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第 7話 2年前のあれやこれや ①

 それは、2年ほど前のことだろうか。高校を卒業して間もない頃だと記憶している。季節も今と同じくらいの春と夏の中間、爽やかな晴れた一日だった。


「 いやぁ まさにドライブ日和という言葉は今日の日のために造語されたんじゃないかと思えるよ 」

「 当たり前じゃないですか 免許採りたての私のドライブデビューの日ですよ 天に祝福されないわけないじゃないですか ''民草どもよ さあ 我を祝福するがよい” て なんで普通に助手席に乗ってるんですか 」

「 誘われたから 」

「 誘ってないです 却下します これは従業員に対するプライバシーの侵害ですよ 厚労相に訴えますよ 違うか この場合労働基準局なんだっけ とにかく私のポテチをかってに食うなぁぁぁぁ 」

「 つれないこと言うなよツクヨ君 もとはうちの商品じゃないか 」

「 私が買い取った商品です 所有権は私に有ります それより 店いいんですか いきなり休みになんかしちゃって 」

「 君も昨日バイトに入ってゴールデンウィークの破壊力は目の当たりにしただろう うちみたいに都内でも家賃がワンランク下の地方民の群生地帯では長期休暇になると人っ子ひとりいなくなる こんな天気がいい日に誰も来ない店に1人で籠もってなんかいたくないよ 」

「 配送の人はどうするんです 荷物持って来てお店が閉まってたら困るんじゃないですか 」

「 よくある事だから 鍵は渡してあるんだ 要冷商品はちゃんと冷蔵庫に入れてってくれるんだよ 」

「 よくあるのかよ てか配送さんにメチャ迷惑かけてるじゃないですか 」


 人生初ドライブの日。この事を誰かに伝えたくなってバイト先のセブンスマートに立ち寄り自慢げにお菓子を買い込んでいたら、なぜか店長がついてきた。


「 それより店長 気付いてます さっきからずっと同じ車が後について来てます 」

「 片側1車線の一本道だからね 」

「 … 信号でミラー越しに突き刺さるような視線を感じました 」

「 君が青信号なのに なかなか発車しないからだよ 」

「 …… 」

「 それよりこの車どうにかなんなかったの なんか地味に目立つんだけど 」

 「 文句言わないで下さい 私が借りれる車これしかなかったんすから 汚さないで下さいね 」


 白の軽乗用車なのだけれどボディの両サイドにデカデカと ”トリオイ製薬” とペイントされている。


「 ところでツクヨ君 どこに向かってるの 」

「 わかんないです 風に吹かれて流れ旅でござんす 」

「 運転に自信がないから ただただ流されるままに進んでるよね 」

「 ぎクッ な なにをいっているのやら あ あなたに私の何がわかるっていうの エ エスパーなの 」


「 だいぶ景色が田舎っぽくなってきたねぇ 」

「 あッ 西洋風なお城が突如田んぼのなかに 」

「 ラブホだよ 興味があるなら…

「 お巡りさん変態がいます あッ アラビア風宮殿が突如田んぼのなかに … お巡りさん…

「 こんな田舎道で目立つ建物はたいがいパチンコ屋かラブホくらいだよ 」

「 それ思ったんすけど 百歩譲ってラブホはわかりますが パチンコ屋の巨大な建物が場違い感ハンパ無いんですけど こんなとこに建ててお客さんくるんですか 」

「 農家は朝が早いぶん日中は以外にやる事なかったりするんだよ 都会のパチンコ屋なんかより賑わってるなんて話も聞くしね 長閑な風景とは裏腹に一歩足を踏み入れたらそこは阿鼻叫喚の別世界だなんて 何事も表側から見えるものだけがすべてじゃないッていう教訓めいたお話なのさ 」


「 あッ 田んぼのなかに突如 … お地蔵さんだ 」


 それは、一般道から脇に折れた舗装されてない道のかたわらに、ぽつりんと在った。雨風にさらされて明らかに 永年何も施されていない下草に沈みかけて放置されたお地蔵さんだった。

 2人して車から降りて


「 どうします 」

「 暇だから手入れでもしてくか 」

「 以下同文 」

「 ただ 水と道具がいるぞ 」

「 さっき ホームセンターを見かけましたよ 」


 それから、ホームセンターまで逆戻り、ポリタンク、バケツ、軍手、束子、雑巾、ゴム手、植木鋏、と思い付く物を買っていった。精算は店長のカードで行なったが、結構な出費になったと思う。水はホームセンターでいれてもらった。途中、コンビニにより 菊の花束とワンカップとお饅頭も買った。


 作業は思いの外早く片付いた。下草を鋏で刈り、後はバケツと束子で擦るだけだ。仕上げに雑巾で拭けば、あら不思議、立派なお地蔵さんが現れた。

 ワンカップとお饅頭と菊の花を一輪、お供えして。


「 なにを お祈りすればいいんです 」

「 こういうのは手を合わせるだけでいいんだよ 」


 2人で膝を折り手を合わせた。


「 ツクヨ君 進むか戻るかは君が決めたまえ 」


 店長の指差す方を見遣ると、そこには、もう一体のお地蔵さんがいた。


「 うぉぉぉぉ 」


 私は拳を握りしめた。ここは、地蔵ロードだった。






 計 6体のお地蔵さんを磨いた。そして、次のお地蔵さんを視界に捉えているのだが、なんだか趣きが違う。

 此処までのお地蔵さんは道なりに約30m間隔で横を向いて立ち並んでいたんだが。7体目は、こちらを向いている。そして道は終わっている。T字路の突き当たりだ。


「 ツクヨ君 いよいよラスボスのお出ましだ 」

「 みたいですね 永かった旅も 漸くここで終わりを迎えるのですね 」


 しかし、呆気ない幕切れだった。そのお地蔵さんは手入れされていたのである。おまけに私達がしたのと同じような、お供えまでしてある。ワンカップとお饅頭と一輪の菊の花。

 なんか拍子抜けしたが、終わった。T字路の両側にも何もない。


「 違うぞツクヨ君 よく見るんだ 」


 お地蔵さんの背面は林になっている。林というか、森というか、お椀をひっくり返したみたいな小山だ。高さは20mくらいだろうか、そして、お地蔵さんの背後に道らしきものが上がっている。


「 何かあるんですかねぇ 」

「 だろうな これで何もない方が不自然だ 」

「 行ってみましょう 」


 少し手前に停めていた車を邪魔にならないよう停めなおした。とは言っても、脇道に入ってから車にも人にも会ってないのだけれど。


 お地蔵さんの横を抜け、私が先になり山道に踏み入った。一歩踏み込んだ瞬間に、音が変わった、空気が変わった、そして、世界が変わった。


「 やっぱり入らない方がいい 」

「 えッ 」

「 その なんだ さすがに18歳の女の子と人気のない林に入っていくのは…

「 何バカな事 言ってるんですか 行きますよ 」


 店長は冗談めかして言ったが顔は真剣だった。恐らく、私と同じようなものを感じたのだろう、いや、それ以上なのかもしれない。

 私は、少し赤くなった顔を悟られぬよう前を登った。


 道は険しくはないが歩きにくい、それでも人の手により造られたものとわかる部分がところどころ見受けられる。しかも、それが酷く旧いものというのも。

 とてもではないが日常的に使われている道ではないだろう。


山頂、と呼んでよいのだろうか。そこに着くのに、それ程の時間はかからなかった。そこは、10m2くらいの平な場所だった。そして、そこには、繁った木々に埋もれかけた、うち古びれた社祠があった。


「 ここがお地蔵さんラリーのゴールでいいんですかね 」

「 だろうね しかし これは流石に業者に頼まないと無理だぞ まずチェーンソーが必要だ 鋏じゃ太刀打ち出来ん とはいえ 出来るとこまでやりたいって思ってるんだろう 」

「 だめですか 」

「 いいよ ただし出来ることだけだ 」

「 ラジャー 」



 それから、ホームセンターに引き返し、熊手ぼうきやら鉈やら脚立やらなんやかや買い揃え、3時間ほど掛けて掃除した。そう、結局 掃除しただけなのだ。公有地だか私有地だかに勝手に立ち入って木なんか切ったらダメだろうという事だ。道端のお地蔵さんとは訳が違う。それでも、社に掛かる小枝なぞはすべて打ち払ったのだが。


「 どうッすか 」

「 うぅぅん あんまし変わんないね 」

「 そんなことないですよ 下草やら落ち葉なんか無くなっただけで随分陰気な感じしなくなりましたよ 枝も少なくなった分 明るくなった気もするし 」

「 ビフォーアフターように写メ撮っときゃよかったね じゃあ お供えして そのあとに社の端を借りてお弁当にしよう 腹ペコだよ 」

「 はいッ 」


 コンビニで買い足した、箱入りの和菓子とお酒の五合瓶と菊の花を お供えしてから 、手を合わせた。


 鈴の音が聞こえような気がした。



「 しかし ここ なんなんでしょうね 」

「 地主神の社だろうね 土地神なんて呼ばれる事もある。さしずめ此処は鎮守の杜といったところか 」


 掃除し終わった社の端に腰掛け2人でコンビニ弁当を頬張りながら話をする。


「 ここの社の規模からみて 小さな村で信仰されてた神様だろうね もちろん 見ての通り今では誰も信仰してない忘れられた神様だよ 」

「 神社の神様とどう違うんですか 」

「 同じだよ 有名かそうじゃないかくらいの差だよ 実際にその神様の力がどうなのかは正に神のみぞ知るだよ ただね 昔の人と今の人とでは信仰の定義がちがうからね ツクヨ君にとっての信仰ってなんだい 」

「 苦しい時の神頼みかな 」

「 それでいいと思うよ 災いを払い福を齎らす ただ昔は違った 信仰とは畏れだった 雨が降れば押し流され 降らなければ干からびる デッドラインの上を綱渡りしているようなもんさ そういう過酷な生活環境の中で生み出された生き抜くための知恵なんだ 畏れ自体を信仰する事により 逆に守ってくれる神様を創りだす そうやってバランスを保ったんだ 」

「 じゃあ ここの神様も 」

「 ああ 畏れの対象を神として祀りあげ 信仰した この辺の土地なら水害が多かったろうから 水の神様 さしずめ蛇神あたりなんじゃないのかな …


 店長が話しを止めて横を向いたのでそちらを見遣ると、


 女の子がいた。小学一年くらいか、社の角からこちらを伺っていた。切り揃えられた前髪が似合っている。日本人形の髪を思わせる。かわいい。ただ、格好が異様だ。着物?なのだろうか、ただの布のようにも見える。腰のあたりを帯ならぬ縄でしばってある。脚は裸足だ。

 私の脳裏には ”虐待児童” というワードが点滅する。あるいはスーパー小学生なのか?

 その女の子は、私達を凝視している。いや違う。彼女が見つめるその先には…



 お弁当だ。その子は、私達のお弁当をロックオンしているのだ。







この2年前の話は一話にまとめたかったんですが無理でした。次回、パートⅡです。

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