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シャボン玉ブレイカー  作者: 緑乃箱
3/3

現代を生きる忍者少女ファンタジー



 始業の鐘が鳴る。

チャイムを聞きながら、ぼくは女子トイレでざばざばと顔を洗う。つけまつげをとってマスカラを落とす。

あ、ちなみに、さっきからずっとぼくって言ってるけど、ぼくはれっきとした女である。

 ただ、男ばかりの家で育って、6歳まで自分のことをぼくと呼ぶのが普通だと思っていた。気がついたら男言葉が素だったのだ。今さら直せない。

中性的な風貌のせいか、女子に告白される事もある。だがぼくは性嗜好としては普通に男の子が好きだと思う。特に恋愛ってした事ないから、知らないけど。

 タオルで顔を拭き、長髪のウィッグをぬぎすてる。その下からぼさぼさになった短い髪が現れた。薄茶の髪は染めているのかと聞かれることがあるけれど、そうではない。瞳や膚の色も薄い。単に生まれつきだ。しっかし、とぼくは鏡の中の自分を見て思う。こんな風に短い髪をとかしもしないでいるから、男みたいに見られるのかもしれない。せめて手でとかしておくか……。

 だが、そう思うと同時に後から声がかかる。

「藤林 隼はやと」

 地を這うような低い声に、ぼくは内心ひやりとした。

 ぼくの名は隼と書いてハヤト、と読む。こんな風にフルネームで呼ばれる事は滅多にない……怒られている時以外は。

 背筋を正し、鏡を見直すと、鏡の中には、猫背の男性教師が映っている。いつの間に背後に立たれた? 迂闊だった、とぼくは舌打ちしたくなる。

彼はクラスの副担任で、化学教師の大鴉おおがらすだ。幽霊のように痩せた体をダークスーツに包み、青い顔に長い縮れ毛を垂らしている。底光りする眼には何ともいえない迫力があり、見据えられると体がすくむ、と皆が言う。

 陰気な風貌ゆえに、生徒人気は万年停滞中だ。猫背さえ直せばかっこよく見えなくもないところが、勿体ない。

彼は寒そうに襟元をかきあわせた。今日はぽかぽか陽気の小春日和だが、寒がりの彼には関係ないらしい。

こんな陰鬱な顔で背後に立たれたら、普通の女の子なら悲鳴をあげるだろう。あ、あと、言い忘れましたが、ここは女子トイレです、先生。

ぼくは振り向かずに笑顔だけ作り、急いでウィッグを鞄につっこむ。

「先生。どうかされました?」

「命じていないのに忍術を使ったね。露見しないとでも思ったの」

 ひょろっとした外見に似合わぬ厳しい声がぼくの耳を打つ。正直、ひるんだ。笑みを消す。


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