表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園追放Ⅰ 僕の儚くも浅ましきイデア  作者: 高坂悠貴
2章 Rule the world
11/31

2章1話 - 空隙

2章 Rule the world 突入しました

 傷付くのは怖い。

 誰かが傷付くのを見るのは、もっと恐ろしい。

 自分のせいで誰かが傷付くのは、もっとつらくて、ずっと苦しい。


 その対象は動物植物の分類なく、その()()は身体精神の区別なく。


 呼吸すること、飲食すること、雑草を踏んだりノートを書き(つづ)ったり、相手に怒りや不満といった負の感情をぶつけること――生きるうえで避けようのない(きょ)(どう)ひとつひとつが(ごう)(もん)だった。できるかぎり息をひそめて、()(じろ)ぎせず、時間がすぎていくのを待っていた。


 完全無抵抗主義で、非暴力主義な平和主義者。そういう形容を(はる)かに(いつ)(だつ)しているだろう。自分以外の存在をまったく傷付けたくない、そのためなら呼吸や飲食すら(ほう)()してもいいなんて、自己犠牲という(ころも)(まと)っただけの自殺志願者だ。……実際、呼吸をしたり食事するくらいなら死んでも構わないと考えている。


 けれど生きるのが苦痛だからといって、命を()つことはできなかった。キリスト教系の施設で育ったという()(じょう)がそうさせるのか、あるいは死ぬならせめて誰かの役にたって死にたいのか。夜を迎えるたびに訪れる()()(るい)(るい)の悪夢、その(げん)(きょう)が、ほかならぬヒロ自身にあると確信しているからか。()(めぐ)まれるたび、(しょく)(ざい)という概念が脳裏をよぎる。


 サバイバーズ・ギルト。

 この特異な精神状態は、そんな名前で呼ばれているらしい。十五年前におきた、何万もの死傷者をだした(せい)(さん)な事故の生き残りがヒロとナオであり、無意識のうちに生き残ってしまった罪悪感に(とら)われているのだろう、と。


「あなたにとって、生きていくことは地獄なのかしら?」


 まだ小学生だったころ、(りん)(しょう)(しん)()()(たず)ねられたことがある。


「お父さんやお母さんの名前や顔を憶えていない、親戚なんて言うまでもない。誰もあなたのことを知らないから、いつまでも心細さがきえない。あなたの寂しさが、この世界は自分のいるべき場所じゃないと感じさせている。そう考えたことはない?」

「いいえ」

「……。でも、生きていくことは苦しいのよね? 本当はご飯も食べたくないし、水も飲みたくないし、絵をかいたり、みんなと一緒にお外で遊んだりすることも怖いのよね?」

「はい」

「それじゃあ、その恐怖の(げん)(せん)は一体なんだと自分では思っているの?」


 答えたところで理解されないことを知っていた。

 この世界が地獄なのではない、ヒロ自身が地獄なのだ。

 おのれが地獄となって(くん)(りん)しているこの世界に、地獄をみているのだと。



まだ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ