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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
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ォネエさん、またまた事件です!!!

「あの、スーフェ様」

「はい、何でしょうか?」


 わたしたちが戦いに行く準備をしていると、突然アルカさんが神妙な面持ちで話し始めた。


「ミケ様は、召喚術でヨシュアに呼ばれたのですよね?」

「そうだよね、ミケ?」

「はい、そうです。それが何か?」

「……それなら、ミケ様は行かない方がよろしいかと思いまして」

「え? どうしてですか?」

「召喚されたものは、召喚したものを傷つけることができないのです」


 召喚術は契約が複雑に組み合わさった術なのだという。その契約の中に、呼び出したものを傷つけることができないという契約が盛り込まれているのだとか。


「それじゃあ、俺はシアンに傷一つ付けることができないってことですか? だからみんなも大人しくしていたんだ……」


 ミケには思い当たることがあるみたいだ。横暴なシアンに対して呼び出された魔族はみな、シアンに歯向かうものはいなかったのだという。


 シアンを傷付けることができない、だからと言って魔界に帰る術もない。仕方なく他の生きる道、人間界に馴染むように模索し始めた。


「じゃあ、ミケはお留守番?」

「嫌です。俺だって魔王様の役に立ちたいです! 絶対に行きますからね!!」

「留守番だ。シアンがその契約を知らないはずがない。その時に真っ先に狙われるのはミケだ。足手まといだ」

「そんにゃあ……」

「ミケだけじゃない。シアンを殺す覚悟がないのなら、お前らも大人しく待っていろ」


 それは、ベロニカとケールに向けて。


「ちょっとルベ!! どうして?」

「チビ、お前もだ」

「はあ?」

「チビは火が嫌いだろ? シアンの魔法は前も話した通り、蒼き火焔--特別な火魔法なんだよ」

「火焔……」

「ああ、それも肉体も魂も全て焼き尽くす強力な火焔だ」

「魂も?」

「魔界で、光魔法なんて使えないからな。高位魔族を魂ごと消し去るためにある魔法だ」


 魔王の補佐にだけ引き継がれるその特別な魔法。燃えたら最後、塵も灰も残らない。想像しただけで、血の気が引く。


「だから、俺一人で行く」


 そうきっぱりと言い放つルベに、もちろんわたしは納得できない。


「だめだよ。ルベだってその火焔にやられた死んじゃうってことでしょ?」

「死なないから大丈夫だ。俺は特別だから」

「でも、ルベは光魔法の魔石を使えるの? 嫌でしょ? 一緒に浄化しちゃったらどうするの?」

「……」

「わたしは絶対に行くからね!!」


 火がなんだ。火焔がなんだ。前世のわたしは何もできなかった。大切な家族を助けることができなかった。けれど、それは前世のこと。


 もしもその状況に大切な人が陥っってしまった時、今度こそは助けたい。大切な相棒が苦しんでいる時に何もできない方が嫌だ。絶対に克服してみせるんだから!!


「スーフェ、あたしも行くわ。きっと役に立つはずだから」

「私もよ。いざとなったら、私は覚悟を決めるわ。これでも騎士の家の娘なんだから」

「俺は……」


 ミケは俯いて歯を食いしばる。今までルベの命令に抗ったことなどないのだろう。


「ミケ、無理しなくてもいいんだよ? できることをやろう!」

「できること……」

「ミケの取り柄は可愛いミケ猫ちゃんになることでしょ?」

「違います!! 諜報活動です!! 俺に知らない情報なんてないん……そう言えば俺、気になることがあるんです。だから、それを調べてきます」

「気になること?」

「はい。きっと魔王様のお役に立てるはずです!!」




******




「じゃあ、マリリン、何かあったらこれでよろしくね!」

「ええ、分かったわ。でも気をつけて行ってくるのよ?」

「うん!」


 結局、ルベが折れた。危険だと思ったらすぐに転移する約束で、わたしたちも戦いに向かう。


 わたしたちは当初の作戦通り、魔石にケールの光魔法とベロニカの聖魔法を込めまくった。

 それこそ魔力の底が尽きるまで休みなくノンストップで。


 回復したらまた同じことの繰り返し。おかげでケールとベロニカの魔力量が増えたらしい。


 作りすぎた分は、マリリンのいる冒険者ギルドに買い取ってもらうことにした。


 聖魔法の魔石はもちろんのこと、光魔法使いはまだ見つかっていないから、光魔法の魔石も大量にも関わらず喜んで買い取ってくれた。


 その時に、今回の出来事をマリリンにだけ説明しておいた。万が一の時に、冒険者ギルドがすぐに対応できるのとできないのとでは初動が違うから。


「ルベちゃんも、いつでもアタシに会いにきてね。ご指名待ってるわ♡」


 マリリンの投げキッスがルベに向かって炸裂した。もちろんルベは見事にかわしていたけれど。


 それでもマリリンは諦めない。ピンクのジュリ扇を高く掲げてふりふりふり。


「にゃっ!? マジでやばい!!」


 突然ルベがフラフラっとよろめく。ルベはいつも通りわたしの頭の上に乗っているから、わたしまでつられてよろめいてしまう。


「ルベ!? どうしたの? ちょっと、マリリン!! その技は一体何なの!?」

「ふふ、フェロモン攻撃よ♡ アタシのフェロモンは少しだけ特殊なの♡」

「うん、何となく特殊そうなのは分かるよ。でも、どんな風に特殊なの?」

「アタシに包まれたくなるのよ。捕まったら最後、絶対に逃さないわ♡ ルベちゃんに纏わるものは髪の毛一本だって全てね♡」


 おそろしや。必死に抗うルベにとっては、ある意味シアンよりも強敵かもしれない。


「スーフェ!」

「ォネエさん! どうしてかまたまた事件です!!!」


 お父様が息を切らせて冒険者ギルドに飛び込んできた。マリリンに会いにくると事件に遭遇してしまうという不思議。


「そんなに慌ててどうしたんですか? 今日はゲルガー公爵邸での調査でしたよね?」


 魔術師、ヨシュアという人物についての詳細を確認するために、お父様を含めたお祖父様の事件の調査団が、ゲルガー公爵の屋敷に調査に乗り出した。全てテレーサさんの告発に基づく形で。


「公爵が、ゲルガー公爵が、攫われたんだ」

「えぇっ!?」


 公爵邸に着いたはいいけれど、屋敷の中はもぬけのから。そして、ゲルガー公爵の姿が見当たらず、その代わりに一枚の紙が残されていたそうだ。


『同じ場所で話の続きをしよう』


 ただそれだけが残されていた。


「もしかして、シアンが?」

「ああ、それしかないだろう」

「お父様、わたしたちが探してきます。たぶん、心当たりがありますので……」

「行くんじゃないって行っても、行くのかい?」


 お父様は心配そうな顔で尋ねてきた。行くな、と言わないで選択させてくれるところがお父様らしい。


「ルベだけを行かせるわけには行きません。大丈夫です! 危ないと思ったらすぐに逃げてきますから!」

「分かったよ。カルセドニーくんとミケくんは引き続きゲルガー公爵邸を調べているよ。何か困ったことがあったらすぐに精霊たちに伝言を頼みなさい」

「はい、分かりました」


 そして、わたしたちは孤児院へと転移した。もちろん転移術で。ベロニカとケールが魔石の準備をしている時に、わたしはカーヌムさんとアルカさんから魔術を習っていた。


 習うと言うか、盗み見たわたしは、魔術がすぐに使えるようになった。


「スーフェったら、ずるいわ。後であたしたちにも教えてよね!!」

「私にも教えて欲しいけれど、禁忌なのよね……」


 王子の婚約者という立場のケールには、自ら法を犯すことに躊躇いがあるようだ。ベロニカは全く気にしてないようだけれど。


「お前ら、危険だと思ったらすぐに転移しろよ」

「うん!」


 今のルベの姿は人型だ。最近ようやく人型のルベにも慣れてきた。


 わたしたちは孤児院の中を警戒しながら歩く。けれど、誰もいなかった。


「外、なのかな?」

「ああ、外みたいだな」


 できれば孤児院の中での戦いの方が都合が良かった。だって、外だと光魔法で満たすのが大変だから。


 仕方なくわたしたちは外に出る。すると、


「待っていましたよ」


 不敵な笑みを浮かべたシアンがそこで待っていた。


「可愛いお嬢さんもお久しぶりですね」

「やっぱり、あの時の人はあなただったのね。それで、公爵様は?」

「ここにいらっしゃいますよ」


 眠らされているのか、ぴくりとも動かないゲルガー公爵がシアンの後ろに座らされていた。





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