初めての小説を書かせていただきます。自分が読みたいと思える小説を、みなさんに楽しんでいただけるよう書いていきたいと思います。
「ねぇ、お母さん? なんで人は人を殺しちゃいけないの」
「……そうねぇ…………昔の偉い人達が、秩序を守る為に、そう決めたのよ」
「ふーん……ちつじょってなぁに」
「ハルちゃんが、幸せに暮らしていくために必要なことね」
「そっかぁ、大事なことなんだね!!」
母との思い出は、三歳の頃から作られていない。
「これからどこに行くの」
「……どこにも行かないわよ……ずーっと一緒」
ちょっとお出かけしましょうと言われ、手を繋ぎ、母と歩いた。久しぶりの散歩が楽しくて、景色を楽しむより、母の顔を覗き込んでいたのは覚えている。でも、母と目が合うことはなかった。
「大きくなったね……抱っこ、してあげよっか」
「うん!!」
家から二十分ほど歩き、橋の上で抱っこをしてもらった。体が小さく、いつもお腹を空かせていた俺は、そこまで重くなかったと思う……それが母との最期の思い出だった。
レオンハルトは三歳のとき、親に捨てられた。原因は、ブロンドヘアーの父と母から黒髪の子が生まれたこと。父は母の浮気を疑い、家の中は夫婦喧嘩と子供の鳴き声で埋まっていた。
父はいつしか家に帰ってこなくなり、生活が困窮した母は、幼いレオンハルトを抱いて川に飛び込んだ。運よく川岸に流れ着いたレオンハルトを拾ったのは、体の汚れを落としていた子供達だった。
子供達は下水道生活。その日の食料にも困る生活環境だったが、レオンハルトが後ろを歩くと、普段よりお金や食べ物が集まることを知った。喧嘩の声ではなく、子供のはしゃぐ声で埋め尽くされた下水道は、心地悪い環境でもなかった。
その日暮らしが二年ほど続き、五歳になった頃、突然の大雨に打たれたレオンハルトは、同年代の子が、傷だらけで路上に伏しているのを見つける。普段であれば見てみぬフリをしていたが、咄嗟に足を止める。
「ごめんあさい。まって」
大雨から逃げようと、下水道に走っていた一行に、か細い声がかかる。
「おい!止まるな!」
後ろを付いて来るだけで、発言する権利もない下っ端の一言に、子供達のリーダーは足を止め振り返る。
「ごめんあさい。あの子助けたい」
「だめだ」
喜捨を集めるためであれば、レオンハルトが居ればそれで十分。リーダーに却下されてしまうと、それ以上は黙って下水道に付いていくしかない。幼い子供が生きていく為の決め事。
「ごめんあさい。少し見るだけ……」
「だめだ」
「少しだけ……」
「ちっ。仕方ねぇな。どうせくたばってるだろうし、それで満足したら帰って来い」
自分が生きることだけを考えるなら、リーダーに従っていれば良い。それでも、見捨てることが出来なかった。
「ツンツン……ねぇ、いきてる……?」
傷だらけの子供に声を掛けるも、虚ろな目を向けてくるだけで返事は無かった。傷だらけで反応がない。通り過ぎる大人達は目を向けるだけで、わかりやすく避けていた。
しかし、神は居た。医者であり、父となるマルセルだった。たまたま遠方の診察に来ていたマルセルは、二人を保護し、そのまま孤児院で養うことにしたのだった。
「ハルト君、君はなぜ、いつも謝っているのかな?」
「ごめんあさい」
「もう謝らなくていいんだよ。君はこの子の命を救った。そしてこの子のお兄ちゃんになる。弟を守るためには、謝ってばかりいないで強くならなければならない。わかるね?」
「ごめんあさい」
「うーん…………よし、わかった。この子の名前はハルトが考えるんだ」
「……名前……」
ヴィネスは記憶喪失。傷が癒えても暫くは発語も表情の変化も無かった。そんなヴィネスにレオンハルトは全てを持って尽くした。気弱だった性格が眩しく変化する。全てはヴィネスの頼れる兄となるために。