表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園追放Ⅰ 僕の儚くも浅ましきイデア  作者: 高坂悠貴
4章 Eden Echo
31/31

4章1話 - エピローグ

「わあっ、おかあさん! 見て見て! 桜が咲いてるの!」

「あら、本当。もうぜんぶ散ったと思っていたのに。桜の生命力ってすごいのね」

「やった! 今年まだ花見してなかったんだよな。いつものメンバー集めてやろうぜ!」

()(れい)だけど、こういうのも異常気象のせいなのかな。そう考えると()(なお)に喜べないっつうか、ちょっと怖いよなあ」

「くそっ、なんで今日にかぎってスマホ家に置いてきたんだオレは」


 (いっ)(ぺき)の空がみえた。ついで、風にのって桜の花びらが()(おど)った。

 ()(がしら)公園を訪れた人々の、驚き、喜びにみちた声が響く。

 暖かい春の陽光がきらきらと輝き、あらゆる色彩を(きわ)()たせる。


 自分ひとりでは決して有り得ない、(かな)わない、たくさんの生命であふれかえっていた。


「……カインも行ったようだな、恋人(シスター)を迎えに」

「ヒロが起きるまで待てばよかったのにね」

「照れくさいんだろ。そういう男だよ、あいつは」


 ぼんやりしていると、聞き慣れた声と、聞き覚えのある単語が優しく耳に転がり込む。(あお)()けになったまま、わずかに右へ視線をやった。ナオがいる。左側を(のぞ)けば、そちらにはシャロンがいた。


 ()(じろ)ぎの気配を感じたふたりが、ヒロに笑いかける。そこかしこの()(れつ)から植物が顔を(のぞ)かせ、緑の(じゅう)(たん)となったアスファルトに寝転がったまま、三人一緒になって笑った。


「おかえり、親友」

「おかえりなさい、ヒロ」

「……ただいま、ナオ、シャロン」


 ()れわたる(そう)(きゅう)

 やわらかく(いろど)られた(しん)(りょく)と、美しく舞いおどる桜の花。


 この(はる)(らん)(まん)たる世界には、死が存在する。悲しみや苦しみに終わりはない。誰かを傷付けることも、誰かに傷付けられることも、どれほどの努力や願いがあろうと()()()のものとして()(つづ)ける。


 ただひとつ例外があるとするなら、それは心を得てしまった〈神々の門〉だろう。(ゆい)(いつ)〝バベル〟だけが死を追放し、悲しみも苦しみも、争いさえ存在しない夢のなかに、人々を(いざな)うことができたのだ。


 それは世界再構築という名をした精神汚染。楽園の名を(かん)する地獄。


 ゆえに〝ヒロ〟は望まない。

 誰かを傷付けてでも、生きていく。

 誰かに傷付けられても、前に進みつづける。

 皆守紘として生きていくことをやめたりしない。


 楽園を追放してでも。

最終話です。本作にお付き合いくださり、本当にありがとうございます! 作者は産みの苦しみを味わいつつ、書きたいものを思う存分に書きました。あなたにも楽しんでもらえれば、これ以上の喜びはありません。


本作はpixiv BOOTH、amazon、Bookbase さんにて電子書籍にて配信しています。(短いおまけ小話と後書きつき)


投稿した作品を削除する予定はありませんが、高坂の執筆活動を応援したい方、お手元においておきたい方は、ぜひご利用ください。


もちろん応援コメント、応援レビューなども、すべてありがたく頂戴します! めちゃめちゃ嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ