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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
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征服の理由

「お久しぶりです。魔王様」


 見るからにシアンは一人だった。シアンと言っていいのか、ヨシュアといった方が正しいのか。


 見た目はヨシュアという魔術師だけれど、魔力はほぼシアンのものだった。ほんの僅かばかり、そのヨシュアの魔力が感じられる程度。


(確かに、ギリギリだな)


 命の灯火が消えかかっていた。付近の魔力を手繰って周りの様子を窺う。シアンの他には誰もいないことが分かった。


(チビも転移できたようだな)


 それが確認できると、俺はシアンとの話を進める。


「俺は、もう魔王じゃない」

「そうでしたね。でも、相変わらずあなたは変わりませんね」

「いや、全く別物だと思うぞ」


 だって、今の姿は黒猫だから。むしろ明らかに変わったと言ってほしい。


 俺はすぐに猫型から人型に戻る。何となく格好がつかないから。


 そして、目の前にいるシアンも見た目は別物だ。俺の知っているシアンはもういない。


 そう思いたいけれど、やはり魔力はよく知っているものだからタチが悪い。


(いっそのこと、全てが別物だったら良かったのに……)


 そう思っても顔には出さない。それが命取りだということくらい分かっている。魔王として裁きを下すのに、情けは無用だから。


 これが俺にとって魔王としてのやり残した最後の仕事だ。


「お前は何を企んでいる?」

「わざとらしくお尋ねになるなんて。もうお気付きでしょう?」


 人間界を征服すること。分かってはいるけれど、理解し(わかり)たくはない。


「馬鹿なことはやめろ」

「邪魔をなさるおつもりですか?」

「邪魔も何も、ここは人間たちの世界だ。俺たちの出る幕はない」

「あなたは相変わらずお優しい」


 けれど、シアンの目は笑っていない。いつから俺のことが憎かったのだろうか。そんなことさえ気付いてやれなかった。


(いや、シアンの優しさにつけ込んで、気付かないふりをしていただけか)


 自業自得。けれど、出来ることなら、


「お前とは、戦いたくない……」

「あなたが戦いたくなくても、私にはあなたと戦う理由がある。だって、あなたは邪魔なんです。あなたがいる限り、私は王にはなれない。いくら私の方が王に相応しくとも、生まれ持って魔王と定められなければ魔界では王にはなれない。だから、私は人間界に来たのです。それなのに、どうしてあなたまでもが来るんですか!!」


 その瞬間、蒼い焔が俺を襲う。その魔法ーー蒼き火焔は魔界でも全てを焼き尽くしてきた。魂も全て。


 この能力こそが、魔王の側近として代々受け継がれる特別な魔法。魔王の側近には、シアンのように代々特別な魔法が受け継がれている。


 正直言って、魔王の持つ雷魔法よりも側近の魔法の方がすごい気がしてならない。


「外しましたか。私も随分と平和ボケをしていますね。長らく実践していなかったから」

「俺には効かないって、知っててやるのか?」

「ええ、でも、本当に効かないのか、試してみる価値はあると思いませんか? だから、今度は外しませんよ」


 どうしてか、シアンのこの魔法で俺は死なないらしい。側近の魔法で魔王が死ぬことがないようにとの計らいなのか。


(あの神様がそこまで考えていたのか?)


 チビに唆されて会ったあの神様を思い浮かべると、本当に死ぬことがないのか不安しかないが。


 百歩譲って俺は良いとしても、ここは森の中。少し燃えたくらいなら俺の魔法で消すことはできるけれど、あまり乱発されると正直困る。


(説得……)


 一縷の望みをかけて最後の手段を試みる。


「……アイツが泣いているぞ」

「我が妹のことですか?」

「ああ」


 魔界に一人残してきたアイツ。きっと文句を言いながらも業務をこなしているはずだ。けれど、一人になった時には弱音を吐いて泣いているに違いない。


「そうですね、じゃあ、人間界を征服した暁にはこちらに召喚してあげましょう」

「魔界に帰るつもりはないのか?」


 シアンは笑みを浮かべる。肯定の意味の笑みだと分かった。もう説得は無理だ。


「……また、来る」


 俺はわざと魔術陣が描かれている一枚の紙を足下に落とした。


「逃げるのですか? 逃しませんよ」


 再び、あの焔が俺を襲う。一瞬にして俺を包み込む。


 俺は転移()()を使い、チビの元へと戻った。まだ、この魔法を使えることは知られてはいけない。転移()で転移したと思わせる。


 きっと今頃は、転移陣の描かれたあの紙は跡形もなくなくなっていることだろう。


 俺とシアンが戦っても、真の決着はつかない。なぜなら、俺もシアンも高位魔族だから。軀が滅んでも魂が残ってしまうから。


 やるなら確実にやらなければならない。たとえアイツが悲しんだとしても。






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