第 6話 三人よらばなんとやら
「 想定外な話すぎて いささか拍子抜けしたな もう少し現実に深刻な問題を覚悟していたんだが これではお話にならん 笑うどころか呆れるしかない 」
「 なんでっスか 物凄い話じゃないですか 俺 震えが止まんないっスよ 」
「 百目奇譚のネタとしてなら最高級だよ だがな 現実的に解決しなければならない問題としては最低だ 0点をつけるしかない 」
ここは、東京都内のオフィスビルにある出版社 ”百目堂書房” 編集室である。密談しているのは、私 ”鳥迫月夜” と、副編集長の ”三刀小夜” カメラマン兼記者の ”海乃大洋” の3名だ。
私は、祖父から死の間際に打ち明けられた、突拍子もない話を ようやく話し終えたところだ。出来るだけ正確に伝えられるよう心掛けたつもりだが。
「 ツクの読みどうり じいさんの話は おそらく本当の事なのだろう と私も思う ボケ老人の世迷言にしては整いすぎている つまり 本当の話なのだが真実ではない っといったところか 」
「 それって どういうことっスか 」
小夜の言葉に海乃が問う。
「 整理してみよう 」
そう言って小夜はホワイトボードに書き始めた。
○ 酉狩清次 帝国陸軍 特務部隊 少将
○ 終戦間際特殊任務で中国地方山中に赴く
○ 目的地で動物に遭遇 葛篭に入れて運搬
○ 葛篭を広島へ運搬
○ 到着間際に目的地を広島から長崎に変更
○ 広島と長崎に原子爆弾が投下される
○ 終戦後 遠縁の鳥追家を訪ねる
○ 鳥追秀一の戸籍を使用する
○ 葛籠を今も保管し続けている
「 ツクが聞いたじいさんの話をすべて本当の話と仮定するならば その中から汲み取る事の出来る真実の部分だけを抜粋してみた 月㮈とのロマンスとトリオイ製薬起業に関しては関係なさそうなので割愛していいだろう 」
「 敵に情報が漏れてた事と戦犯のとこは入れないんすか 」
「 人にそう聞かされただけだ それを真実と断定する事は出来んだろう 」
「 そっか 」
「 ツクの話から じいさんはかなり日本の敗戦という現実に打ちのめされていた 自分が任務を遂行する事が出来ていたらという妄執に取り憑かれていたとしても何の不思議もない そういう じいさんの想いがこの話を歪なものに作り変えているように思えるよ 」
そうなのだ、祖父はそれを ”呪い” と言ったのだ。
「 で だ この中でやはり気になるのが 広島 長崎 原子爆弾 という3つのキーワードだ ここが妙に気にかかる 逆に言えば この符合さえなければ 単なるありふれた笑える都市伝説にすぎん 実際 戦況が悪化してからは 軍部の一部はオカルトに傾倒していった そんな都市伝説的な話はいくらでも残っている さっき話題になった ”レイ” なる超能力少女も帝国陸軍が編成した特殊部隊の出身ということになっている いわゆる ”苦しい時の神頼み” 日本人らしい思考だよ 」
「 じゃあ サヤさんも単なる偶然って考えるんですか 」
「 それはどうかな こう考えてはどうだろう 敵側の諜報部には ”日本はまだ戦況を覆す事の出来る強力な秘密兵器を有している” とだけ伝わったとしたなら 」
” おぉぅ! ” と海乃と声が揃ってしまった。なんか恥ずかしい。
「 そっか それがまさか葛籠に入った小動物なんて普通考えつかないっスよね 」
「 もし本当にそんなカワイイのがホワイトハウスに送り届けられてたら 逆に和解して戦争終わらせれたかもしれませんね 」
「 イタチは屁をこくぞ スカンク級のやつだ ある意味毒ガス兵器だ 大統領の逆鱗に触れて滅ぼされたかもしれん 」
なんか話が気の抜けた方向にむいたが、もし、小夜の推測が間違っていなければ、敵の秘密兵器を自国の秘密兵器で先に叩く。十二分にあり得る話のような気がする。
「 だがな 相手はあの鳥迫秀一だ この話 まだなんか薄気味悪い物が隠れているような気がしてならない 」
[ そう言いながら小夜はキーボードに酉狩清次と入力する。クリック。『チッ!ミスった!』即パソコンの電源を落として強制終了する。クリックした瞬間に指先から伝わった感触。これはよくない、迂闊だった。社内のパソコンは全て海外のサーバーを幾重にも経由してある。足が付く事は、まずないだろう。しかし、これはよくない兆候だ。この感覚は知っている。19年前、友を失った時と同じだ。]
「 サヤさん、どうしたんですか 」
「 いや なんでもない この件についてはネットは一切使用しないでいこう 国家が絡んだ話だからな ツクはもう手遅れだと思うが 」
「 テヘッ そりゃもうググりまくっちゃいましたよ 」
「 だろうな 年寄りはこの辺の若者事情がわかってないのが困りものだ まあ その端末でツクに辿り着くのは不可能だろうが 海乃 新しいやつを後で渡しておいてくれ 前のやつの処分も頼む 」
「 エッ 私のスマホって そんなことになってたんですか 」
「 当たり前だろう トリオイの跡継ぎに市販のスマホなど使わせるわけないだろう 」
「 ひェ〜ィ 私 軽いトラウマを患いそうなんですけど 私は鳥籠の鳥ですか 十姉妹なんですか 」
「 ツクヨちゃんは僕だけの木の葉ミミズクだよ 」
「 海さん意味わかんないです 」
「 まあ ここでいつまでもグダグダやっててもしかたないから ご開帳とさせていただくか。ツク、どういう手筈になっている 」
「 場所はわかっています 東京近郊のおじいちゃんの私有地です すでに私の私有地になってるんですけど 鍵は車田さんが管理してて言ったら渡してくれるらしいです 」
「 そういや 車田のおっさんは何してるんです 」
「 おじいちゃんが車田さんには頼るなと 」
「 やつは答えの分かっている問題を処理する事に関しては有能な人間だが 答えが分かっていない問題に関しては まったくの役立たずだ じいさんはその辺をよく理解出来ている そもそも車田でなんとか出来るならとっくにしてるさ 」
「 なんだよ 使えないおっさんだなぁ 」
「 ネットを使わない以上ナビも使えない 明日は下準備に当てて明後日行ってみるか 」
「 了解っス なんか興奮して眠れそうにないっスよ 」
「 でも 神様なんて本当にいるんですかね 」
「 何を言ってるんだ ツク お前 神様に会ったことあるじゃないか 」
「 えッ 」
そうだった。私はすでに神様に会っているんだった。鎮守の杜の頂で、愛らしい童の神様に
都市伝説ハンター小夜の鋭い三枚刃が冴え渡った今回は書いてて気持ちよかったっス。