カモがネギをしょってやってきた3
翌日 早朝
トントントントン
包丁が軽やかなリズムを刻む。
グツグツと音を立てる鍋からは、すでに良い香りが漂っていた。
「おはよう。ママ」
エプロンで手をふきながら、ママが顔だけを振り返った。
「おはよう。マーちゃん♪今日は早起きさんなのねえ」
「ええ。少し話したいことがあって」
「あら、珍しい」
ママは微笑むと、ちょっと待ってねと、刻んだ野菜を鍋へと放り込む。
スプーンで少し味を見て、もう一度すくうと、
「マーちゃんも味見してみて」
マーガレットにスプーンを突き出した。
マーガレットは苦笑すると、素直にパクリとスプーンを咥える。
「少しお塩が欲しいかしら」
「やっぱり?」
笑って、ママは目分量でぱらりと塩を降り足した。
鍋をかき混ぜて、再びスプーンですくう。
「ふむふむ」
言いながら、再びマーガレットにスプーンを向ける。
マーガレットも再度ぱくりとスプーンを咥えた。
「ふふ。美味しい」
「そうね!」
ママも満足げに笑うと、鍋の火を止めて蓋をした。
「さて」
ママは体をマーガレットの方へ向けると、
「座ってお話ししましょうか」
「ええ」
二人、向かい合って、席につく。
「それで?お話って?」
「ママ。実は、ルシアを違う世界で王様にしようと思うの」
「・・・」
ママは大きな瞳をくるりと大きくした。
「・・・」
「・・・」
「ふむふむ」
しばし、じーっとしていたママだが、しばらくすると、頭が働きだしたらしく、空を見上げながら、ふーむと何事が考えている。
「・・・」
ママの様子をマーガレットはただ静かに見守る。
「・・・うん。わかったわ」
にこり。
ママは微笑んだ。
「ちゃんと仲良く過ごすのよ?」
「ええ」
「なら良いわ」
それだけ言うと、ママは再び立ち上がる。
「さて。そろそろパンも焼いて、朝ごはんにしましょう。ママ、朝から一仕事したからお腹が減っちゃったのよね~」
「手伝うわ」
「じゃあ、冷蔵庫の中のパンの種を出して、焼いてくれる?」
「お腹すいたし、魔法でチャチャっとやっちゃっていいかしら」
「助かるわ~お願い」
「今日は、コーヒーも私にいれさせて」
「あら、大サービスね」
「たまにはさせて頂きます。ママは座ってて」
「じゃあ、お願いするね」
マーちゃんの焼いたパン久しぶりだわ~楽しみ~と歌うママに、マーガレットは、
「ママがママで幸せだわ」
「ママも、マーちゃんがママの子供で幸せよ」
背中合わせで、二人は、小さく笑いあった。