ママとパパ
平穏が戻った家の庭で。
ママとパパは手を繋ぎ、二人が消えていった空を見つめていた。
「・・・ママ、これでよかったのかな。異世界なんて、そんな得体のしれない土地や環境で」
「あら」
ママはにっこり笑う。
「女の子は誰だって、どんな場所、どんな環境でも生きていけるわよ」
「そうかなあ」
「そうよ。例えば」
にこり、微笑むと、
「使えない後輩を血をにじませながら育てたのに、ある日突然寿退社。おめでとうとマジかとうらやましいとにプレスされながらも、丸被りした仕事を黙ってやるしかない現状と闘っていたら、能天気そうな何一つ理解してない上司がやってき、これも頼むね的気軽さでさらに仕事を押し付けられる。そんな状況でも♡結婚したはいいけど、守るって言葉は何からだよ。家政婦のごとく、夫の面倒をみつつ、家事して、妊娠して、育児して、仕事もほぼ同じくらいの時間数行って外貨を稼いで、世間と実家と義家と家を繋いで」
「うん。男なら謹んで自害だね!!」
「ええ。でも、女性はみんな、ちゃーんと、各々の地で、力強く、大地に足つけて生きてるでしょ。そういうことよ」
「本当に。本当にいつもありがとうございます!!」
「あら。パパこそ、いつもありがとう」
「ママに一生ついていきます」
「そうね~」
ママはカラカラと微笑む。
「そうそう。それに、寂しがってる場合じゃないわよ。最近できたお隣さん。あれは、警備団さんの寮なんですって。何人かとお話したけど面白いのよ~。みなさん、イケメンだし♡それに、この間、お花の土替えや水やりを手伝ってくださったのよ。お礼に今度お茶会するの。楽しみだわ~」
「ママ・・・それについては、少し思っていたんだけれど」
「なあに?」
「お隣のお庭のど真ん中に、うちのお姉ちゃんにそっくりな像が立っている気がするんだけど」
「そう?」
「朝一に10人くらいの男性たちがあの像に向かって祈りをささげているような気がするんだけど」
「まあ。じゃあ、どこかの有名な神様なのかもしれないわねえ。いいじゃない。綺麗なんだし」
「そうなんだけど・・・うちの周りを夜分うろついているような」
「警備が得意だから、我が家の周りも警備範囲に入れて頂けるんですって。頼もしいわよねえ」
「・・・」
若い男性たちが多いが、なかには、すごい筋肉のマッチョやロマンスグレーな老年の男性もいた。
一体、どんな警備団で、こんな我が家ぐらいしかない場所で何を守っているのだろう。
おまけに、なんとなく、以前から近所でよく見かけていた男性も混じっているような気もするのだが・・・
パパの頭の中には様々疑問が生まれた。
が。
「さ。パパ。ママはお掃除があるから、パパは庭の草むしりをお願いしますね」
「はい」
ママは容赦なく日常に帰っていく。
そんなママの、あまりにもいつもと変わらない姿に。
「まあ、ママと僕の子供だからね」
きっと、ママの言う通り、なんとかなるだろうと、思えてきた。
「やっぱり、ママはすごいね」
「パパもね」
ママとパパはニコリと微笑みあうと、きゅっと手をつないで、家の中へと入っていった。