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第26話 八島ユキあれやこれや ②

 ウリンバラユウリと名乗った男は歳は20代半ばくらいだろうか、背は結構ある、ぱっと見スリムだが筋肉質に見て取れる、黒のカーゴパンツに黒のTシャツに濃い緑のフィールドジャケットを羽織った出立ちは何と無くよれっとしている、無造作な黒のロン毛も更によれっと感を醸し出す。顔は精悍ではあるがどことなく優しげにも見えユキ的にはどストライクなのだが、飄々とした態度が気に入らない。


「 八島流次期当主として私が相手するわ 」

「 ほぉお 別にセクシャルハラスメントもエイジハラスメントもするつもりはないが 女剣士は苦手でね 昔し姉貴に七ヶ所骨折させられたトラウマがあるんだ 遠慮しとくよ 」

「 黙りなさい 看板に泥を塗られて見過ごす訳にはいかないわ 構えなさい 」

「 へいへい 君は剣道の構えだね 綺麗な構えだ だが僕はスポーツマンシップなんて持ち合わせてないよ 」

「 うるさい その長い太刀を見ればわかるわ 」

男の手にする木剣は通常の物より15センチ以上長く異様に見える。

「 うちは代々これなんでね 」

「 さっさと構えなさい 」

「 もう構えてるよ 」

 たまにこういうバカがいる、自然体な構え、剣の道を舐めるな。今まで木剣で本気で人を打った事など無い、そんなことしたら本当に骨折してしまうだろう、でもコイツなら構わない。

 

 ユキは中段から上段に構えタンッと踏み込む、垂直に打ち据える、剣道の面である。


 どうでる


 男は剣を両手で掴みブンと弧を描くようにユキの一刀を打ち払う、カンと乾いた木の音が道場に響く。


 やはり剣道とは違うか、躱せば下手をすると肩口に入り鎖骨を砕かれてしまう、受ければ後手に回らざるを得ない、払えばドローだ。相手はサウスポー、やり辛い、試合で何回か当たったことはあるが対戦経験が少なすぎる。ならば


 ユキはすっと八相に構えた、八相とは高く構えたバッティングホームみたいな感じだ。そしてそのまま


「 うりゃァァァァ! 」


 斜め袈裟にフルスイングだ。


 ガン 受けた。


 タンタン ユキが間合いをイッキに詰める。

 メンメンコテコテメンドウメン、ユキが乱れ打つ。相手に反撃のいとまなど与えない、男は防戦一方で辛うじて受けきる。さらに間合いを詰める。


「 鍔迫り合いはするな 受ける鍔も籠手もない 指ごと削ぎ落とさるるぞ 」

「 うッるッさァいィィィィ!」


 そんな言葉などお構いなしに踏み込む。


 ドン 至近距離、剣を合わせたまま男が肩から突っ込んできた、ユキは思わず後ろにバランスを崩す。まずい、と思った刹那 ヒュン 切っ先が斜め下から対角に空を切る。ユキの顔の1センチほど手前を掠めた。体制を立て直さなければと思う間も無く男の突きがユキの右頬を掠める。髪の毛が舞い散る。なんとか男の左に躱すが男は逃さない、次が来る、が反応しきれない。


 カキン


 ユキは時間を静止させた。


 そうか、こうやって使えばいいんだ。


 辛うじて視界の端に男を捉えていた。今にも真横にその長すぎる刀身を払おうとする刹那だ、これは避けきれない、ユキは真横から直撃を食らい腕あるいは肋骨が砕かれるだろう。しかし男の攻撃と軌道さえわかっていれば話は別だ、最短で躱して男が開ききったところに上段から振り下ろしてやる。下手をすると頭蓋が砕けてしまうが知った事じゃない、お前が悪いんだ。


 さあ始めよう。


 ユキが静止を解く瞬間。ギロリ。視界の端で男の目が妖しく光った。


 パリンッ 時間がほどけた瞬間、ギュィィン 真横に払われるはずの男の剣が強引に真上に振り上げられた。「 何!」そして上段から一刀。咄嗟に受けたユキの剣は鈍い音を立てて弾け飛ぶ、男の剣はそのまま真下にユキのセーラー服のスカートと畳を切り裂いた。

 オォォォ 2人の対戦を見守っていた外国人門下生たちが声を上げる、その声はユキの前開きになったスカートを見てなのか切り裂かれた畳を見てなのかは定かではない。


「 ごちそうさまでした 」


 男は剣を袋にしまい礼をして立ち去った。ユキはしばらく放心してその場にスカートの前を押さえて座り込んでしまっていた。ふと手元に何かが落ちているのに気がつく、ボールペンだった。セブンスマートと書かれてあった。






 それから、私は稽古に明け暮れた。毛嫌いしていた剣術も父に教えを乞うた、別にあの男にリベンジする為ではない、知ってしまったのだ、刹那の時間を。命を交わしたあの一瞬を 私は時を止めれば永遠の時間を費やす事が出来る、でもそれでは届かない、あの一瞬には、あそこが私の居場所だ。


 それはまだ暗い早朝に近くの公園で木剣を振っている時だった。


 ガシャン


 公園の裏にある建設現場からである。


「 手間かけさせやがって とっととくたばっちまえよ 裏切り者が 」

「 ぬかすな外道 きさまらの仲間になった覚えなどない 」

「 まあまあ そうけんけんしなさんな 穏便に死んで貰えるとありがたいんだがね 」


 男性2人と1人の女性が口論している、が内容が穏やかではない、しかも女性は地に伏している。


「 あなた達 何をしているの 」

「 あァァァ 最悪 なんで人がいんだよ 」

「 お前が派手に音たてるからだろう 」

「 でどうすんだよ てか超絶可愛いくねぇ 持って帰ろうぜ 」

「 バカ これ以上面倒増やしてどうする 」


「 大丈夫ですか 」

 ユキは女性に近寄り手をかけた、しっとりと冷たい感触が伝わる、女性は血濡れていた。

「 逃げなさい コイツらは危険よ 早く 」

「 ムリ 見られた以上絶対ムリ 」

「 早くするぞ 人が来る 」

 ユキはすっと剣を構えた。

「 なんだそれ お嬢ちゃん超ウケるんだけど 」

 タン と踏み込み上段から振り下ろす。ベキッ 「 ぐゥァッ 」男の肩口にヒットした。

「 バカ油断しすぎだ 素人が早朝に木刀持ってうろついてるわけねぇだろう 」

「 ッいってぇなぁ でも嬢ちゃん 手加減したよな 今ので肩砕いときゃあて後悔するぜ 」

「 離れなさい 」

 ユキの背後から女性が声を上げる、わき腹を押さえながら立ち上がっていた。するとユキと男らの間に地面からいくつかの小石が宙に浮かび上がり浮遊したまま音を立てて高速回転を始めた。

「 やろっ まだ力が使えんのか まじい 」

「 遅い 」

 女性の声と共に回転する小石が凄まじいスピードで男らに打ち出された、と同時に「 逃げるわよ 」


 傷ついて血濡れた女性に肩を貸しユキは走っていた。わけがわからない、が この状況が普通ではないのだけは分かる。

「 あなた達はなんなの 」

「 ガーディアンズよ 」

「 ガーディアンズ?」

「 そう サイキッカーの集団 」

「 サイキッカーってエスパーとか超能力ってこと 」

「 そうよ 見たでしょ 私は念動力が使えるわ 」

「 じゃああの2人も 」

「 ヤツらは瞬間移動するわ 二人一組で磁石みたいに引き寄せたり反発したりする ヤツらが手を合わせるのが発動条件よ あなたは警察に行きなさい 余計な事を言わずにただ変なヤツらに追いかけられたって言えば あいつらもそうそう手は出して来ないはずよ 」

「 あなたはどうするの 」

「 私は自分でなんとかするわ 私はね 仲間との約束を果たせなかったの 革命は果たせなかった これは罰なのよ 」

「 そんな…

「 離れて 」


 ドン 突然女性に突き飛ばされた。


 女性を挟み込む形に2人の男がいた、2人の手にした奇妙な形をした刃物は女性の体に突き立てられていた。すると一瞬で3人の姿が搔き消える。


「 今日見たことを話すな 話したら殺す 」

「 今日聞いたことは忘れろ さもなくば殺す 」


両方の耳元で同時に男達の声が囁いた。












八島ユキ編は2話で終わる予定でしたが、ちょっと物足りない感じがしてガーディアンズ狩りまで入れてしまいました。次で終わる予定なんですがどうなることやら

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