きゅうちゃん2
三人の出会いの続きです。
少女の腕程の木の枝がすさまじい勢いで少女に迫る。
「こっの、なめるなっ!」
先ほどまで血を吸っていた少女を横目に見ながら少女はこぶしで枝に殴り掛かる。
普段なら木の枝程度少女にとってへし折るのはなんてことない。割り箸を折るぐらいには簡単な事だ。
しかも、今は最高の血を飲んで気力、体力も十分なはず。
しかし、押し負けたのは少女の方だった。
「どうしたんですか?始祖というのはその程度ですか?」
「くぅ。こんな、小技で私を止められるとおもわないで!」
少女は足に絡みついて殴る邪魔をしていた草を無理やり引きちぎって前に進む。
狙うは目の前のアイラとかいうドライアド。
こういう操作系の技を操る相手に対しては術者を狙うのが最も効率的な方法だと教わっているから。
さすがの身体能力で一瞬でドライアドに迫る。
「はっ」
声を発しながら殴り掛かる、が届かない。避ける予備動作はなかったのに。
「はあ、脳筋の相手は疲れます。タフすぎるんですよね。毒もあんまり効いていないみたいですし。」
後ろから蔓に巻きつかせて引っ張らせ、回避したようだ。余裕を見せながら少女を挑発する余裕まである。少女の肌には細かなかすり傷がいくつか見える。
嫌らしい配置に置かれていた草で切ったり、先のとがった木の枝を射出したりしてつけた傷だ。
わずか数秒で消えてしまうような傷だったが、それらの攻撃には当然のごとく植物由来の毒がついていた。
何種類もの猛毒だったが、ほんの少し動きを鈍らせる程度の効果しか得られていない。
少女の攻撃はことごとくかわされ、アイラの攻撃はそこまで効果が出ていない。
お互いがお互いに決め手に欠ける戦いとなっていた。
アイラはちら、といまだ首筋から血を流している女の子を見る。
吸血鬼による吸血では無駄に血は流れないはずだが、いまだに血が流れ出ている。
例え無駄に血を流さないようにする能力は有っても、それを使っていなければ当然血は流れ続ける。
知らずとも無意識にか多少は能力が効果を発揮している様ではあるのが救いか。
血の流出を比較的抑えられてはいるが、このまま放置するのもまずい。
「一時休戦しませんか?取りあえずその子の治療をしないといけないですし。」
「人間がどうなろうと関係ないっ!」
吸血鬼の少女のこぶしが頬にかする。
余波程度であるというのにアイラは壁際まで飛ばされる。いや、衝撃を殺すべく自ら跳んだ結果だ。
床に生えていた草も操って衝撃を殺し、すっ、と静かに着地した。
そしてため息をつく。
「はあ、仕方ないですね。こんな手は使いたくなかったのですけど。」
アイラから発せられる力の高まりに警戒するべきか、止めるために突っ込むべきか。
悩んでいる一瞬の間に準備はもう終わっていた。
「守ってください。」
アイラの体が床を突き破って生えてきた木の中に入り込む。
いまだ首から血を流している女の子の周りに幾本もの木が生え、ベッドごと女の子を守る。
吸血鬼の少女は慌ててアイラの体を飲み込んだ木に特攻をかけるがもう遅い。
自分以外には誰も聞こえていなかったが、アイラはこう言った。
「壊れてください。」
その瞬間。城が崩れた。
植物というのはどこにでも根を張る。それは時には建物を崩すことさえある。
本来とても長い年月をかけて成る現象ではあったが、アイラは植物を操るドライアド。
それも聖樹から生まれたとても強大な才能を持った。
柱という柱が植物に浸食され、わずかに支えていた壁すらも浸食され壊れる。
結果、支える物がなくなり城は全壊した。
後に残ったのは大量の瓦礫と大量の木々。
「あ、あ、あああーーー。私のお城がー!」
吸血鬼の少女は驚異的な速度で駆け抜け、時には落ちてきた瓦礫を殴り壊し、何とか城から脱出していた。
「はっ、やつは?」
自分のお城が崩壊した悲劇にしょんぼりしていた少女であったが、今の今まで敵対していた
ドライアドを探すも見つからない。大量の木々が邪魔して上から探しても見つからないのだ。
時折牽制として杭のような木が飛んでいる少女の方へ射出されるのにも邪魔された。
「くぅーーー。奴め、今に見てろよー。」
悔しがっている少女が吸血した相手は人間ではなく魔族であった事を知るのはのちの話だし、
事の経緯を知った世話役にとてもとても厳しい説教をされたのもまたさらにのちの話。
そして、吸血された少女と、吸血した少女が出会って友達になるのはまだまだ先の話なのであった。