カモがネギをしょってやってきた2
その日の深夜
月明かりが差し込む窓辺に腰掛けて、マーガレットはスターサファイアを光にあてていた。
中の星が、緩く揺れる。
まるで海に映る星のようだ。
「まるで、“心”みたいね」
人の心はユラユラ揺れる。
良くも悪くも変化する。
それは、この宝石のように美しい。
「愛おしい」
笑みを深くする。
「————入って、いらっしゃい」
ふふっと声をかければ、扉は音もなく開いた。
不機嫌そうな顔が現れる。
「いつまで起きているつもりだ。知っているだろう」
「何を」
「貴様が起きていると、私が眠れないことだ」
「まあ、お姉ちゃんと一緒じゃないと眠れないのね。かわいい」
「話を聞いていたか?」
「ふふっ」
「・・・」
ルシアは、はあっとため息をつくと。
「貴様が悩むとは踊り狂いたいほどいい気味だが」
「・・・」
「貴様に応えられる人間などただ一人だけだろう」
「?」
「母上に相談してみろ。それで無理なら貴様は考える必要のないことを考えているということだ」
「ルシアは相談にはのってくれないの?」
「貴様。私の話なんか聞かないだろう」
「そうね」
「そうなのか。聞けよ」
「あなたに相談するくらいなら、池のカエルさんの方が適任ね」
「そうだな。今にも青筋が切れて出血死しそうな私よりかは、カエル氏の方が適任だろうな」
「頼れる人がいるって素敵ねえ」
「当たり前だろう」
「そうね」
ふふっと、また、マーガレットが声をもらす。
「だから、困ってしまうのよねえ」
その言葉に、ルシアは、こくりと頷く。
「盛大に困れ。悩め。人は皆、困り、悩むものだ。大なり小なり、な」
「ふふっ」
ルシアは踵を返す。
「そして、とりあえず、今日は寝ろ。夜に考えても良いことなんて一つも出ないと、母上がいつも言っているだろう」
「そうね」
「おまえは本当に人の話を聞かない」
「ママの言うことは聞かないとね」
「・・・おやすみ」
「おやすみなさい」
話は終わったと、ルシアは未練なく、颯爽と部屋を出て行った。
パタンと扉が閉められる。
「・・・」
マーガレットは、ネックレスをテーブルに置くと、ベッドに体を横たえた。
マーガレットお気に入りのクマの人形、タルフィーを抱きしめながら、瞳を閉じる。
その口元は、いつもと同じように弧を描いているけれど。
いつもよりもほんの少し嬉し気であることを、タルフィーだけが知っていた。