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偽悪のネコ耳魔法少女  作者: しわ
第一章 夢幻遊園濃霧森林カヴト
13/46

第十三話 “魔女の家”

 

「――――ィ」


 どこかで誰かの声がした。

 脳内で思考回路をショートさせる、焦燥と悩みと後悔に満ちた声だった。


「ねぇシャルティ!」


 それは雷が落ちたような寝覚めだった。

 安寧とした微睡みから、強制的に叩き起こされる感覚。当然意識が追い付かず、眠ったままの体は痺れて動かない。


「は、はいっ!?」


 目の前にいたのはアイルだった。

 明るい茶髪は、汗で湿って重みを増している。どうやら走った影響か、息も上がっているようだ。


「逃げるよ!」


「ど、どこにですか」


「森が騒いでるんだよ・・・! 外になにか・・・()()


 ポッドの言葉を聞き、目を閉じ耳を澄ませる。


「―――ガチャガチャ?」


 遠くから、複数の金属が擦れる音がした。

 そして森は沈黙する。まるで何かを恐れるように、死んだふりをするように。寝覚めの朝を迎えた森は、再び偽りの眠りに落ちた。


「まーじまーーー!?」


「え」


 そして小さな夜が落ちてきた。

 ベチ、と。黒い物体が地面に潰れて、ピクピクと痙攣している。


「・・・あんた何してるのよ。まさか・・」


「まじじじじーー!」


「・・ふーん」


 黒猫は他の誰でもなく、真っ先にミエーレの胸に飛び込んだ。怯えたように耳をピンと立て、警戒によって瞳孔が開く。マジマは森の奥をジッと見つめていた。


「あれ。マジマさん、どこに行ってたんですか」


「じ・・・・」


「―――ぷ」


「お姉さま?」


「いえ・・・なんでもないわ。ね、マジマちゃん?」


「まじじー!」


 んん、とミエーレが喉の調子を整える。


「・・・まぁこれはあたし達とは別件ね。大した問題でもない。この程度なら霧が対応するわ。そんなことよりも朝ごはんの方が―――――シャルティ!!」


 ドン、と。


 押された。


「え」


 ―――視界がコマ送りで流れて行く。


 マジマが飛んだ。


 ―――大地を裂いて、一対の重厚な扉が出現する。


 ミエーレが安堵の表情を浮かべた。


 ―――劇場にあるような、装飾過多な椅子がミエーレを運んでいく。


「これ・・魔女の、()


 感情が抜け落ちたミエーレの言葉を呑み込んで扉が閉じる。その上部で赤いパネルが光った。


 ――――“上映中”――――。


 そして扉は堅い大地に沈んだ。まるで水のように、ドプリと。


「え?」


 シャルティはバカみたいに呆けた顔で、同じ言葉を繰り返す。

 最初からミエーレが世界にいなかったと錯覚する程に、その場には何の痕跡すら残らなかった。


「え?」


 地面をノックする。

 きっと誰かに、“入っています”と言って欲しかったのだろう。その一言だけがあれば安心することが出来た。試しにひっかいてみるが、爪と肉の間に冷たい土が溜まるだけだった。


 力が抜け落ちる。

 足の感覚がなく、立っていられない。


「お姉さま・・・?」


「・・・行くよシャル・・・・!」


 アイルに左腕を引かれるが、どうしても心が動かない。知ろうとすれば人を傷つける。その痛みは味わったばかりだ。


「だって、ここ、離れたら、お姉さまが、いなくなっちゃうじゃ、ないですか」


「探すんだよ!! あの扉を!! あの先に、絶対に、いる!」


 ポッドに右腕を引かれるが、どうしても体が動かない。知ってしまえば後悔する。その苦しみは味わったばかりだ。


 心も、体も。ミエーレがいなければ何の意味もなかった。動力源をなくした人形のように、シャルティには生き方が分からなかった。だってわたしに火を点けたのは、いつだって――――、



『バカじゃないの?』


 ―――()()の声が聞こえる。



「―――――!」


 ドクン。燃えるように熱い血が迸る。

 やっぱりシャルティは馬鹿な自分が大嫌いだったし、犯した間違いは消えない。だが、それでも――――お姉さまには嫌われたくなかった。軽蔑されない自分になりたいと、思った。誇れる自分になりたいと、思った。全身に新鮮な血が巡り、初めて理解する。

 ・・・ああ、とっくに火は貰っていたんだ。


「わたしが助けます」


 心も体も、動く。意識は明朗快活、しかして気炎万丈。


「わたしが・・・必ず!!」



 ―――大地を裂いて、一対の重厚な扉が出現する。



「まじっ――――!?」


 まるで張りぼての意志を嘲笑うように、扉はマジマを呑み込んでいく。


「ふふっ、させません。ケチケチしないでくださいよ、招待するなら、わたしも、一緒に・・・・!」


 だが先の経験から準備は万端だ。心も体も、一切の躊躇なく動いた。扉の奥は、光を一切遮断する暗闇だった。―――恐れることもなく、迷いもなく、シャルティは未知なる世界に飛び込んだ。


「なッ・・・ボクも・・・・!!」


「ちょおい、シャルティ!? アイル!?」


 ポッドが頭をガリガリと掻く。

 どうしてあいつらは、こう、脊髄反射で行動するのか。まずは調査をして、それからでも遅くはないだろうに。慎重なポッドは、五秒も逡巡した。


「~~~~! くそ。行くよ。ああ行けばいいんだろ!?」


 そして結局はヤケクソ気味に、ポッドも扉に飲み込まれていく。

 結果、鉄の泉にいた全員が魔女の家に招待された。


◆  ◆ 


 ザ、ザザザザ―――――。


「っ~~!」


 一瞬で情報が書き替えられたような違和感があった。森の風が消え、密閉空間が放つ圧迫感を肌で感じる。ズキズキと脳が痛むのは、その影響だろうか。


「ここ・・・どこですか・・・」


 最初にブラックアウトした視界が、次にノイズを経て、最後には世界を形成する。


「え・・・木?」


 四方八方には木の壁がそびえ立つ。しかし継ぎ目はどこにもなく、ここが天然の産物であることが分かった。シャルティは地下に潜ったはずが、なぜか木の内部にいた。


「ま・・・・じ」


「あ・・・マジマさん」


 お尻の下で、黒猫が伸びていた。どうやら同じ場所に来れたようで安心する。

 だが不思議とミエーレの姿は見当たらない。


「うえっ!?」


「ぐあっ・・・!」


「え・・・なんで!? 二人とも・・・危なかったらどうするんですか!」


「痛って・・・ったく。だから危なくしない為に来てるんだろ。それに俺は成人なんだよ、分かれ」


 普段は誰よりも子供っぽいくせに、こういう時にポッドは頼りになる。だがその言い方はズルい、これでは文句が言えないではないか。


「そうだよ。ミエーレさんを心配してるのはみんな同じなんだから」


「・・・はい」


 もしかしたら、わたしは自分のことしか考えていなかったのかもしれない。頬をバシバシ叩いて、深呼吸してみる。


「すぅーーーー・・・あれ」


 顔を上げると、そこには広いホールが広がっていた。入り口は太い幹に閉ざされ、奥に進む道しか残されていない。必然的に日光はないが、そこかしこで苔が淡い光を放っている。視界は薄暗いが、青い光がボンヤリと輝いているので、どうやら活動するのに問題はなさそうだった。


「・・・・?」

 

 足を動かした時、何か()()()に当たる。それが苔の光を反射しているおかげで、アイルとポッドの顔も十分に確認出来た。


「ミエーレさんは・・いないね」


「多分()()が違ったからじゃねぇかな」


「よし、なら進みましょうか!」


「・・・・まっじ?」


「マジマさん、せっかく気分が盛り上がっているので、すっごい嫌そうな声出すの止めてもらっていいですか・・・・」



 招かれし客は非力な子どもが三人と、謎の生物が一体。

 ここは難攻不落の迷宮、盲足の魔女が作りし家。

 さあ攻略、開始――――。


◆  ◆ 


 霧の森、禁忌四カ条。


 第一に、自他に関与する徒な傷害を禁ず。

 第二に、境界外への出入りを禁ず。

 第三に、肉の摂取を禁ず。

 第四に、性交渉を禁ず。


 以上悪しからず。



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