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偽悪のネコ耳魔法少女  作者: しわ
第一章 夢幻遊園濃霧森林カヴト
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第二話 “歪な少女”


 ミルと別れて、朝食を探すための『採集』を再開する。心なしかシャルティとアイルの足取りが早まっているのは、採集時間の都合であり、ミルとの問答による結果であった。


「そういえば『ビックリ草』っていつ来ても全然採集させてくれませんよね。ミルたちも苦労してたみたいですし」


 シャルティは憤慨から頬を膨らませる。


「……ビックリ草なんて集めてどうするのさ」


「いっぱい集めて上空で爆破するんです。すごくキレイじゃないですか?」


「遊び感覚で文明破壊兵器を考案しないで。キラキラした乙女の瞳で疑問を投げ掛けないで」


 ああでもないこうでもないと、効果的な兵器運用を考察しながらさらに森の奥へ進む。

 依然として視界は霧で埋め尽くされているが、二人の足取りに迷いはない。余人が迷い込む霧の森も、彼女らにとっては遊び場であり、庭であり、世界だった。


 この小さな箱庭だけが彼女らの世界だ。


「あ、鉄の泉だ」


「ずいぶん歩きましたよね、流石にここまでくれば――――、ん?」


 左後方八時の方向から、風を切る小さな物体をシャルティの耳が捉える。

 振り返る。少女の紅き双眸が捉えたのは、とある草だった。


 通称『ビックリ草』――――正式名称『消火菊』。


 主に霧の森に分布し、他の地域では育たない。その役割は消火。

 菊は周囲の高熱を自動で感知し、花弁を破裂させることで対象を消火する。いわば森の防衛機構である。


 爆ぜる。

 ドッ、という衝撃が空中を伝導し、同心円状にまき散らされる。


「わぁぁぁぁぁ!?」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 三半規管がグルグルと踊る。視界は定まらず、上下左右が反転。シャルティの伸ばした手は空を掻いて、頼りを失った体は地へ倒れ込んだ。


 理解は思考の彼方。目を回してなんとか四つん這いで踏み止まる。

 普段はピンと起立している両耳が、いまや力なく白髪の中に埋もれている。


「あーっはっはっはっは―――――――!!」


 そこには十二歳の男児が悪戯に成功したイタズラっ子のような声で笑っていた。

 イタズラっ子ポッドだ。

 もう本当、これ以上ないって笑顔である。オマケに吸い込まれそうになるほど空虚な、空っぽの()()()を残してウインク。


 キーンと高鳴りする耳を押さえ、涙目のシャルティが叫ぶ。


「ポッドさん!やっぱりあなたが独占していたんですねっ!!」


「え。そこなの怒りポイント」


「はっはっは。何の為におれが早起きしていると思ってるんだよ!」


「きぃぃぃ―――――!!」


「イタズラという下らない理由だよね」


 時間稼ぎ完了。

 足。動く。

 視界。良好。

 よしダッシュ。


「ははは、追いつけるもんなら―――って早っ!?」


 時間にして五秒。彼我の距離は一瞬で詰められ、ポッドは地面に組み伏せられていた。

 ポッドの死角である()側から攻めれば、それは勝負にもならない。


「ふふん。どうですか、わたしの勝ちです。分かったら所持している全てのビックリ草と、ついでに朝食をわたしに贈与するのです」

 ドヤ顔で勝ち誇るシャルティ。もはやイタズラっ子も驚く恐喝だ。


「ふんっ!俺が早起きした成果は、俺だけの物だぞ!・・・というかシャルティに渡すと森が壊滅する気がするんだが」


 正論だった。すこぶる正論だ。


「うー・・・!!」

「痛いやめて爪出てる痛いやめて爪出てる」


 くやしいが反論の糸口がない。唸るシャルティ、爪が突き刺さるポッド。


「ああっ。やっぱりシャルは可哀想な姿が似合うなぁ、かわいいなぁ・・。もっとイジメたいなぁ・・・」

 そして生唾を飲み込んで悶えるアイル。


「「それはおかしい(です)」」


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 


「なかなか美味しいですよ。やるじゃないですかポッドさん」


「ごめんね。でも何かにつけて毎日ご飯をくれるのは、構って欲しい顕示欲の現れなのかなポッド君」


「うっせぇ!飲み物もあるからゆっくり食えコノヤロー!」


『鉄の泉』を視界に収め、シャルティとアイルとポッドは朝食に勤しんでいる。

 メニューは、『グリドンの実』と『イチの果実』。


 シャルティは『イチの果実』を舐めながら、先程のミルとの問答を思い出していた。

「さっきミルさんに言われたんです。『成人の儀』をよく考えたほうが良いって。ポッドさんはどう思いますか?」


「・・・・考える必要なんか、ねぇよ」


 ポッドはそう言って、『グリドンの実』を乱暴に嚙み砕く。

 苦い。まだ未成熟の若い実だった。

 その行動は正しく、ポッドの考えに即していた。


「ボクも分からないなぁ。早くみんなと同じになりたいのが間違っているのかな」


 アイルが『イチの実』を舌で転がす。

 甘い。舐めれば舐めるほどに、奥から果汁が溢れ出してきた。



()()()()間違っていない」



「「―――――――」」


 それはシャルティとアイルが聞いたことのない声だった。それは重く響く断定だった。それはきっと十二歳という子供が出していい声ではなかった。


 ふと、ポッドは我に返ったように瞬きを繰り返し、少し茶化して鼻を擦る。


「だって正式な『森の子』になったら、永遠に一緒に遊べるんだぜ! 今はまだ、お前らの時間は止まっていないけど、それも明日までの話さ!そうすれば・・・」


 ポッドは石を拾って、『鉄の泉』に向けて水平に投げる。


「はっ」


 水面に何層もの円が形成される。

 五回も足を着いて水面を駆け抜け――――やがて沈む。

 ()は自身の重さによって溺死した。


「こんな風に、楽しい時間が無限に続くんだ」


 ポッドはそれが虚ろな霧であり、夢幻のような現実否定であることを知っていた。

 だからこそ、その胸に罪悪感を燻らせ空虚な笑顔で騙る。


「ポッドはどうでもいいことで実力を発揮するよね」


「・・・ちょっと傷ついたぞ俺」


 続けてアイルが放った石は、三回の跳躍で力を失った。

 一方シャルティはといえば・・・・。


「ふんっ、ふんっ、ふんっ」


 ポチャ、ポチャ、ポチャ。


「シャルはどうして石を捨てているの?」


「・・・知りませんよ」


 アイルは時々というか素で辛辣過ぎると思う。先ほどの苛立ちを石に乗せて力任せに投げつける。

 ポッドの言葉は的確であり、それでいて厳密な境界線を引いた。


 花好きミルも、泣き虫カールも、博識エキゾも、お調子者マウも、脳無しオシットも、のんびり屋リックも、イタズラっ子ポッドも。

 みんなみんな。わたしやアイル、ミエーレお姉様とは違う。


「どうしてわたしには、ゴチャゴチャとした歪な肉がこびりついているんでしょうね」


◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 


 霧の森、禁忌四カ条。


 第一に、自他に関与する徒な傷害を禁ず。

 第二に、境界外への出入りを禁ず。

 第三に、肉の摂取を禁ず。

 第四に、性交渉を禁ず。


 以上悪しからず。


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