カモがネギをしょってやってきた1
パライバトル地方の主都市 コランダル。
中心地は、政治の中心となる地方伯の城を中央に、その周囲には、役所や神殿、商店が並び、さらにその周囲には、住宅街が広がっている。
その住宅街からさらに少し離れた、静かな場所。そこに、ツァルフェー家は建っていた。
可愛らしいごく普通の二階建ての家だが、庭は広めで、芝生がきれいに生えそろい、その周りには、季節の花が植えられている。
ツァルフェー家の母親は園芸好きのため、敷地内を囲む囲いにも、プランターに入れられた花々がかけられている。
少し辺鄙な場所なので、今まで隣家はなかったのだが、最近になって、四階建ての屋敷が建てられた。
しかし、隣家といっても少し距離が離れている。ツァルフェー家には、日光も月光も遮られることなく、いつも優しい光が注がれている。
そんなツァルフェー家では、今宵、長女の誕生日会が行われていた。
「お誕生日おめでとう~~」
マーガレットとルシアの母 マルガリータがクラッカーを引く。
パンっと音が鳴って、紙吹雪がマーガレットを彩った。
「ありがとう」
マーガレットは微笑むと、ろうそくの火をふうっと吹き消した。
「今日はマーちゃんの好きなもの、たーっくさん作ったのよ~~」
じゃーんと両手を広げて、テーブルの上に並べた料理を披露するママに、
「おいしそうだねえ」
隣に立つおっとりした雰囲気の父リアムがにこにこと見守っている。
「そういえば、ルーちゃんはどこにいったのかしら~~?」
「最近見ていないなあ。でも、いつもお姉ちゃんのお誕生日には必ず間に合うように帰ってくるだろう」
「そうねえ」
うんうんとママは頷くと、
「じゃあ、ご飯を食べながら待ちましょうか~~」
『はーい』
パチパチパチパチ~とパパとマーガレットが拍手する。
「————って、ちょおおおっと待ったああああ!!!!」
だああんっと扉を破壊する勢いで開いた。
黒い塊が転がり込んでくる。
「あら~、びっくりした」
「噂をすればだなあ。おかえり、ルシア」
飛び込んできたルシアは、土と埃で薄汚れたマントを身にまとっており、髪も若干ぼさついている。
「ルーちゃんは何飲む?お茶?ママ手作りのレモネードもあるわよ~」
「ママのレモネードは最高だよ?」
ぜいぜい、肩で息をしているので、答えられないルシアを気にした様子もなく、
「それにしても。ルーちゃんったら、本当にお姉ちゃんっ子ねえ」
「本当だねえ。こんなに大急ぎで帰ってくるなんて」
「くっ、それより、他に突っ込みどころはないのか」
ルシアは、相変わらずのとぼけた夫婦に、このまま地面に倒れ伏したい気持ちになるが、最後の気力できっと前を向く。
マーガレットに近づくと、ずいっと、女性が好みそうな愛らしい紙袋を突き出した。
「依頼のものだ」
「まあ♡」
マーガレットは、紙袋を受け取ると、大きなピンクのリボンがかけられた箱を取り出す。
「開けてもいいかしら」
ルシアはこくりと頷いた。
その後ろで、両親がほほえましそうに、二人を見守っている。
白い指先が、包装をといて、箱を開けた。
「まあっ」
「ほうっ」
両親が感嘆の声をあげた。
見事な大きさのスターサファイアだった。
大きさ、色、輝き方、完璧なスター。
「きれい」
マーガレットが柔らかな声でつぶやいた。
その表情は、宝石の奥を見つめるような深い色を持っているような。一瞬、ルシアの頭に違和感が浮かぶ。
けれど、
「ありがとう、ルシア」
こちらを向いた姉に、浮かんだ違和感は意識にのぼるまえに消えた。
「・・・誕生日おめでとう」
ぶっきらぼうながら、少し満足げな様子に、両親は笑みを深くする。
「さ!ルーちゃんも久しぶりにママのお料理食べたいでしょ!着替えて、お食事にしましょう」