10.桑井縁
僕ー桑井縁は桑井総合病院の息子だ。
穏やかな感じの父の血を継いでいるからか、僕自身も周りに優しそうという
イメージを植え付けられた。
まぁ、それはそれで都合がいいんだけども。
「縁っ!」
ピョンと飛び付いてくるこの女の子は百合千紗子だ。
濡烏色の髪に深い漆黒の瞳。
雛人形を思い浮かばせる顔立ちは、そこらの女子よりお世辞なしで可愛い。
…でも、一つだけ言わせてほしい。
千紗の胸は、成長するのが早い。身長は平均より低いのに、豊満な胸。
これでは、思春期の男に人参を目の前にぶら下げられた馬のようになれと言っているも同然だ。
実際そうなんだけど…。
それに、千紗は僕の事を弟みたいだと思っているみたいで、
距離が近い。いくら幼馴染みだからといっても思春期なんだ。
その豊満な胸を無邪気に押し当ててくるのは少し危うい。
「千紗、どうしたの?」
「うーん。いや、何もないんだけど…。お菓子作ったから一緒に食べよう?」
ウワメヅカイは反則な気が…。
「もちろん」
千紗のお菓子は凄く美味しい。何のお菓子なんだろう。
そう考えていると後ろから、遅れてきたのだろう。
千紗の兄の奏樹と弟、凪が来た。
二人とも、僕を睨んでいる。…シスコン。
「千紗子、僕にも食べさせてくれるんだよね」
「俺にも」
「うんっ!!」
千紗も二人に負けず劣らずブラコンだから、嬉しそうだ。
この兄弟は将来が見えない。
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僕達が学園に入学する頃、千紗は一段と綺麗になっていた。
千紗を見る男子達の目はいやらしい感じを醸している。
本当にもう…。
ある日、千紗が藤宮大和と婚約したことを噂で聞いた。
その時の僕はどうかしていたと思う。
直ぐに千紗を探しに走って、見つけたのは良かったものの、千紗は告白をされている最中だった。
出ていくタイミングを見計らっていたのだけれど、千紗が凄く困っていたから、
声をかけた。
「縁っ!!」
そうやって自分を頼ってくれる千紗は藤宮大和のものになるんだと思ったら胸が痛くなった。
何なんだろう…。病気か?
兎に角、固まっている柴崎さんを保健室に連れていこう。
千紗をいつか、こんな風に抱けたら…。
なんて思う自分が嫌だった。
桑井縁は桑の花にちなんでいます。
桑の花の花言葉は、『共に死のう、彼女の全てを愛しています』です。




