異世界6
「ふふ、明日出発じゃなかったのかしら?」
村を後にして歩いていると、背中から声をかけられた。
その声に、一切足を止めることなく進みながら、
「見送られるのは性に合わない」
「そう?私はフラワーシャワーと歓声の中を歩くのも悪くないと思うけれど」
「結婚式か?いちいち、おまえは欲深い極みだな」
「ふふ」
ルシアの歩く音だけが響く。
「・・・真面目な話、少しおまえには腹が立っている」
「そうでしょうね」
「私は一応まだ幼気な17歳だぞ」
「そうね」
「・・・」
ふふ、とマーガレットが笑う。
「でも、知らずにおきたかったとも思わないのでしょう」
「・・・」
ルシアは前を見つめたまま。
「おまえが何かを企んでいるのは、とっくに気が付いていたが。まさか、こういうこととはな」
「ふふ」
「いや。元々世界征服ぐらいは依頼されると思っていたからな。やることは変わらないか」
「やりがいがあるでしょう」
「偉そうに言うな」
「ふふ」
ふと、ルシアは足を止めた。
「もっと助けられたはずだと思うのは、傲慢か」
立ち止まった背に、マーガレットは、
「その答えをあなたは知っているでしょう」
「・・・そうだな」
ルシアは空を見上げた。
星が輝く、良い夜だ。
「ルール―には、“人に言うならまず自分から”とある」
「そう」
「行くぞ」
ルシアは再び歩き出した。
ふふ。
マーガレットの声を背に、ルシアはまっすぐ東を目指す。
森を抜ければ、広がる草原の向こうに城壁が見えた。
「あれか」
地を歩くものにとっては、堅固な守りだが、ルシアのように空を飛ぶものにとっては問題なさそうに見える。
「いや」
よくよく見てみれば、何らかの結界が張られている。
拒む程の力があるものではない。
あれは
「感知系魔法だな」
何者かが入り込めば、それがわかるようになっている。
細かすぎて見えない糸が城壁から上空。全てに張り巡らされている。
繊細な魔法だ。
「あからさまな結界を張れば、かえって目につく。しかし、まるっきり放置では不用心すぎる。なるほど。レジスタンスのリーダーはなかなか思慮深いもののようだ」
「ルシア。感心するのはいいのだけれど。お姉ちゃん、そろそろ熱いシャワーを浴びたいわ」
「その辺の草むらででもしてこい、と言いたいところだが。休みたいのは私も同じだ。というか、せめて、こいつと違う部屋の空気の中で寝たい」
「うふふ」
「ということで、だ」
『隠匿』
視覚的秘匿だけでなく、質量、放出する生命活動量、熱量、魔力。
全てを草木と同じレベルに合わせる魔法。
見た目には不可視。
成分は草木となる。
これなら、探知の魔法にも引っかかることはないだろう。
『飛翔』
ソプレーズを目指す。