ソプレーズ1
エイダンたちが言っていた通り、ソプレーズの町は賑わっていた。
特別城のような大きな建物はない。
その代わり、最も人の多い中央部には、商会と呼ばれる商いのまとめ役となる建物がいくつか立ち並び、その周囲に商店が軒を連ねる。
さらには、中央通り沿いに、バザーと呼ばれる出店が、それこそ、所狭しと店を構えている。
「あら、ねえねえ、ルシア。あれ、おいしそうよ!」
「ふらふらするな」
「ふふ。ルシア。手を繋いで歩かない?」
「手洗い場を確認した後なら構わんぞ」
「?」
「貴様と手を繋いだら、そのあと、100回は手を洗わないと気がすまないからな」
「・・・手が摩擦でなくなっちゃいそうね」
「若年者をいたわる気持ちがあるなら遠慮しろ」
「りんご飴買ってくれる?」
「残念ながら、私は現在この世界の通貨を持ち合わせていない」
「あら。大丈夫よ。ルシア、金は持っているでしょう?この世界でも金は高価よ。銀は弱い魔族を退ける力があるから、通貨としては使われていないけれど」
「・・・」
どこで聞いてきた、とは愚問。
ルシアは市場に目をくばりながら、
「ざっと見た感じでは、一般的に出回っているのは、銅でできた通貨のようだな」
「ええ」
ルシアの世界同様、金はそれそのものに価値があり、銅は通貨としての形態を整えられれば価値があるようだ。
そして、庶民が使うのは銅貨。
「りんご飴は5銅貨。キャベツは3銅貨。ただのりんごは1銅貨。砂糖は貴重なようだな」
ただ歩くだけではない。
見て覚えるしかないのだ。
ちなみに、マーガレットもルシアも、目立つ容姿をしているため、ともに、フード付きのマントで全身を覆っている。
幸いにして、あまりにも人が密集しているため、その姿を気に留めるものもいない。
すれ違う人々は赤や黒、茶、金髪等、髪の色は様々だ。
だが、耳や爪の形や長さが人間とは異なる者や、明らかに容姿が美しすぎる者、ものすごく背の低いものなどもいる。
いわゆる、エルフや。その他にも獣人、ドワーフなどの他種族が混じっているのだろう。
昔読んだ“異界の種族”という本に載っていた種族が、まさに、そこに描かれていたのと同じ特徴をもって存在している。
(あの作者はもしかして)
いや、今は、答えのないことを考えてもしかたない。
(それにしても、獣人はどちらかというと魔族のカテゴリーだと思うんだがな)
種族はなんとなくわかっても、いまいち、魔族とその他のカテゴライズが理解できない。
他にも知りたいことはたくさんある。
この世界の成り立ちや、地図。実際にどの種族がどのくらいの人数存在し、どのように生活しているのか。どの種族が、どの立場に置かれているのか。
(基本ができていなければ、何をしても、地に足がついていない不安定さが残る)
だから、ルシアの目指すのは、
「見つけた」
ルシアは一軒の建物の前で足を止めた。