ。おかげさまでイモフィーバーしてるみたいで、あたしの懐もフィーバーしてくれてるわ」

「じゃがいものレシピを売ったんだったよね。相変わらず、商魂逞しすぎるよ」


 じゃがバターのみならず、フライドポテトにポテトチップス、お袋の味粉ふきイモなど、わたしが作れる限りのレシピを教えて欲しいと懇願されたのを思い出される。


 その度に開催されるイモ祭り。おかげで体重が心配だから、適度に身体を動かすのが日課になっていた。


「ちなみに今住んでるのは、マリリンちゃんの家よ」

「えぇ!! いいなあ、楽しそう!!」


 寮暮らしはだめでも、マリリンとの一つ屋根の下は許される。マリリンは心のみならず乙女だと認められたということだろう。良かったね、マリリン。


「マリリンちゃんが、スーフェもいつでも泊まりにおいでって言っていたわ。マリリンちゃんのナイトウェアはとっても可愛いんだから!!」

「うん! ケールも誘ってパジャマパーティーしよう!!」

「ただし、美容と礼儀作法にはとっても厳しいから覚悟しておいたほうがいいわよ」


 少しでも粗相をしたものならば、地獄のジュリ扇の舞が炸裂するらしい。


 そして、わたしたちは教室へと向かった。クラス分けは基本的には成績順だ。


 幼い頃から家庭教師をつけて学んでいる貴族の子供たちが上位クラスのS組に集まっている。ただし、若干の忖度もあるらしい。


「ベロニカ! すごいじゃないの。S組だなんて! 頑張って勉強した甲斐があったね! 正直言って、さすがにS組は無理だと思っていたよ」


 だって、つい最近まで文字も書けなかったのだから。


「そうなのよ、無理だったのよ!! それなのに、ライアン様ったらあり得ないんだから!!」


 どうしてか、ベロニカがとても怒っている。


「ライアン様ったら、お金で解決しちゃったのよ。それも大金!!」

「だって、ベロニカちゃんと同じクラスが良かったんだもん」

「それは嬉しいけど、お金が……」

「ああ、ライアン王子がベロニカと同じクラスになりたくて、ベロニカのために裏金を積んだんだね。愛されてるね」


 お金には厳しいベロニカ。さすがに、入学前に一緒に勉強はしたけれど、幼い頃から家庭教師をつけている貴族の子供たちには敵わなかったのか、S組ではなかったみたい。


 乙女ゲームのベロニカも、一年生の時は平民出身の子が多いクラスで、攻略対象者のライアン王子とは違うクラスだった。


 だからこそ、二年生で同じクラスになるために、好感度を上げたりするのだけれど。


「やっぱりもうすでに好感度マックスなんだね」

「ええ、ライアン様の愛はありがたく受け取るとして、今まで一生懸命に勉強していた子たちに申し訳ないから、その分一生懸命お勉強するわ」

「二年に進級する時は忖度できないらしいからね。でも、わたしもベロニカと同じクラスで嬉しいよ」


 ベロニカが乙女ゲームのヒロインだろうとわたしたちの友情は変わらない。ベロニカと同じクラスになれたことは素直に嬉しい。


「よーし! このまま平穏無事に学園生活を満喫するぞ!!」


 こうしてわたしの学園生活は始まりを告げた。けれど、乙女ゲームの物語とかけ離れているこの現状。考えられることはただ一つ。


 わたしの学園生活は開幕したけれど、ベロニカはライアン王子をすでに攻略し終えているので、すでに乙女ゲームは閉幕したらしい。


 



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