01
俺は王国一の魔導師になりたいと夢見て生きてきた。
それがどうして、こんな廃村に置いていかれたんだ。
俺だって三男だけど伯爵家の息子だったんだぞ?
勘当ってなんだ?
勘当っていうのは平民落ちの事を指す言葉じゃなかったか?
そもそもここは魔の森の真正面だぞ?
「ふざけんなぁーーーーー!!!!」
アイツら全員ユルサナイ...
☆★☆
事の始まりは1ヶ月前。
俺、リスター=スラヴァリアは15の誕生日を迎えて、教会に魔法を授かりに行ったんだ。
伯爵家の三男の俺は、勿論期待されていた。
長男が《火魔法》、次男と母が《氷魔法》、父は《風魔法》、祖父は《火炎魔法》だった。
一人に一つ魔法を得る。
家系は関係あるとか、ないとか。
ともかく、俺も兄達と同じように属性魔法を授かるものだと全員が信じていた。俺も含めて。
だが蓋を開けてみたらどうだ。
俺の魔法は《契約魔法》だった。
《契約魔法》は《火魔法》などの属性魔法とは異なり、平民などに多い、低級魔法だ。
ちなみに《火魔法》や《氷魔法》、《風魔法》などは威力によって中~上級魔法なのに対し、祖父の《火炎魔法》は《火魔法》の更に上を行く最上級魔法だった。
最上級魔法は他にも、《凍結魔法》や《暴風魔法》、《空間魔法》や《精霊魔法》など種類もある程度の数は発見されている。
それに対して俺の《契約魔法》を含む低級魔法だと、他に《開発魔法》や《製作魔法》、威力の低い《火魔法》や《水魔法》なども含むことがある。
《開発魔法》や《製作魔法》は、働く平民達にとって便利な能力で、元々は《契約魔法》も、そのうちの一つだった。
傲慢な上に金も権力もある貴族と対等に取引をする際には必ず重宝された──らしい。
しかし数十年前、一人の頭の良い平民の《契約魔法》の使い手が《開発魔法》の使い手と協力して、とある魔導具を作り上げた。
それは〔契約書〕と言い、《契約魔法》の仕組みを紙に施したのである。
それは仕組みがシンプルな低級魔法だったからこそなのだが、それのお陰で商業は更に栄えた。
そしてこれは十数年まえの話だ。
一人の《契約魔法》の使い手の男が現れた。
商売において、《契約魔法》の代わりに〔契約書〕が重要視される時代になっていたが、それでも《契約魔法》は重宝されていた。
しかしその男は相手に不平等な契約を持ちかけ、魔法によってその契約を破ることができないようにした。勿論、その契約を口外しないという契約も含めて。
人々が気がついた時には、複数の商家や貴族の家を取り込み、侯爵家を乗っ取った後だった。
ちなみに現在もその男は侯爵家当主である。
つまり何が言いたいかというと、現在この国は《契約魔法》に対して敏感だったということである。
教皇に睨み付けられて何かと思ったら《契約魔法》。
一瞬にして全身に殺意が刺さったわ。
それからは家の中では孤立するわ、町へ行ったら石を投げられるわ、数ヶ月後の学園への入学は辞退しろと言われるわ...
その日その日を、屋敷中を駆けずり回ってなんとかしのいで生きていた1ヶ月。
その間に、俺は知らなかったがどうも家族会議が行われていたらしい。
執事長に仰々しく、旦那様がお待ちですって言われて、1ヶ月ぶりに人と喋ったわ!と感動してたら勘当宣言されました、と。
酷くないか?
「お父様!! 1ヶ月ぶりでございますね!! お久しぶりです!!」
「私は貴様の父ではない!!」
「何をおっしゃいますかお父様!! わたくしはこれからもお父様の息子として日々精進いたします!!」
「貴様は勘当だ!!」
せっかく冗談で場を和ませようと、頑張って明るくした意味もなかった。
薄々感づいてはいたけど、やはり、か...と内心呟く。
「勘当、ですか...」
「当たり前だこの恥さらしが! 伯爵家の人間でありながら低級魔法...しかも《契約魔法》だと!? 我が家の家格を落とすつもりか!?」
「それ、は...」
「我がスラヴァリア伯爵家の人間に《契約魔法》の者がいるなど、我が家の恥も良い所である!! よって貴様は勘当とする!!」
当主にそう宣言されれば、俺は従うしかない。
しかもこの家には、俺の味方は誰もいない。
いや、本当は一人いる。妹のレティシアだ。
だがしかし彼女一人の力など、俺の晩飯を用意してくれる程度でしかない。
それに当主の宣言に反対できないのは、娘であるレティシアも同じだ。
俺は無言で頷く。
というか、勘当の理由は恐らく家の恥だけではない。
大半は、俺の魔法を恐れてのことだろう。
俺も《契約魔法》の男と同じようにすれば、この家の当主になることは可能だろう。
そんな気なんて、さらさらなかったけどな。
「これがその〔契約書〕だ。」
かつて大活躍した《契約魔法》によって作られた〔契約書〕で、《契約魔法》を授かった俺は勘当の契約を結ぶ。
一体何の皮肉だろう。
「えっと...『わたくしリスター=スラヴァリアは、スラヴァリア伯爵家より勘当されます。つきましては、お母様の実家であるランディール伯爵家の領地の一部を与え』...!? 良いのですかお父様!?」
「ふん、餞別だ。」
「ありがとうございます...!!」
「早く承認しなさい。」
「はいっ! 『承認』!!」
途端〔契約書〕は光り始め、俺とお父様の手に一枚ずつ丸められた契約書が収まる。
「人を雇ってある。今日中に荷物をまとめて出ていきなさい。」
ん!? 今日中!? 今!! 夕方!!
俺は急いで部屋を出、荷物をまとめて家を飛び出した。
家の裏手に停まっていた馬車は、伯爵家には似合わない、オンボロだった。
俺が荷物を馬車に押し込めていると、妹のレティシアが駆けつけてくれた。
どうやら俺の見送りはレティシア一人らしい。
「お兄様、本当に行ってしまうのですか!?」
「レティシア...」
可愛い可愛い俺の妹。
腰近くまで伸ばした金髪と、頭上で揺れる深紅のリボン。
控えめな性格に反して、主張の激しい見た目。
男にアピールしてるとか、色目を使ってるとか、よく難癖つけられてしまう可哀想な娘だ。
今までは俺が追い払っていたけど...
「俺はもう行くが、レティシア、悪い男にはついていくなよ。」
「...ついて行きません。大丈夫です。」
「いじめられたらすぐに言うんだぞ?」
「言ったって、遠すぎてどうにも出来ないでしょう?」
「はははっ、痛い所をつくな。でも〔転移水晶〕を持って行くから、頑張って駆けつけるぞ?」
「ふふ、頼もしいですね。」
「おい、そろそろ行くぞ!」
男の声がする。
馬車の御者と護衛の男が俺を睨んでいる。
「じゃあなレティシア。元気で。」
「お兄様も、お元気で。」
そう言って俺はレティシアと別れた。
それからは三日三晩馬車に乗っていた。
一晩経って、俺はそういえばどこへ行くのかを知らないままだと思い出し、契約書を開いた。
すると与えられた地名を見て俺は叫んだ。
叫ばずにはいられない。
『アディントス王国ランディール伯爵領タータルト』
どこだと思う?
魔王とか魔族とかが封印されてる魔の森の真正面だぜ?
しかも立地のせいで過疎化が続き、今の住民0人だぜ?
頭おかしーんじゃねぇの?
餞別ってなんなんだよ!!
「いやだぁぁぁぁ!!!!」
☆★☆
で、今に至る訳だ。
御者も護衛もさっさと帰りやがるし。
夜の廃村はキツイよ。こえーよ。
「どこかにまだ使えそうな家はないのか...?」
俺は月明かりと小さなランプを頼りに廃村を進む。
すると廃村を抜け、草原に出た。
小さい沢山の花が月光に照らされている。
その向こうに赤い屋根の、小さな貴族か大きめの商家のお屋敷規模の家を見つけた。
所々壊れていたりツタが覆っていたりするが、不思議な趣きが感じられる。
俺はその屋敷を目指して突き進む。
たどり着くと、やはり良い。
しかし鍵がかかっていて玄関が開かない。なんでだよ!
「くっ、今日は倉庫でも何でもいいから寝る場所を確保したい...!」
屋敷の周りを歩くと、裏手に雑草が雑に生えている土地と、小さな小屋があった。
今晩はその小屋で寝ることにした。
俺をこんな所に置いていったアイツら全員ユルサナイ...!
いつか絶対後悔させてやる...!!
☆★☆
翌朝、荷物に詰めた食料を食べながら、改めて小屋の中を見回す。
どうやらここは農業小屋のようだ。
そうだ、今日から暇だし、農業でも始めてみよう。
ついでに最高品質の特産品にしてがっぽり稼いでやろう。
ということで、思い立ったが吉日。
俺は屋敷の裏の土地を区画整備でもしようと思い、外に出る。
「ん...? なんだ、ここ」
俺は、そこだけ雑草が生えていない不思議な場所を見つけた。。
ちょうど直径1mちょいの円のような形。
違和感しかない。
俺は小屋からシャベルを持ち出し、その場所を掘り始めた。
すると何か白いものが見える。
「え...う、うわぁ!?」
なんと女の子が埋まっていました。
白く豪華そうな服を着ている、銀髪の美少女だ。
「待って、死体、遺棄...!?」
俺の顔は、真っ青になっていることだろう。
プロフィール No.1 >>> リスター
元スラヴァリア伯爵家の三男。15歳。
教会にて《契約》の魔法を授かったが、そのせいで周囲から疎まれ、1ヶ月程苦難の日々を送る。
後に勘当されたが、《契約》魔法による復讐を恐れた家族の手によって、遠い辺境の地・タータルトへ送られてしまった。