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  作者: KOUKI
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4


 俺、ラインハルト。昨夜のことが気になって、勉強に集中できない。といっても、いつも勉強してるフリなんだけどな。って、そんなことは置いといて、ヴィネスがベッドの下に何か隠していた。見て良い物なのか、見てはいけない物なのか、ウーン…………


 「ハルト! まーた自分の世界に入り浸って! 帰って来なさい!!」


 ラインハルトの頭上に痛みが走る。眼前には、アンナの姿。右手に持つ本の角が、少し丸い。


 今日は、アンナが先生となり、子供達に勉強を教える日。リリアにとって、初めての授業。リリアは、紙飛行機を作ることに苦戦していた。


 「母さん、これ以上頭が悪くなったらどうするのさ?」


 本の角で、頭を打たれたら痛い。耐え切れず、目頭に涙が溜まる。


 「ちょっとくらいショックを与えた方が、ハルトには丁度良い。母さん、そう、学んでるところよ」


 「いやぁ……痛いだけだよ……」


 声を押し殺し笑う一同。ようやく、満足のいく紙飛行機を作れて上機嫌のリリア。


 まだ、頭がいてぇ……腫れてるし、やって良いことと、ダメなことってあると思うんだけどなぁ……はぁ……


 頭痛で気持ちは最悪。階段を登る足取りが重い。


 「どうしたの? ハルト、元気ないね。まだ頭が痛いの?」


 「もう痛くねーよ……ほっといてくれ」


 昨夜のこと、聞いても良いのだろうか……

 

 「なぁ、ヴィネス。昨日、ベッドの下に何か隠してたよな? もしかして…………大人の本でも手に入れたのか!?」


 「起きてたの? って、違うよ!! 大人の本ってなんだよ!!」


 「大人の本を知らないの!? まぁ、今度、兄さんの部屋に二人で侵入しようぜ」


 正直に聞けて心が晴れる。梯子を上がる身体が軽い。


 「――――僕ね、ハルトに見せたい物があるんだ」


 ベッドの下には二十センチほどの隙間があり、本やおもちゃが取り出しやすいよう整理されている。丁寧に畳まれた服と、大事に仕舞われた装飾品を取り出す。


 「それって……懐かしいな」


 路上で初めて見たときは血だらけだった。体の傷が癒え、服も白さを取り戻した。見つめる眼差しが感慨深くなる。


 「懐かしいでしょー。昨日、パパ先生のところに行ってきたんだ。そしたらね! いつも鍵がかかってて入れない部屋に入れてくれたんだよ!」


 「まじで! いいなァ。――どんなんだった?」


 「うんとね、お薬とか、こういうのとか、大切にしてそうな物がいっぱいあったよ。何に使うのか、よくわからないのもいっぱいだったけどね」


 「ほぉほぉ、ちなみにだね、その置物は何ナノかな?」


 取り出された装飾品に目がいく。片手に収まる大きさ。水滴型のガラス玉が中央に鎮座し、周囲を金属製の月桂樹の台座が支える。月桂樹の中央には紋章が彫られ、服にも同じ紋章が刺繍されていた。


 「これはね、レコーディスっていうんだよ。綺麗でしょ」


 「そんなんも持ってたのか。ちょっと貸して」


 「ダメー。落としたりしたら大変だし、それに、今は使えないけど、とっても危ないんだよ」


 「落とさないし、危ないって、爆発でもするのか?」


 「爆発はしないけど……転送装置って言ったら、信じる?」


 「信じる。だから、貸して」


 「ダメー」


 暫く押し問答するも平行線。喧嘩になるのは、お互い本位ではない。気分転換するため、別行動する。


 ――――うん? あれは、リリア。台所で何してるんだ。


 部屋の入り口から覗き込む。台座を使って背伸びし、楽しそうにフライパンを動かす様子が見える。


 料理? おままごとでもしているのか? ソフィ姉のマネ事だな。

 ――――そうだ! 良いこと思いついた。


 「なぁ、リリア」


 顔を出してリリアを手招きする。ポケットから出したクッキーをチラつかせながら。


 きたきた。リリアと遊ばせてる間に、こっそりレコーディス貸してもらおっと。

 ――――それにしても、涎がすごいな……


 クッキーをもらってご満悦のリリア。二人はヴィネスの元へ向かう。


 「おーい、ヴィネスー。ってあれ? 居ないのか。てっきり本でも読んでるのかと。ん? リリアー早く上がって来いよ」


 梯子の中腹で動きが固まる。小刻みに震える梯子が、不安定さを感じさせる。


 「その高さで怖いとか、ないよな?」


 リリアの手首を掴む。木登りで鍛えられた腕が、安心感を与える。


 ――――さて、この辺かな。


 「って、リリア! ベッドの上で跳ねるな! うわっぷ」


 ベッドの下を漁っていたラインハルトの上に、リリアが落ちる。


 「いててて。だから言ったのに……大丈夫か?」


 姿勢を直し、優しく頭を撫でる。予期せぬ落下で緊張した表情が、柔らかさを取り戻す。


 「お! レコーディスあるじゃん」


 衝撃で転がってきたレコーディスに目が輝く。頭を撫でる手が、でかしたと言わんばかりに激しい。


 「近くで見ると綺麗だなぁ。ガラス玉の奥、部屋が逆さになってら。ん!? ――――暗くて見えなくなった?」


 透明だったガラス玉は、光を受け付けないほど黒く染まる。


 「おっもしれぇ。色が変わるんだな。リリアも見るか?」


 リリアを膝の上に移動させ、レコーディスはベッドの上に置く。


 「こういう形を見てるとさ、この、てっぺんのちょろんっとしたの、ツンツンしたくなるよな」


 水滴型の頂点。折らないよう、優しく触れる。二度、三度、感触を楽しむように。刹那、指に痛みが走る。咄嗟に仰け反るラインハルト。マネするリリアの悪い見本。


 「危ないからリリアはやめとけって、うあぁぁ。なんだこれっ!」


 レコーディスから黒い靄が噴出し、二人を包む。


 ――咄嗟に息を止めたがどうなってるんだ? 暗くて何も見えない。リリアは? 感触はある。早く出ないと。

 

 リリアを持ち上げ、勢い良く飛び出る。靄から出た視界に、眩しい景色が流れ込む。草や花、木が生い茂る草原。土の感触。木登りしたときのような心地よい風。


 「うおォォォォ外!! よくわかんないけど外!! 外!! 外!! ヴィネスのやつ、使えないって言ってたじゃないか!! あ、リリア……ちょと待って……」


 喜ぶのも束の間、リリアが蝶々を追いかけ、遠ざかる。後方で黒い靄が薄くなるのを感じつつも、自身も走り出したい衝動を抑え切れなかった。

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