6.異世界からの落とし者
~騎士団長side~
「団長ー!大変なんですー、団長ー!」
あぁ煩い、どこの所属のやつだ、廊下を走るなと常日頃から言っているのがわからないのか?
しかも大声で叫びながらなど問題外だ。
そう思いながら下から回されてきた書類に目を通しサインをしていた手を止めるのとほぼ同時に自分の部屋のドアがドンドンドンと凄い勢いで叩かれた。
もうあれは開けてもいいかの伺いを立てるノックの音ではない、ただ煩いだけの公害だ。
俺はここ最近では一番だと言える溜息を吐くと座っていた椅子から立ち上がりドアに向かって歩いて行き、取っ手をガチャリと回して思い切りドアを開けた。
そこには突然ドアが開いてビックリしたのか目を真ん丸に開いた部下がいたが、そんなことは関係ない。
「煩い、そんなに叫ばなくても聞こえている。用事があるならドアをノックする所からやりなお…」
「団長それどころではないんです!」
あろうことかこの部下、俺が話している途中で言葉を被せてきた。
正直ちょっとムッとしたが、日頃から仕事中の礼儀作法はしっかり教育されている騎士団の団員としては異例なことだ、余程のことが起こったとしか考えられない。
「どうした?何があった?」
俺が話を促すと、部下は興奮して大きくなっていた声を潜めて俺にだけ聞こえる声で話し出した。
「俺確かに見たんです、つい先程東のネーロの森に空から一筋の光が射し込む所を…!あれは確かに何者かが異世界から落ちくると言われている現象と同じでした!」
なんだって!?
東のネーロの森と言えば、騎士団の者でも余程のことがない限り近づかない魔の森と言われている地帯だ。
鬱蒼と生い茂る木々によって光が遮られ、日中ですら薄暗く奥に入り込めば恐ろしい魔物が蔓延る森。
そこに異世界から何者かが落ちてきたとなると、一刻も早く探し出し救出しなければその者は命を落とす可能性が高い。
『異世界からの落とし者』と呼ばれるこの者たちは我々に幸運を運んでくる使者である、という言い伝えが信じられているこの世界において、その者は何よりも優先し救出・保護しなければならない存在である。
「至急ネーロの森に向かうぞ!お前は光の射し込んだ場所を見たんだろう、俺と一緒に来い。…あぁ、待て、その前にアレックスを呼んで来い、俺の不在の間騎士団を任せねばならない」
「了解しました!アレックス副団長は今訓練場にいるはずですので、直ぐに呼んで来ます!」
大急ぎでアレックスを呼びに行った部下を部屋で待つ間に俺はネーロの森に行く為に鎧をつける等の準備を進める。
何も準備せずあの魔の森に行くのはいくら俺でも死にに行くようなものだ。
食料やたいまつ、寝袋や魔除けの香も必要であるし、あの森は馬を連れていけないから森に入ってからは徒歩で行くことになる、俺は自分のマジックボックスの中に必要そうなものをありったけ詰め込んだ。