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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
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闇属性の治癒魔法

「ルベ!!」


 冒険者ギルドに転移したわたしの目に映ったものは、


「なんてふしだらな!!」


 マリリンに抱かれているルベの姿だった。妖艶なマリリンの胸元に顔を埋めるように密着するルベ。


 場所が冒険者ギルドの受付ではなく個室だったから、余計に淫らな想像を膨らませる。


「スーフェ、冗談を言ってる場合じゃないわよ」

「えっ!?」

「ルベちゃん、身体から魂が離れちゃいそうなの!!」


 マリリンの言葉を裏付けるように、ルベは今にも死んでしまいそうなほど、生気が消えかかっていた。それは魂が離れようとしているからみたいで。


 必死に、マリリンがピンクのジュリ扇を高く掲げてふりふりしてくれている。


 マリリンのフェロモン攻撃がルベの魂を逃さないで繋ぎ止めてくれていた。


 ここまで酷いとは思っていなかった。だって、マリリンの手紙は全くそんな雰囲気ではなかったから。


「ルベ!! 今助けるからね!! でも、どうやって……」

「ルベちゃんは闇属性の治癒魔法を求めて冒険者ギルドに来たのよ」

「闇属性の治癒魔法?」

「ルベちゃんは高位魔族だから闇属性の治癒魔法しか受け付けないのよ。でも、冒険者ギルドでも使える人の把握はないの」

「じゃあ、どうすればいいの?」


 ヘナヘナと力なく座り込んでしまった。このままではルベが死んでしまう。そんなのは嫌だ。


「スーフェさん!!」

「ミケ!」


 ミケが息を切らせながら駆けつけてくれた。セドが超特急で王都まで運んでくれたらしい。


「魔界にならいます!!」

「魔界に? 闇属性の治癒魔法が使える人が?」

「はいっ!!」

「ってことは、召喚術で呼べばいいの? ご指名ってできるのかな?」


 カーヌムさんとアルカさんに聞くしかない。その時、ふと思う。


「魔界に転移ってできないのかな?」


 転移魔法でわたしが魔界に行く。そしてその闇属性の治癒魔法使いと一緒に転移術で戻ってくればいい。


「だめです。人間が行って平気か分からないんです。それに良い魔族だけではないから、運悪く見つかったら殺されちゃいます!!」


 魔界に人間が行った前例がないのだという。転移した瞬間、死ぬ可能性もある。


「じゃあどうすれば? ミケが、ミケが転移すればいいんだよ!!」

「え? 俺は転移魔法なんて使えませんよ? シアンがいなくなった今、どうやって帰るかも分からないし」

「転移魔法を授ければいいんだよ!」


 神様の特別な力。チョロ神を一泡吹かせたあの時に手に入れた特別な力。


「だめー!! スーフェちゃん、それはだめでしょ!!」


 とても見覚えのある見た目は可愛い男の子がやってきた。チョロ神だ。


「神様!!」

「かみさまぁ?」


 わたしの言葉に、マリリンもミケも顔を顰める。


「スーフェちゃん、神様の力は使わないって約束でしょ?」

「約束したわけじゃないよ。善処するって言っただけだもの」

「素直に願い事をすればいいじゃない。何でも一つだけ叶えてあげるって約束してあげたでしょ?」

「じゃあ、ルベを治してって言ったら治してくれるの?」

「生死に関わることだから僕が直接治すことはできないけれど、治せる人なら連れて来れるよ」

「それならミケが行っても同じじゃん!! 叶えて欲しい願い事は実はもう決まってるから、使わないで今回はミケに頼むよ。他に方法がなければ迷うことなく神様にお願いしたけれど。だから、ミケに転移魔法を授けるね!!」

「だめ!! お願いだからやめて!!」


 神様が懇願して来た。きっと押せばイケる。


「じゃあ、その願い事とは別に神様が助けてよ! その治してくれる人を連れて来てよ!!」

「……いいよ。そのかわり、善処するじゃなくて、金輪際、神様のあの力は使わないって約束して!」

「うん、分かった」

「即答だね。それほどその黒猫が大切なんだね」

「そんなの当たり前だよ」

「じゃあ、ちょっと待っててね」


 神様が消えたと思ったら、またすぐに現れた。


「連れてきたよ〜」

「早っ!!」


 あまりにも一瞬だった。ミケではなくて神様にお願いしてよかったと思えるほど。


 そして、神様の後ろから、とても可愛らしい少女がひょっこりと顔を出してきた。


「魔王様に会えるって、本当ですかぁ?」

「もちろんだよ。いつも一生懸命お仕事してくれているからご褒美だよ。だから、これからも頑張ってね」

「もうっ、やっとですか!! いつも“魔王様に会わせてあげるよ詐欺”をするんですから。今回も嘘だったら今度こそ辞めてやりますからね!!」


 きょろきょろと辺りを見回したその瞬間、少女の視界に入ったのは、マリリンに抱かれるルベの姿で。


「魔王様!? なんてふしだらな!!」


 そう思ってしまうのは仕方がないと思う。けれど、今はそんなこと言っている場合じゃない。


「一番隊隊長!! 魔王様を治して」

「二番隊隊長!! これはどういうことですか!? 風紀が乱れています!! しかも相手は絶対に敵いそうにない強敵じゃないですか!! ……色んな意味で」


 確かにマリリンは強敵だ。色んな意味で。


「そんなことより、早く治せ!!」

「え? はい!」

 

 一番隊隊長と呼ばれた少女は、改めてルベの身体の火傷を見た瞬間、一筋の涙を零した。


「兄様……」


 俯いて一言そう呟くと、涙を拭い再びルベに向き合って両手をかざし始めた。そして、一気に黒い光に包まれる。


 その光は黒いけれど、シアンの時の禍々しい光とは全くの別物で。とても優しい闇で。


「これが闇属性の治癒魔法……」


 もちろんわたしは盗み見ることを忘れない。


 すると、ぴくりとルベが動いたのがわかった。


「俺は……!?」

「あら? もっと抱きついてていいのよ?」


 瞬間、マリリンから一気に距離を取ろうとするルベ。けれど、やっぱりマリリンのフェロモン攻撃からは逃れられなかった。





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