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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
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戦いのあと

「終わった……」


 目の前にあった蒼い火の海が消えると、そこにはもうシアンたちの姿は跡形もなくなっていた。


「ルベは!?」


 すぐさまルベを探すと、ルベは少し離れた場所に転移していた。


 シアンたちがいた場所を見つめていたルベは「真似しやがって……」と呟いていて。


 ルベに駆け寄ったはいいけれど、ルベの大切な人をわたしはシアンの魔法を模倣して失わせた。


 その事実に胸がずきんと傷んで掛ける言葉が見つからない。


 わたしの存在に気付いたルベは、いつもと変わらないぶっきらぼうな言葉を放つ。


「早くベロニカのところへ行け。ミケを治してもらえ」

「……ベロニカで平気なの?」


 ベロニカに治療してもらうのはいいけれど、そのまま魂はお陀仏じゃ洒落にならない。


「ミケは高位魔族じゃない。だから、魂が浄化されることはない。まあ、気分は悪いだろうけれど」

「じゃあ、ルベは?」


 肩で息をするほど、見るからに辛そうなルベ。身体はほぼ焼け焦げている。普通なら死んでいるレベルの火傷のはずなのに。


「俺はベロニカに治されたら死ぬ。他を当たる」

「本当に、大丈夫なの?」


 わたしの問いに、ルベは何も言わない。その代わり、


「アンデッドはお前たちに任せてもいいか?」

「うん」

「なら、早く行け」

「ルベ……」


 絶対に死んじゃだめだからね。その言葉はフラグになりそうで言えなかった。


 その代わり、ルベの腕をぎゅっと掴んでしまった。ルベがいなくなってしまう。そんな不安が押し寄せてきて、泣きそうな顔でルベを見てしまった。


 掴まれた腕は焼け焦げていてとても痛いはずなのに、何も言わずにその腕をじっと見つめたルベは、もう片方の手をわたしの頭の上にポンと乗せてきた。


 その手の重みはいつもルベが乗っていた時のように全く重さを感じない。ただ優しい温もりだけ。


 その優しさが、わたしのことを怒っていないと言っているようで、心から安堵した。そして、その優しさを残して、ルベはどこかへ転移していった。



 わたしたちはセドに乗って、ベロニカとケールの元へと向かった。


「ベロニカ! ケール!!」

「スーフェ!! もうキリがないわ!!」


 だいぶ疲れた様子のベロニカとケール。あれだけたくさんあった魔石はもうなくなりそうだと言う。


「ベロニカ、いったんストップして、ミケを治して」

「えっ? ミケちゃんどうしたの!?」


 ベロニカはすぐにミケに聖魔法をかけてくれた。その時のミケの悲痛な叫びは居た堪れなかったけれど、命にはかえられない。


「ケールの方はどう?」

「数が多すぎて無理よ。わたしたち二人だけじゃ追いつかないわ」


 公爵領のこの森の中全体にアンデッドが湧いている。


 全て、今までに犠牲になった子供たち。どれだけの数の子供たちが犠牲になってきたのかが分かり、泣くに泣けない。


「スーフェ、精霊たちが話があるみたい」

「精霊さんがわたしに?」


 カルに促され、精霊さんの言葉に耳を傾ける。


『全部、燃やせ』

「えっ?」

『さっきの蒼き火焔で。あれで全てを燃やせ。アンデッドをこの森ごと全て。それしか方法はない。俺たちも手伝う。ケールも手伝え』

「でも、大切な森がなくなっちゃうよ? 燃えたものはわたしの匠の力でも直せないよ?」

『それしか方法はない。森からアンデッドが出てどこかへ行ってしまう前に。それに、あのまま彷徨うのは子供たちが可哀想だから』

「……分かった」


 それからすぐに、森の中にまだ残っていた動物や魔物たちを精霊さんたちが避難させてくれた。


『準備できたぞ。やれ』


 精霊さんに言われ、わたしとケールは一緒に魔法を放つ。わたしは蒼き火焔を。ケールは光魔法を。


 蒼き火焔でただ燃やすだけでなく、ケールの光魔法を共に使うことで、安らかに浄化できますようにと。


 そして、公爵領の森が銀色の煌めきを纏った蒼色に包まれる。


 異様な光景のはずなのに、蒼い海に月の光が反射しているようで、不謹慎だけれどとても美しくて、子供たちの魂が安らかに浄化されてくれているのかも知れないと思ったら、涙が溢れて止まらなくなった。


 そして、公爵領の森は焼け野原と化した。残されたのは一本の木だけ。


「この木って……」


 冒険の旅を始めてすぐのカルとの思い出の場所。精霊の加護を授ける儀式をしてくれた木だということが、すぐに分かった。


「精霊たちがこの木だけは守ってくれたみたいだね。たくさんの精霊たちが集まってるよ」

「精霊さん、この森を守れなくてごめんね……」


 涙がぽろりと零れ落ちる、はずだったのに、どうしてか、精霊さんたちはわたしを泣かせてはくれなくて。


『お前なんかに守られても嬉しくねえよ』

『むしろお前は破壊する側だろ』


 悪態をついてくる。けれど、それはわざと言ってくれているのが分かったから、わたしは涙を拭う。


「もうっ!! どうしてわたしにだけ意地悪を言うの!?」

『スーフェには前科がある』


 思い当たることが多すぎて、ぐうの音も出ない。


「そうだ! わたしアイテム袋の中に木がいっぱい入ってるんだ。今から全部植えようか? きっと元通りまでは行かなくても、森になるよ?」


 アイテム袋の中には、魔境の森の街道を作った時に抜いた木がたくさん入っている。旅の記念に植樹すると言ったはいいけれど、思いっきり余っている。


 けれど、精霊さんたちは首を左右に振るう。


『たぶん、だめだと思う』

『きっと、育たない』


 精霊さんたちは残念そうに告げた。


『あの蒼き火焔は全てを焼き尽くす。これから先、木はもちろん、作物は育たない』

「嘘……」

『心配するな。何年かかっても俺たちが戻してみせる。その時になったら、その木を植えてくれ』

『だから泣くな。この場所は笑い声の響く場所にするんだから。まずはスーフェが笑え』


 力強い精霊さんたちの言葉に、わたしは大きく頷いて笑った。


「これで、全てが終わったんだね」


 そう思っていた。全てが終わったのだと。



「あれ? 何だろう?」


 いつの間にか、可愛らしいきのこの帽子を被った男の子がわたしたちの前に現れて、ぴょこぴょこと近づいてくる。


 この可愛らしいフォルムは何となく見たことがある気がする。あるゲームのステージをクリアした時に、王様の隣で何か喋っているきのこ。


「あら! マリリンちゃんからのお手紙ね」

「マリリンから?」

「今までも、あたしのところにあの子が届けてくれていたの」


 そして、わたしの前に立ち止まる。


「マリリン姫から手紙が届いております」


 そう言って、わたしに手紙を渡して一瞬にして消えた。


「マリリン姫? ピー○姫じゃなくて?」


 きっとあのきのこはマリリンの使い魔か何かだろう。深いことは気にせず、わたしは手紙を開けてみた。


「!?」


 その手紙を読んだわたしは青褪める。


「どうしたの? 何て書かれているの?」

「ごめん、先に冒険者ギルドに行ってる!!」


 読んだ手紙をベロニカに託し、わたしは一瞬にして冒険者ギルドに転移した。






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