不幸の手紙
昼休み。
高等部には、学び舎、魔法訓練所、魔法実地所、講堂、実験棟、部室棟、寄宿舎、教員棟など様々な建物がある。
そんな広大な敷地には、校庭もいくつかある。
その中でも、一番不人気な校庭の、さらにあまり人目につかない場所に設置されたベンチを選んで、ルシアは腰かけた。
隣に次の授業の教材を置き、膝の上に、例の包みを置く。
「・・・」
開けたくない。
だが、一応、昼食はこれだけなのだ。
そして、何より。
不幸の手紙が入っているのだ。読まないわけにはいかない。より不幸になってしまう。
しゅっと包みの端を引っ張れば、布が落ちて、弁当箱が姿を現した。
その上には、白の封筒に、ハートマークの押し印が押されている。
奴のマークだ。
テンションがより下がるのを感じながら、封を切る。
『ルシアへ
今年のお誕生日は、お母さんがくれた白のワンピースに似合うネックレスが欲しいです』
「普通だ」
まるで、普通の誕生日前のおねだりだ。
しかし。
「あれかっ・・・!!!」
昨夜、マーガレットが読んでいた本!!
『ベリル鉱山には夢がある』
著者は、探検家としても有名な地質学者 タンゾー氏。
以前から、ユニークな博士として注目していたが、マーガレットが読むことには違和感を覚えていた。
(あの女の愛読書は、ベッタベタなラブロマンスか、どっろどろの男女の愛憎劇だからな)
「ベリル鉱山」
少し前に発見された鉱山で、タンゾー氏曰く、スターサファイアが採掘できる可能性が高いとのこと。
採掘前調査が終わり、最近になってようやく本格的に採掘が開始されたと聞いた。
「つまり」
今年のお誕生日は、お母さんがくれた白のワンピースに似合う“巨大のスターサファイアの”ネックレスが欲しいです。
この学園では、出席日数制限はない。
成績が優秀であれば、研究室にこもるも良し。魔法学を極めるも良し。
そして。
「鉱山にこもるも良し、だ」
目標がわかったのだ。
一分一秒無駄にはできない。
ルシアは立ち上がった。
その後ーーールシアの姿を見たものはいない。