3.百合家の朝食。
翌朝。
寝たら、また別の世界に行くのかな~と思っていたけど、
やはりそんなことはないみたい。
青蘭学園の可愛い制服に着替え、リビングに向かう。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう!」
いつも美しい礼で挨拶をしてくれる家の使用人。
この人は、今井さんだ。
ご実家は、IT系の会社をたち上げているらしい。
そんな今井さんは、弟がいるからと言って、百合家に勤めに来ている。
「お美しいですね」
「ありがとう。本当に可愛いよねこの制服」
「…はい」
今井さんは苦笑している。
何か変なことを言っただろうか。
「おはよう、千紗子」
「おはようございます」
リビングに入れば、お父様、お母様、お兄様、凪が席に着いていた。
もし自分を待っていたとしたら申し訳ない。
そう思い、そそくさと席に着いた。
「凪も千紗子も制服よく似合ってるわね」
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
お母様に褒められて、笑顔が溢れてしまう。
凪も、耳が赤くなっているから照れているんだろう。
「千紗子、凪」
お父様が私と凪の名前を呼ぶ。
お父様の声は低くて、でも優しくて。
とても安心できて好きな声。
「…頑張りなさい」
「はい!」
「…ん」
お父様の顔と、凪の反応を見て思わず笑ってしまう。
やっぱり凪のツンデレはお父様譲りなんだなって。
お母様も同じことを思ったらしい。
二人で顔を見合わせて微笑む。
「ふふっ、千紗子と凪と一緒の学園に通えるなんて楽しみだな~」
お兄様がキラッキラのスマイルを向けてくる。
さすが学園だけでなく、他校でも百合王子と呼ばれている男。
「私も楽しみです」
「俺兄さんが怖い…」
凪は私とは対照的にため息を吐いた。
お兄様、怖いかな?
「大丈夫?凪」
「ん、だからそんなデカイペットボトル持ってくんな」
「えぇ~」
水の入ったデカイペットボトルを持っていくのは駄目だったらしい。
水分とったらいいと思ったんだけどな。
―――――
車に揺られ、ボーッと外を眺める。
横には、凪とお兄様が私を挟んで座っている。
向かいにも座れるんだけど、今日だけこの席順が良いと二人が言ったので
仕方ない。
「お兄様、学園にはいつ着きますか?」
「後ちょっと。そんなに楽しみなの?」
「…楽しみとは少し違うかもしれません」
確かに、直にヒロインと会えたり、凪以外の攻略対象と会えることは
楽しみだ。学園に入学することにもドキドキしている。
しかし、私が断罪された場合、家が没落するのだ。
そうすれば、家族は不評を買い、百合家に勤めている人達も就職先が見つからない。
私一人が傷付くのは良い。でも、他人を巻き込むことは、何か違う。
その不安で一杯一杯だ。
またボーッと外を眺め始めれば、大きな建物が見えてきた。