異世界5
皆で朝食を食べ、午後は仲間を弔った。
夜のとばりがおりた頃。
マーガレットとルシアの二人は助役とマシューが住む家の戸を叩いた。
「ルシア様。お姉さまも。どうされましたか」
出迎えてくれたマシューが驚く。
「夜遅く、疲れているところ申し訳ない。少し相談したいことがあるんだが、お時間を頂けないだろうか」
「もちろんです」
マシューはそう言うと、扉を大きく開き、二人を招き入れる。
「失礼する」
「こちらにおかけください」
エイダンが席を用意してくれた。
四人は向かい合って腰掛けると、
「早速だが。私たちは明日の朝にはこの村を出発しようと思っている」
「!」
「・・・」
二人の顔に不安が浮かぶ。
しかし、マシューは首を緩く左右に振り、嘲笑を浮かべる。
「・・・助けて頂いた幸運に感謝してしきれない程なのに。引き留めたいなんて。僕は本当に情けない・・・」
「マシュー」
「ゴブリンは指揮されたり、まさか、報告して、この森にやってきたわけでもない。魔王はこの村の存在に、わざわざ気を留めたりもしないと思います」
「そうであれば良いと思います」
ルシア自身、色々と考える性格だ。
気休めの言葉に聞こえるとわかっていても、いつまでも、この村を守り続けるのは、違うと感じていた。
「あら、大丈夫よ」
マーガレットのあっけらかんとした声。
三人が、マーガレットに視線を向ける。
それを向けられて、マーガレットはニコリと笑みを深くした。
「これを使えば、怖いことから遠ざけてくれるわ」
マーガレットが、右手を差し出す。
その手には、
「魔石」
4年前にねだられて作った魔石の一つ。
「結界に特化した魔石だから、村の中央に置いておけばいいわ。魔族の侵入から守ってくれるの」
「魔石」
「そんな高価なものを」
エイダンとマシューが顔色を悪くする。
「あら、タダではないから安心して」
「お金を取る気か?!」
ルシアの問いに、マーガレットはキョトンと首を横に傾げる。
「お金は将来とるかもしれないけれど。これは投資よ。私が支給した物も全て。だって、他人にここまでしないわ」
「私はできることはすればいいと思うがな」
「あなたには、有能な財務管理者が必要ね」
「・・・大変なときには分かち合うものだろう」
「ルシアったら本当に良い子ね!でも、私が今日準備したものは全て。あなた方がルシアの民になるから、助けるべき民と見なして助けただけよ」
「ルシア様の・・・民?」
エイダンとマシューの驚愕の眼差しを受けて、ルシアはぶんぶんと首を横に振る。
「私は統治者になるつもりは」
いや。
言いかけて、ルシアは出立の時を思い出す。
“ルシアは王様になって、私は姫になる。そうして、隣国の王子様と結婚するの”
(この女は、確かにそう言っていた)
ルシアに、なるつもりはない。
だが、マーガレットになるつもりがあるなら。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
冷や汗がダラダラ流れる。
「ルシアの未来の家来さんたち。しっかり頑張ってね!」
「家来言うな!」
「あら、つい」
ぽっと頬を褒めて恥じらう姿に、エイダンとマシューが、ぽーっと見とれている。
『可愛い』
「わけあるか」
つい、口にしてしまった。
それを慌てて取り繕うように、えへんっと咳払いする。
「とにかく、我々は明日出発する。それだけ、伝えたかったんだ」
エイダンとマシューは立ち上がった。
二人、頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
マーガレットが当分の物資をかなり準備してくれたから、助けにはなるだろうが。
それでも、復興までの道のり。
そして、負った心の傷は、乗り越えるのに時間が必要だ。
それでも。
「あなたがたなら、乗り越えられる」
ルシアの強い言葉に、二人は頭を下げたまま。
涙をこぼした。