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我が家の恥と言われて辺境に追いやられたので、畑でも始めようかと地面を掘ったら美少女が埋まっていました。  作者: 猫神心夜
我が家の恥と言われて辺境に追いやられたので、畑でも始めようかと地面を掘ったら美少女が埋まっていました。
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02

 俺は大慌てで、その女の子の全身を掘り起こした。


「お、おい、生きてるか!?」


 女の子の肌に触れるが、土と同じ温度だ。つまり、冷たすぎる。

 綺麗な女の子で、年は14~16だろう。

 神殿の人間のような服装をしているから、生半可な身分ではなさそうだ。

 そんな娘がどうしてこんな辺境の地に埋まっているのか。

 何かの事件に巻き込まれたのだろう。


 俺は、このままにするのは可哀想だからと、別の場所に埋め直して墓を作ってやろうと思った。

 本当は王都に死体を持って行って、事件の調査と教会の供養を頼むべきなんだろうが、今の俺だと犯人にされかねない。


 すまんな、毎日拝んでやるから許してくれ。

 あと、ちゃんと美味いもんも供えてやるから。


 俺は一度合掌してから、その女の子の死体を抱き起こした。

 すると、豪華だった真っ白な衣装が急激に風化していく。


「うおっ!? なんだこれ...」


 純白の衣服は土ぼこりで黄ばんでいき、端からぼろぼろと崩れていく。

 死体の女の子の体だけはいまだ白く、いや、服が風化していくせいでより一層白く見える。


 俺は女の子の死体を抱えて立ち上がった。

 そのまま屋敷の方へと運んでいく。

 すると何か違和感が...?

 なんだか、どんどん女の子の死体が重くなっている気がする...?


「そっ、そんな訳ないよなっ!」

「う、うぅん...むにゃ...」

「ぎゃぁーーーー!!!?」


 突如死体から聞こえてきた声に驚いて、その死体を放り投げてしまう。

 女の子の死体は地面に激突すると悲鳴をあげた。


「ぎゃん、痛いっ!?」

「し、死体が動いた!?」


 恐る恐る女の子の死体に近寄って見ると、苦悶の表情を浮かべてぶつけた所をさすっている。

 俺は小さく声をかける。


「あの...お、お元気ですか?」

「ふぇ?」


 口から出たのはなんとも可笑しな言葉だった。

 するとこちらを振り返った女の子は、真っ白な顔を真っ赤にし、見開かれた碧眼には涙を溜めていた。

 どう見ても生きているようにしか見えない。


「どっ、どなたですかっ!?」


 高く、透明な響きの声で女の子は返事をする。

 風で糸のように細く美しい銀の髪が揺らぐ。


 俺はなんと答えようかと悩んでいた。

 悩みに悩んだ末、出てきた言葉はこれだった。


「君を掘り起こした人です」


 一体何を言っているんだろう。

 女の子も首を傾げているぞ。

 ヤバい、何か言わなきゃ、と俺が口を再び開くより早く、女の子の方が口を開いた。


「そっか、私を助けてくれた人なんですねっ!!」

「え?」

「良かった、貴方に助けていただけなければあと100年くらいは眠っていたところです」


 良かった良かった、と繰り返す不思議な女の子に、俺はたくさんの疑問の中から厳選して、一つの質問を絞り出した。


「えっと、生きてるん...ですか?」

「ふぇ? 生きてますよぅ?」


 どうやら彼女は生きているらしい。

 そして、俺の疑問が心底よくわからないとでも言いたげに首を傾げる。


「あれ、もしかして見たこと無いんですか? 【状態異常(バッドステータス)仮死(アスフェクシア)】」

「なっ、ばっとすて...え? なんだって?」

「えっ、まずそこからですか!? 【状態異常(バッドステータス)】ですよ?」

「なに、それ...?」

「えぇぇ!?」


 目をぱちくりとさせて驚く彼女は、ふと、自分の格好を見て、悲鳴をあげた。


「ひきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

「うおぉ!?」

「見ないでくださぁぁぁい!!!!」


 自分を自分で包むようにぎゅっと抱きしめ、瞳に大粒の涙を浮かべた。

 そういえば先ほども泣いていたことを思い出し、喜怒哀楽の激しい娘だなと思った。

 しかし先ほどの涙は俺が放り投げたからだし、今の涙は俺が肌の露出が激しい彼女をじっと見ているからだと思い直す。

 うん、悪いのは俺だな。

 そう思ったので律儀に背を向けて座り込む。


「ふぇ?」

「ほら、俺は後ろを向いておくから、その辺の小屋から体に巻くもの取ってきなよ。」

「小屋?」

「小屋は鍵、開いてたぞ。」

「...あっ」


 背後からでもわかる。

 彼女は今がっくしと肩を落として落ち込んでいる。


「...この家、私のお家なんです...」


 失礼します、と付け加えて、彼女は屋敷の正面へと去っていった。

 ...ちょっと待ってくれ。

 この家、あの娘の家なの!?


   ☆★☆


 数分後。

 俺は彼女の家の客間にて、美味しいお茶をいただいていた。

 お茶なんていつぶりだろう?

 最近は今日のご飯を確保することに必死だったからなぁ...

 しみじみと今日までの日々を思い出しながらお茶を味わっていると、彼女が口を開いた。


「先ほどは失礼な態度ですみません、私の名前はシルヴァークレアっていいます。」

「俺はリスターだ。元はスラヴァリア伯爵家三男だったけど勘当されたから今は平民だ。ついでに言うと無一文だ。」

「はぁ...」

「更に言うと、昨夜は貴女の家の小屋で一夜を明かしました。申し訳ありません。」


 正直に言う。

 しっかりとしたお屋敷に住む彼女は、今や無一文となった俺よりも身分が上のはずだ。

 しかし彼女は小首を傾げて言った。


「伯爵家...ですか」

「いやでも俺はもう平民だから...」

「そうではありません、伯爵家だってことは、その、身分制度が整ってきたということですよね...?」

「...? 整ってきたっていうか、ガッツリ身分制度だよ?」

「なん...で...?」

「え?」


 シルヴァークレアと名乗った彼女は、なにやら大きな衝撃を受けたかのように固まってしまっていた。


 俺はお茶を一口。

 うん、美味い。良い茶葉を使っているんだろうな。


 彼女が口をぱくぱくと動かし、何かを言おうとしている。


 俺はお茶をもう一口。

 しかしよくよく考えれば、平民の俺が、身分が上の彼女にお茶をいただくのは如何なものか。うーむ...


 彼女がようやく言葉を発したのは、俺のカップの中身が無くなった後だった。


「...い、」

「? なんだ?」

「...い、今って、大樹暦、何年ですか...?」

「大樹暦?」


 大樹暦...大樹暦...

 あぁ、今使われている暦の前に使われていた暦か!

 家庭教師に教えられた気がする。

 しかし今が大樹暦何年なのかはわからないなぁ...


「今はアディントス暦999年だ。大樹暦は5483年でアディントス暦に変わったから...えーっと...」

「...なんですか、それ...」


 そう言って彼女はガクリと肩を落とし、虚ろな目でティーカップを見つめて呟いた。


「100年どころか1000年も眠っていたなんて...」


 ん?

 今聞き捨てならない言葉が聞こえたような...


「失礼、シルヴァークレア嬢」

「シルクでいいです...」

「いや、でも俺平民、」

「命の恩人に身分も何もありません...」

「そ、そうか、じゃあシルク、1000年眠ってたって...?」

「ふふっ、言葉通りですよ...1000年間も土に埋まっていたんですぅ...ぅへへへ...なんて馬鹿なんでしょう...」


 ふへへへへ...なんて虚ろな目で言われると正直かなり怖い。

 ていうかそもそも、1000年なんて生きていられるはずがない。

 いや、神殿の偉い賢者とかなら有り得無くも無くも無くも無い...?

 いやいや、それでもこんな若い見た目なはずがない!!

 1000年も生きていたら干物のような老人を越えた老人になっているはず...! 生きていたらの話だけど!


「儀式の途中でミスに気づいても...もう【状態異常(バッドステータス)】食らった後だったんだもの...しかもよりにもよって【状態異常(バッドステータス)】は【仮死アスフェクシア】だし...【状態異常(バッドステータス)】切れる前に土の中に埋まるし...それも重なって【仮死(アスフェクシア)】が全然消えないし...あのままだったらあと100年どころじゃないですよぉ...少なくとも3000年は眠ってましたねぇ...最悪10000年とか...? あはははは...」


 よくわからない単語があったが、どうやらシルクは何かの儀式に失敗したらしい。

 だがしかしよくわからない。

 俺にもわかるように説明してほしい。


「なぁシルク」

「えへへぇ...なんですかぁ...?」

「あっ、あのその、ばっどすてーたす、って、なんなんだ?」

「【状態異常(バッドステータス)】っていうのはぁ、儀式が失敗した時に付く、軽い呪いみたいなものですねぇ...」

「のっ、呪い!?」

「って言っても効果はすぐに切れますよぅ? 儀式の内容とか失敗のレベルによりますけどねぇ...」

「で、シルクの場合は...?」

「複雑で難しい大規模な儀式をしようとして、一つのミスが連鎖で、ほぼ全てが上手くいかないレベルに破綻しましたねぇ...それはもう、ホントに笑えるくらいに...ふへへへへ...」

「そ、そうか...それは御愁傷様...」

「本当に、私を掘り起こしてくださってありがとうございます...!!」

「えっ、」

「お陰で目を覚ませました...!」

「そ、そうか...それは良かった」

「はい、本当に...」


 急に前のめりになって、彼女は俺の手を握ってお礼を言ってきた。

 俺は少し照れくさい反面、自分の魔法が《契約魔法》だと知れれば、彼女も離れていくのだと思うと、少し胸が痛かった。

 お茶を一口飲もうと視線を彼女からそらせば、俺のカップの中身はもうすでに空になっていた。

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